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海の日編(上)
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「なあ、おまえ俺のことどう思ってる?」
こちらを見下ろす切れ長の瞳。はだけた浴衣から覗く肌。黒髪はさらさらしていて、揺れるたびに、シャンプーの匂いが香った。どくどくと、自分の心臓が鳴っているのがわかる。畳の上で、髪がきしりと音を立てた気がした。
私はいま、嫌いな上司に押し倒されています──。
★
「なあ、旅行いこうぜ」
ことの始まりは、私の嫌いな上司、三澤晃(みさわあきら)がこう言い出したことだった。彼は暑さに弱いらしく、毎日暑い暑いと連呼していた。
うるさいが、突っかかると余計に暑苦しいし、絶対返り討ちにあうので、私──原田ミチは、黙ってパソコンを叩いていた。三澤があまりにも暑いと連呼するから、なんだか首筋が汗ばんできた。
なんて言うんだっけ、こういうの。洗脳?
私は手元の資料を見下ろした。今組んでいる記事は、痴漢の心理についてだ。わざわざ大学まで行って心理学について聞いてきたのである。
痴漢の心理を解き明かす必要が、果たしてあるのだろうか? 痴漢の心理がどうであれ、「しね」という単語で表現すれば十分だと思うのだが。
しかも、話を聞いた心理学の先生はかなり真面目に語ってくれて、おまけに論文まで貸してくれたので、いやにかっちりした記事が出来上がってしまった。三澤いわく、
「すごいけど、この記事だけ浮きすぎ」
そんなわけで、どうしていいか途方にくれているところである。
私の嫌いな上司──三澤晃は、どんなしょうもない記事にも手を抜かない。というより、しょうもない記事が大好きなのだ。
色のない髪に、切れ長の瞳。長い手足。さして身なりに気を使っているようには見えないのに、三澤が着ている服は妙に洒落て見える。一緒に取材に行くと、電車に乗っているだけで女性の視線を集める。
だから──見た目だけならかなりの高級品なのだろう。見た目だけなら。中身はただのおっさんだし。電車に乗って見てるのはグラビアアイドルが載った吊り広告だし。
高級品といえば、私が手にしている見本誌には「すっぽん」やら「バイアグラ」などという文字が踊っている。察しのいい人ならばすぐわかるだろう、うちが作っているのはエロ雑誌だ。
三澤晃は元々大手出版社にいたのだが、今出版しているエロ雑誌を作りたいがゆえにその出版社を辞め、「三澤出版」を立ち上げた。ほんとに、頭がおかしいとしか思えない。
まあ、社員のひとり、橋本さんから聞いたところによると、それなりの事情があるようなのだが……。
仕事の姿勢はともかくとして、三澤はとにかく、セクハラがひどい。一日最低一回は、私を貧乳と馬鹿にするのだ。
そしてこの連日は、暑い暑いとさわぐ。
部下に余分なストレスを与えるなんて、ほんとに最悪な上司だと思う。大体、会社内はクーラーが効いているんだから、そこまで暑いわけでもない。
河原さんと橋本さんも、苦笑しながら仕事をしている。三澤と違って大人である。というかあれが普通なのだ。
三澤は空気を読まずに続けた。
「ほら、七月十五日から三連休だろ。みんなで慰安旅行に行こう。金出してやるからさ」
突然何を言いだすのよっ。
絶対思いつきだろう。私は勇気ある若者を代表して言った。
「みんな忙しいし、疲れてるんですよ。空気読んでください」
「生意気だぞ原田。おまえどうせ男もいないし、暇だろ?」
その言葉に、私はいらっとした。確かに彼氏はいない。というか、できたことがない。だけど、見透かされているみたいで、なんだか癪に触った。だいたい、セクハラでパワハラではないか。
そしてその、セクハラクソ上司とえっちしてしまったことが、最近の黒歴史だ。
……あれは何かの間違いなのだ。エロ記事を書くためにネットサーフィンでエロいワードばかり見ていたせいで、脳がやられたのだ。
でなければ、あり得ないではないか。会社のソファでえっちするなんて。おかげで未だに、あのソファに近寄れない。
もう流れとかでは絶対しない。そう心に誓った。
「涼しいとこがいいよな」
三澤はデスクに肘をついてつぶやいた。
「北海道とか」
「あー、いいね」
