36 / 41
ずっと大好き 6
しおりを挟む
★
セーレと初めてしたときのことを、今でも覚えている。あのとき、俺はすごく幸せだったけど、セーレが十年の眠りについてから、こうも思うようになった。ああいうことをするのは、すごく悪いことなのかもしれないって。
でも人は恋をして、その人と愛し合うものだ。セーレに借りた小説にもそう書いてあった。他の人はどうなんだろう。俺みたいに罪悪感を抱いているんだろうか。
勤務を終えて自宅へ戻ると、父も帰宅していた。彼は俺を横目で見て、
「今日は早いな」
「うん」
俺は父と一緒に、家政婦さんが作ってくれた食事を食べた。夕飯で一緒になっても、父と話すことはない。父は、俺が医師になったことも、バーネットとの縁を切らないことも不満なんだ。家を出ることもできるけれど、そしたら母がこの家に帰る可能性が途絶えてしまう気がした。
父は新聞を読みながらパンを食べている。無表情でパンをかじるから、全然美味しそうに見えなかった。見た目も中身も、父さんと俺は全然似ていない。父さんはアースベルのために生きていて、それ以外のことはどうでもいいと思っているのだ。
ふと、思いついたことを尋ねてみた。
「ねえ、父さん」
「なんだ」
「母さんと初めてえっちしたとき、どんな感じだった?」
そう尋ねたら、父が激しく咳き込んだ。家政婦さんが慌てて水を持ってくる。父は水をあおり、咳き込む。のち、驚愕の目で俺を見た。
「おまえ、なにを言ってるんだ……」
「あんまり仲良くなかったんでしょ?」
「……それは、べつに、仲がいい必要はないだろう」
父は、珍しく動揺していた。
「でもやっぱりかわいいとか、きれいとか、言うよね」
「おまえはなにが言いたいんだ。母親を呼び戻せとでも言うつもりか」
父はしびれを切らしたように俺をにらんだ。
「いや、それは今更だし……」
俺はもう26だ。母さんが恋しいって歳でもない。
「くだらないことを聞くな」
ばさりと新聞を鳴らし、父はテーブルを立った。
「父さんが母さんとしたのは、子供を作るためだよね。そのあとはした?」
その問いは、完全に無視された。そのあと、階段で転んだらしき音がした。俺はパンを咀嚼しながら、アーカードにも聞いてみようか、と思った。
セーレと初めてしたときのことを、今でも覚えている。あのとき、俺はすごく幸せだったけど、セーレが十年の眠りについてから、こうも思うようになった。ああいうことをするのは、すごく悪いことなのかもしれないって。
でも人は恋をして、その人と愛し合うものだ。セーレに借りた小説にもそう書いてあった。他の人はどうなんだろう。俺みたいに罪悪感を抱いているんだろうか。
勤務を終えて自宅へ戻ると、父も帰宅していた。彼は俺を横目で見て、
「今日は早いな」
「うん」
俺は父と一緒に、家政婦さんが作ってくれた食事を食べた。夕飯で一緒になっても、父と話すことはない。父は、俺が医師になったことも、バーネットとの縁を切らないことも不満なんだ。家を出ることもできるけれど、そしたら母がこの家に帰る可能性が途絶えてしまう気がした。
父は新聞を読みながらパンを食べている。無表情でパンをかじるから、全然美味しそうに見えなかった。見た目も中身も、父さんと俺は全然似ていない。父さんはアースベルのために生きていて、それ以外のことはどうでもいいと思っているのだ。
ふと、思いついたことを尋ねてみた。
「ねえ、父さん」
「なんだ」
「母さんと初めてえっちしたとき、どんな感じだった?」
そう尋ねたら、父が激しく咳き込んだ。家政婦さんが慌てて水を持ってくる。父は水をあおり、咳き込む。のち、驚愕の目で俺を見た。
「おまえ、なにを言ってるんだ……」
「あんまり仲良くなかったんでしょ?」
「……それは、べつに、仲がいい必要はないだろう」
父は、珍しく動揺していた。
「でもやっぱりかわいいとか、きれいとか、言うよね」
「おまえはなにが言いたいんだ。母親を呼び戻せとでも言うつもりか」
父はしびれを切らしたように俺をにらんだ。
「いや、それは今更だし……」
俺はもう26だ。母さんが恋しいって歳でもない。
「くだらないことを聞くな」
ばさりと新聞を鳴らし、父はテーブルを立った。
「父さんが母さんとしたのは、子供を作るためだよね。そのあとはした?」
その問いは、完全に無視された。そのあと、階段で転んだらしき音がした。俺はパンを咀嚼しながら、アーカードにも聞いてみようか、と思った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
733
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる