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【プロローグ】北の流刑地
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私こと、西の帝国第2皇女アルマ・ヴァロリアの人生は散々だ。
婚約破棄を15回も喰らった。
なのに、私の机には今も求婚の手紙がうず高く積まれてる。
というのも、私との婚約を破棄した男たちが次々に奇跡のような大出世を遂げたからだ。その結果、どいつもこいつも婚約破棄が目的で求婚してくる。ヤクザまでワンチャン狙いで求婚してくる。皇女だぞ、こっちは。
で、私は今、極寒の流刑地に来ている。
「お姉ちゃんを殺さないで!」
と、掘立て小屋の中で私の前に立ち塞がってるのは、後ろでゲタゲタ笑ってる元聖女様の可愛らしい弟だ。
「そんな物騒なことしないわよ」
「皇女様、雰囲気変わったなぁ」
と、流刑人の元聖女様は椅子の上に膝を立て、ビールをあおっている。相変わらず乳がデカい。
私はテーブルの上にドスンと荷物を降ろした。
「そりゃ貴女。2年で15件も婚約破棄喰らったら変わりもするでしょう」
違いねぇと、ゲタゲタ笑うこの女、元聖女のソフィア・ローズに、私は無実の罪を着せられて最初の婚約破棄を喰らった。
帝国に帰らされる馬車の中でめそめそ泣いているだけだった私を殴ってやりたい。今だったら、その場でコテンパンに吊るし上げてやるんだけど。
私が腰を降ろすと扉をノックする音がして、人の良さそうな髭の男が木箱を抱えて入ってきた。
「雑貨屋の主人じゃない。どしたの、急に?」と、ソフィアが出迎える。
「頼まれてたソーセージが入荷したんで持ってきましたよ」
「わざわざ持って来てくれたの? 取りに行くのに」
「いえいえ。ソフィアさんにはお世話になってますから」
「そう? 悪いね」
流刑といっても、この人口40人ほどの最果ての村から出られないだけで、監獄に閉じ込められてる訳じゃない。元聖女はスキルを活かして村人相手の治癒魔法で生計を立てている。が、こんな女にご加護が続いてるなんて、天使様もどうかしてる。
雑貨屋の主人を見送ったソフィアに声を掛ける。
「しばらく世話になるわよ」
「それはいいけど、宿賃はくれるの?」
「いくらよ」
ソフィアが前の椅子にドカッと腰を降ろし、身を乗り出してきた。
「一晩で銅貨10枚ってとこでどう?」
それで吹っかけたつもり? 皇女、舐めてんのか。
「金貨10枚出すわよ」
「ひゅー、太っ腹ぁ」
と、ソフィアは横に座って具の少ないパスタを食べている弟の頭を撫でた。
「それだけ貰えりゃ、ダヴィデを学校に行かせてやれるかもなぁ」
「貴女、何もかもが偽物だったけど、料理だけは上手かったでしょ。美味しいもの食べさせなさいよ」
「まあ、そのくらいなら。けど、この辺だと、あんまりいい食材が流通してないんだよなぁ……」
と、ソフィアは雑貨屋の主人が置いて行った木箱を開けた。
「ソーセージ喰う? 素朴な味だけど、絶品なんだよ」
「いただこうかしら」
「じゃ、ちょっと待ってて」
ソフィアは木箱の中のソーセージを出しながら、私に尋ねた。
「それで? 何しに来たの? こんなとこで私なんかとバカンスって訳じゃないんだろ?」
「貴女のお陰で、求婚の手紙が引きも切らないのよ」
「いい話じゃない」
「ちっとも良くないわよ! どの手紙も、婚約破棄狙いなのが透けて見えるのよ!」
「はっはーん。さては皇女様、愛のない求婚に嫌気が差して逃げて来たってワケだ」
「あら、ソフィア。私にそんな口をきいていいのかしら? 今、帝国中が息を呑んで見詰めているのよ。私が貴女にどんな復讐をするのか」
「おー、こわっ! 注目の的ってワケだ」
ソフィアが突然、ピンっときた顔をした。
「なるほどね。私のところにいる間は、求婚の手紙が届かないって算段だ」
そうよ。悪い?