と橋本さん。絶対、大していいと思ってない。
「遠すぎますよ、どう考えたって」
私が口を挟んだら、
「北海道はでかいから、おまえみたいな貧乳でも受け入れてくれるぞ」
「広さ関係ないでしょ。私はこの土地にちゃんと受け入れられてます」
苛立ちをあらわにすると、三澤がにやにや笑った。
「いや、貧乳好きは少ないから、インドあたりまで行かないと無理かもな」
私の胸が受け入れられるには、そこまでの人口が必要だというのか。失礼すぎるわ。
三澤の話は冗談だと、その場にいる誰もが思った。だがしかし──。
★
七月十五日、土曜日(休み)、私は鳴り響く着信音で目を覚ました。
「んー、なに……」
布団から手を出し、手探りでスマホを掴み、耳元へ持っていく。
「はい、原田です」
「おう、貧乳」
電話口から陽気な声。
「……休みなのにセクハラクソ上司の声が聞こえる。なんですか」
「なんですか、の前がっつり聞こえてんぞ」
三澤はそう言って、
「こないだ話しただろ。旅行行くぞ」
「あれ冗談じゃなかったんですか……」
「なんで冗談だよ。いまおまえんちの前にいるから」
「!?」
私はギョッとして、ベッドから起き上がった。カーテンを引いて外を見ると、三澤が車の脇にたって、手を振っている。慌てて突っかけを履いて、アパートの階段を駆け下りた。
「よお」
「よお、じゃないですよ。何してるんですか」
「なにって迎えにきた。乗れよ」
「乗れよって、私、今起きたばっかりで、ひい」
三澤は私の服の襟に指を引っ掛け、くい、と引いた。
「なにこのテロテロの寝巻き。つか、上から見ても小さい……」
「見るな!」
真っ赤になって膝を蹴りつけたら、彼がカエルのような顔で呻いた。
三十分後。私は三澤の車に乗って、高速を走っていた。彼は助手席の私を横目で見て、
「蹴るかよ、普通。凶暴な貧乳だな」
私は旅行カバンを膝に抱えて言った。
「なんですか、その言い草。車に乗ってあげただけでもありがたいと思ってください」
「なんで上から目線なんだよ。俺は上司だぞ」
「上司らしいことなんかしないくせに」
「誰が給料払ってると思ってんだ。あ?」
「これ特別出勤と同じですから。あとでお金払ってくださいよ」
「貧乳ツン娘め……」
三澤はガムを取り出して噛んだ。私は手を差し出す。
「私にもください」
「いいけど、20円払え」
「嫌ですよ。どんだけケチなんですか」
三澤は仕方ねえな、と言って、ガムを私の胸元に入れた。ガムはなんの引っ掛かりもなく、すとん、と私の膝に落ちる。無言でガムを見つめる私に、三澤はしれっと、
「ああ、悪い。挟める谷間なかったな」
「……イ○ポになれ」
「は? なんか言ったか」
ギスギスした車内は、とても慰安旅行という雰囲気ではない。だいたい、車に乗っているのは私だけではないか。私はガムを噛みながら、
「橋本さんと川崎さんは?」
「家族で出かけるから無理だって。薄情だよな」
「あたりまえですよ。三澤さんと家族なら家族をとるでしょ」
三澤は哀れむような口調で、
「おまえは出かける相手とかいないんだよな。胸も存在もかわいそう」
「そろそろ首締めますよ」
★
車内のギスギスした雰囲気は、車がハイウェイを抜け、海辺を走り始めたあたりから若干和らいだ。私は、車の窓から身を乗り出して言う。
「わあ、海だ」
「おまえ、海好きなの」
「はい。うち、山間部にあったので」
「へー」
きらきら輝く水面に、私は目を輝かせる。視線を感じて振り向くと、三澤が目を細めていた。いつもとは違う優しい表情に、どきっとした。
「な、なんですか?」
「機嫌よくなったなと思って」
「べつに、最初から悪くないですよ……」
よく考えたら、旅館では三澤と二人きりなのだ。どうしてもこないだのことを思い出してしまい、私は顔を赤らめた。
「おまえ顔赤いよ。暑いか?」
「な、なんでもないです」
ダメだ、意識してると思われたら、またバカにされるに決まってる……。私は思わず、自分の胸を押さえた。こないだどういう下着つけてたんだっけ。いや、べつにどんな下着でもいいよね。
車をコインパーキングに停めた三澤は、私の荷物をひょい、と取り上げる。
「あ、いいですよ、自分で」
「いーから」
彼はそう言って、さっさと歩き出す。まさか、私が逃げないように荷物を確保したのか……えっ、私どうなるんだ?
