黒纏恭子さんの日常

みぬま

文字の大きさ
上 下
3 / 3
黒纏恭子さんの日常

3日目

しおりを挟む
三山さんざん~、三山です。お降りの際はお足元にご注意ください』


乗り降りのために少し左に傾いた車体の後方から、今日も黒纏恭子さんは乗ってきた。

今日は濃紺のAラインスカートに水色と白のストライプシャツ。
そして上着は黒のノーカラージャケットだ。

今日も美しい黒をお召しですね、恭子さん。


本日は僕の通路を挟んだ斜め後方にある席しか空いていないため、恭子さんは其方そちらに座るだろう。

あぁ、僕の横を通る時しか近くに触れ合えないなんて。
じっくり舐めるようにチラ見しよう。


スッと隣を通った時にひらりと揺れるスカート。
漂う恭子さんの髪の毛とはまた違う爽やかな香り。

これはスカートの裾にでも香水を付けているのだろうか。
なんて素晴らしいそそる香りなんだ。

その香りをいつまでも鼻にしたためておきたい...

ワインのテイスティングをするかの如く目を瞑り、深く吸った香りを長く味わうために、呼吸を最低限に抑える。

一種の精神修行(煩悩)をしている内に、バスは終点へと着いた。

「大山駅ぃ~、大山駅前、終点です。
皆さまお忘れ物がございませんよう、ご注意ください」


恭子さんが横を通り抜けるまで座っていたいが、流石にそれは隣に座るジェントルマンから御叱責ごしっせきたまわるだろう。


仕方なく席を立つために、前座席の手掛けハンドルを握った時。
先程まで必死にティスティングよろしく香りを味わっていた、あの匂いがすぐ横に。

怪しまれないように慎重に素早く斜め後方を確認すると、すぐ近くに恭子さんが立っているではないか。

僕は慌てて彼女のすぐ後ろを陣取れるよう、立ち上がった。

なんと言うことだ。
僕の目の前には恭子さんが!

僕の丁度口元あたりに頭頂部が来るので、恭子さんの身長はおおよそ150cm後半だろう。

また新たな情報を得てしまった。


そうして幸福な気持ちに包まれながらバスを降りた僕は、一路勤務先へと向かった。

恭子さんとはここでお別れだ。

僕はここから電車に乗り換え、2駅先の会社へ一度向かう。
恭子さんは街道の方へ歩いていくところを見ると、あの周辺のビルに勤め先があるのだろう。



僕、宍戸ししど 恭時郎きょうじろうは、建材施工会社の営業をしている。

営業とはいえ小さい会社なので、人手が足りない時は職長に、期日が迫っている現場には職人に混じって一緒に施工している。

本日も出勤早々、職人の病欠補填に走らされる事となった。


「えぇ~!ヤマさん、ギックリ腰?
じゃあ、その現場しばらく行かないといけません?」

「いやぁ、そんなに急ぎの物件では無いから、明後日から他の職人さんにバトンタッチしてもらうよ。
だから、今日・明日はお願い!」

「分かりました。
どっちにしろ、今日そこの現場行く予定だったので今から行きますね」

「助かるよぉ」

両手を合わせて、「マジ神、宍戸神」と呟いている部長はだいぶ高校生の娘さんに感化されているようだ。

そういや、まだ買い物とか一緒に行ってくれるって言ってたな。
パパはお財布かな?


そして僕は準備を整え、一路現場へと向かった。

本日は設計担当の方に使用する建材の、変更承認を貰うために現場に行く予定だった。

実はこの現場、他の現場で一緒に仕事をした現場監督以外は誰がいるのか全く知らない。

工事が始まったばかりで、本日が一番最初の設計定例でもあった。

前の物件は、やたら気の短いおっさ....ジェントルマンが設計者だったが、今回はどんな人だろうか。

会って早々、怒られたりしたら嫌だなぁ...なんて、少しブルーな気分になっていると、とうとう着いてしまった。

はぁぁぁあ...


まず、現場に入る前に所長に挨拶をするために現場事務所へと寄った。

これやっとかないと、後々面倒なんだよなぁ。
めんどうなカルチャーだよ、本当。
思わずルー大柴になっちゃうくらいには面倒だわ。


と、ぶつくさ心の中で呟きながら現場所長を探すと、事務デスクには小柄な人物がいた。

おや?所長縮んだ??

同じライトグレーの上下揃いの会社ロゴ入り作業服を着てはいるが、あの所長はクマのようにデカい。

ということは、人違いか。ふんふーん


「こんにちは、ライツ建材です。飯島所長はいらっしゃいますか?」

と問いかけると、その人は顔を上げこちらを見据えた。

「お疲れ様です。飯島さんは今現場です。
お急ぎなら呼びましょうか?」


少しハスキーな落ち着いた声
前髪はなく、センターよりやや右寄り分けの前下がりで、右耳に髪の毛を掛けたショートカット
くっきりとしたアーモンドアイ



何が言いたいかお察しだろう。
そこには僕のアイドルがいた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...