この世で一番憎んで当然の相手のところだけが安息の地だなんて、ホントに散々な人生だ。
皇女だぞ、こっちは。
婚約破棄を15回も喰らった。
なのに、私の机には今も求婚の手紙がうず高く積まれてる。
というのも、私との婚約を破棄した男たちが次々に奇跡のような大出世を遂げたからだ。その結果、どいつもこいつも婚約破棄が目的で求婚してくる。ヤクザまでワンチャン狙いで求婚してくる。皇女だぞ、こっちは。
で、私は今、極寒の流刑地に来ている。
「お姉ちゃんを殺さないで!」
と、掘立て小屋の中で私の前に立ち塞がってるのは、後ろでゲタゲタ笑ってる元聖女様の可愛らしい弟だ。
「そんな物騒なことしないわよ」
「皇女様、雰囲気変わったなぁ」
と、流刑人の元聖女様は椅子の上に膝を立て、ビールをあおっている。相変わらず乳がデカい。
私はテーブルの上にドスンと荷物を降ろした。
「そりゃ貴女。2年で15件も婚約破棄喰らったら変わりもするでしょう」
違いねぇと、ゲタゲタ笑うこの女、元聖女のソフィア・ローズに、私は無実の罪を着せられて最初の婚約破棄を喰らった。
帝国に帰らされる馬車の中でめそめそ泣いているだけだった私を殴ってやりたい。今だったら、その場でコテンパンに吊るし上げてやるんだけど。
私が腰を降ろすと扉をノックする音がして、人の良さそうな髭の男が木箱を抱えて入ってきた。
「雑貨屋の主人じゃない。どしたの、急に?」と、ソフィアが出迎える。
「頼まれてたソーセージが入荷したんで持ってきましたよ」
「わざわざ持って来てくれたの? 取りに行くのに」
「いえいえ。ソフィアさんにはお世話になってますから」
「そう? 悪いね」
流刑といっても、この人口40人ほどの最果ての村から出られないだけで、監獄に閉じ込められてる訳じゃない。元聖女はスキルを活かして村人相手の治癒魔法で生計を立てている。が、こんな女にご加護が続いてるなんて、天使様もどうかしてる。
雑貨屋の主人を見送ったソフィアに声を掛ける。
「しばらく世話になるわよ」
「それはいいけど、宿賃はくれるの?」
「いくらよ」
ソフィアが前の椅子にドカッと腰を降ろし、身を乗り出してきた。
「一晩で銅貨10枚ってとこでどう?」
それで吹っかけたつもり? 皇女、舐めてんのか。
「金貨10枚出すわよ」
「ひゅー、太っ腹ぁ」
と、ソフィアは横に座って具の少ないパスタを食べている弟の頭を撫でた。
「それだけ貰えりゃ、ダヴィデを学校に行かせてやれるかもなぁ」
「貴女、何もかもが偽物だったけど、料理だけは上手かったでしょ。美味しいもの食べさせなさいよ」
「まあ、そのくらいなら。けど、この辺だと、あんまりいい食材が流通してないんだよなぁ……」
と、ソフィアは雑貨屋の主人が置いて行った木箱を開けた。
「ソーセージ喰う? 素朴な味だけど、絶品なんだよ」
「いただこうかしら」
「じゃ、ちょっと待ってて」
ソフィアは木箱の中のソーセージを出しながら、私に尋ねた。
「それで? 何しに来たの? こんなとこで私なんかとバカンスって訳じゃないんだろ?」
「貴女のお陰で、求婚の手紙が引きも切らないのよ」
「いい話じゃない」
「ちっとも良くないわよ! どの手紙も、婚約破棄狙いなのが透けて見えるのよ!」
「はっはーん。さては皇女様、愛のない求婚に嫌気が差して逃げて来たってワケだ」
「あら、ソフィア。私にそんな口をきいていいのかしら? 今、帝国中が息を呑んで見詰めているのよ。私が貴女にどんな復讐をするのか」
「おー、こわっ! 注目の的ってワケだ」
ソフィアが突然、ピンっときた顔をした。
「なるほどね。私のところにいる間は、求婚の手紙が届かないって算段だ」
そうよ。悪い?
この世で一番憎んで当然の相手のところだけが安息の地だなんて、ホントに散々な人生だ。
皇女だぞ、こっちは。
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