私は内心ビクビクしながら、三澤についていく。たどりついた港には、小型の船が停まっていた。
「ふね?」
「ああ、その旅館、離島にあるんだよ」
「俗」という言葉だけでできていそうな三澤にしては、やけに通なところを選んだものだ。タラップに足をかけたら、サンダルゆえにずるっ、と滑る。
「うおっ」
バランスを崩した私を、三澤が抱きとめた。
「!」
「大丈夫か」
「あ……は、はい」
私はドキドキしながら、三澤を見上げた。切れ長の瞳と目が合う。三澤はじっとこちらを見下ろして、身体をくっつけたまま、私の背中をペタペタ触った。
「本当に背中と前が変わんねーよな」
「っ」
思わず膝を蹴り飛ばしたら、彼が呻いた。
「ってえ! なにすんだ貧乳」
私はふん、と目をそらす。船の操縦士が、私たちをからかう。
「幸先悪いねえ。大丈夫かな?」
大丈夫じゃない。基本的に、私たちは仲が悪いのだから……。
*
船が島につくと、帰りまた電話するようにとおじさんが言った。
「ありがとうございます」
私はおじさんにお礼を言い、三澤と距離を開けて歩き出す。近寄ると喧嘩になるのだ、まさに磁石のごとく。多分ものすごく相性が悪いのだろう。
彼はというと、カモメの群れに目をやっていた。私はその様子を横目で見る。海風になぶられる黒髪、きらきら輝く水面に目を細めている、切れ長の瞳……。
……黙ってればかっこいいのに……
そんなことをぼんやり思っていたら、目があいかけたので、慌ててそらす。港には、旅館から迎えの車が来ていた。車はなだらかな坂を上っていき、その先にぽつりとあった旅館にたどりつく。
「素敵ですね」
私が言うと、
「だろ」
なぜか三澤が自慢する。なんであんたが威張っているんだ。しかし、このひとの趣味にしては、随分と格式が高い感じの宿だ。正直ちょっと見直したじゃないか。
私たちが旅館に入ると、綺麗な女将さんが出て来て、三つ指をついた。
「ようこそお越しくださいました」
私は慌てて礼を返す。
「よろしくお願いします」
頭をあげた女将さんは、私を見て相好を崩す。
「あらあ~あなたが晃の新しい彼女?」
「ハイ?」
「可愛らしいこと。晃ってば趣味がよくなったわねえ。昔はケバい感じの子ばっかりと付き合ってたのに」
「こっちは暑い思いして来てんだから、さっさと案内してくれよ、お袋」
三澤がうんざりした口調で言う。お袋……え?
