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ずっと大好き 6

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 セーレと初めてしたときのことを、今でも覚えている。あのとき、俺はすごく幸せだったけど、セーレが十年の眠りについてから、こうも思うようになった。ああいうことをするのは、すごく悪いことなのかもしれないって。

でも人は恋をして、その人と愛し合うものだ。セーレに借りた小説にもそう書いてあった。他の人はどうなんだろう。俺みたいに罪悪感を抱いているんだろうか。


 勤務を終えて自宅へ戻ると、父も帰宅していた。彼は俺を横目で見て、
「今日は早いな」
「うん」

 俺は父と一緒に、家政婦さんが作ってくれた食事を食べた。夕飯で一緒になっても、父と話すことはない。父は、俺が医師になったことも、バーネットとの縁を切らないことも不満なんだ。家を出ることもできるけれど、そしたら母がこの家に帰る可能性が途絶えてしまう気がした。

父は新聞を読みながらパンを食べている。無表情でパンをかじるから、全然美味しそうに見えなかった。見た目も中身も、父さんと俺は全然似ていない。父さんはアースベルのために生きていて、それ以外のことはどうでもいいと思っているのだ。
ふと、思いついたことを尋ねてみた。

「ねえ、父さん」
「なんだ」

「母さんと初めてえっちしたとき、どんな感じだった?」
 そう尋ねたら、父が激しく咳き込んだ。家政婦さんが慌てて水を持ってくる。父は水をあおり、咳き込む。のち、驚愕の目で俺を見た。

「おまえ、なにを言ってるんだ……」
「あんまり仲良くなかったんでしょ?」
「……それは、べつに、仲がいい必要はないだろう」
 父は、珍しく動揺していた。

「でもやっぱりかわいいとか、きれいとか、言うよね」
「おまえはなにが言いたいんだ。母親を呼び戻せとでも言うつもりか」

 父はしびれを切らしたように俺をにらんだ。
「いや、それは今更だし……」
 俺はもう26だ。母さんが恋しいって歳でもない。
「くだらないことを聞くな」

 ばさりと新聞を鳴らし、父はテーブルを立った。
「父さんが母さんとしたのは、子供を作るためだよね。そのあとはした?」
 その問いは、完全に無視された。そのあと、階段で転んだらしき音がした。俺はパンを咀嚼しながら、アーカードにも聞いてみようか、と思った。
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