私はギョッとして、三澤と女将さんを見比べた。
「お母さん!?」
「はい、晃の母です~」
たしかに目鼻立ちはなんとなく似ている。三澤も、顔だけは端正なのだ。中身はセクハラクソ野郎だが。ぽかんとしている私を、女将さんが促す。
「お部屋にご案内しますね。どうぞこちらに」
歩き出そうとする三澤を引き止めた。
「ちょっ、三澤さん!」
「あ? なんだよ」
「つまり、ここ、三澤さんの実家ですか?」
「うん、まあな」
なんてこった。この人、坊ちゃんなの?
私がそんなことを思っていたら、番頭さんらしき人が寄ってきた。
「お帰りなさいませ、坊ちゃん!」
「ああ、ただいま、亀さん」
亀さんは私のほうに目をやり、ぱあっ、と顔を明るくした。
「おめでとうございます!」
いや、なにが?
女将さんは私と三澤を部屋に通し、お茶を淹れてくれた。彼女は眉を下げ、
「あらあ、じゃあ、恋人同士じゃなく、上司と部下なんですか」
「はい、全然、一ミリも付き合ってません」
私はきっぱり言った。一度えっちしてしまったことは、いわゆる黒歴史というやつだ……。
女将さんは残念だわ~すごく残念だわ~と繰り返している。
そんなにか……。
「晃が女の子を連れてくるの初めてだから、てっきり将来を誓い合った仲だと思ったのに」
初めて? 私が目を丸くしたら、三澤が口を開いた。
「結婚とか面倒だし、当分しない」
「もー、そんなことばっかり言って。遊んでばかりいたら、あとで寂しい思いをするわよ」
私は親子の会話のはざま、気になっていることを尋ねてみた。
「えっと、すいません、私の部屋は」
彼女は一瞬目を瞬いて、あら、大変、と言った。
「ごめんなさい。ついうっかり部屋をとりわすれてしまって。先ほど満室になってしまったの~」
はい?
三澤はまんじゅうを食べながら、
「別に一緒でいいじゃん」
「よくないでしょ!」
「ごめんなさいねえ、あ、ここ襖で仕切れますから」
女将さんは襖を動かしてみせて、 なぜか三澤にウインクしてみせる。
「ん?」
「じゃあごゆっくり」
いそいそと部屋を出ていく女将さんを見て、三澤は首を傾げた。
「なんだいまの」
私はぎぎぎ、と腕を動かし、湯呑みを手にした。
「……まさか、ご実家とは、まるで想像もしませんでした」
三澤がああ、と漏らし、
「おまえ、俺が旅館の息子って言って信じたか?」
「信じません」
「即答かよ。ま、いーじゃん。毎年帰らないとうるせーからさ」
つまりただの里帰りではないか。なぜ私を巻き込んだのだ。
私は、スマホをいじる三澤を横目で見た。
「あ、八代カスミの写真集安く出てる。ポチろ」
伝統とか格式とかとは、無縁のところにいる……それが三澤晃なのだ。
「三澤さんって、きょうだいいるんですか?」
「ああ、ひとり。俺と違って超真面目で、跡継ぐために海外のホテルで研修とかしちゃう感じ」
「そうなんだ……」
なんだか、急にまるで次元の違う人みたいに見えてきた。彼はスマホを置いて、んー、と伸びをした。
「風呂でも入ろ。おまえは?」
「あ、じゃあ、私も」
私は三澤のあとについて部屋を出た。
温泉に向かったら、赤と青ののれんが、並んでかけられていた。赤い暖簾には「女」という文字が白抜きにされている。私はそちらへ歩き出した。
「よし、いくか」
三澤は、私の肩を抱いて引き戻し、青いのれんの方にぐいぐいと押す。
「ちょ、私は赤!」
「え? 胸の寂しいお方は青へどうぞ、って書いてあるじゃん」
「優先席かっ!」
私は思い切り三澤の脛を蹴りつける。痛みにうめいている彼を置いて、さっさとのれんをくぐった。
──全く、あの男ときたら。私は、湯船につかって眉をしかめていた。ヒノキ風呂のお風呂は大変気持ちいい。三澤のせいで少し気分が落ちているのだ。すきあらば私の貧乳を馬鹿にしてくるので油断ならない。
傍でお湯につかっているお姉さんをちら、と見る。お湯に胸の上部が浮いていた。自分の胸を見下ろしてみると、ストーン、という言葉がふさわしい。
「ちっさい……」
気にしなければいいのだろうが、どうにもならないことを言われると、やっぱりへこむ。
ため息をついて湯船からあがり、浴衣を羽織る。髪をかわかして外に出たら、三澤が水を煽っていた。足が長いので、浴衣が短く見える。
髪をちゃんと乾かしていないのか、黒髪はかすかにしっとりと濡れていた。三澤のくせに妙に色気があるように見えた。彼は唇を手の甲で拭い、こちらに気づいて、じっ、と視線を据えた。
何か言われるのかと、私は心臓を高鳴らせる。
なんだろう。浴衣似合うとか、色っぽいとか、かわいいとか……? ドキドキしながら、彼が口を開くのを待つ。
「おまえ、すごいな」
「な、なにがですか」
「風呂上がりで、浴衣なのに……全然エロくない」
「……」
私は顔を引きつらせ、三澤の肩をタオルで叩いた。さっさと歩き出すと、三澤がのんびりついてくる。
「なあ、何怒ってんの」
「べつに、怒ってないです」
「なんていうの? 健全すぎるんだよな、おまえ。胸がないなら別のとこで色気出した方がいいんじゃね?」
「色気なんかなくても生きていけるので」
「そんなんじゃ男できねえぞ」
──なんで。わざわざそんなこと言うんだ。なぜか、胸がちりっとした。彼が私のことを、全然意識していないから?
私にとって、初めてのひとは三澤だった。だけど、一度したからって、何かが始まるなんてことはないのだ。
彼にとって私は部下で、たった一回えっちしただけの相手なんだから。
私にとっては初めての相手でも、三澤にとって、私は特別じゃないんだから。
「足を出すとかさ」
「自分で出したらどうですか」
「俺が出してどうすんだ」
「彼女できるかもしれませんよ」
私はなんでもない風を装って、そう言った。
土産コーナーに寄っていこう、といわれたので、ついていく。
「なあ、土産何がいいかな。この辺あんま特産とかないんだよな」
海苔とかじゃ地味だよな、と三澤は言う。海苔、美味しいと思うけど。
「部屋で食べたおまんじゅうはどうですか。美味しかったし」
「ああ、いいな。お、ウルトラ仮面だ」
子供客のためだろう、テレビシリーズで人気のキャラクターの商品が、いくつか並べられていた。
三澤は特撮ヒーローのお面を手にし、私に被せた。
「わ、なんですか」
「おまえ、顔ちっさいな、胸も小さいけど」
お面の隙間から見えた笑顔に、胸が高鳴る。
「……もし光線銃持ってたら、真っ先に三澤さんを撃ちます」
「こえー」
彼はまんじゅうの箱を手に、笑いながらレジへと向かう。私はその背中を見送り、顔を隠すために仮面を引き下ろした。
──べつに、いいんだ。三澤に彼女ができたり、私に彼氏ができたり。そうなっても、上司と部下である限り、こうやって馬鹿みたいな会話ができる。恋人なんかになるより、そのほうがいいんだ。
そう言い聞かせていたら、ちょっとだけ、涙がにじんだ。
うそだ。ほんとは、胸なんかなくても、気にしないって、すきだって、言われたかった。すきって、言いたかった。だけど怖い。そんなつもりなかったって言われるのが、すごく怖い。
三澤が戻ってくる前に、涙を引っ込めて、私は仮面をそっと外した。
私の嫌いな上司は能天気な顔で、部屋戻ろうぜ、と言った
こちらを見下ろす切れ長の瞳。はだけた浴衣から覗く肌。黒髪はさらさらしていて、揺れるたびに、シャンプーの匂いが香った。どくどくと、自分の心臓が鳴っているのがわかる。畳の上で、髪がきしりと音を立てた気がした。
私はいま、嫌いな上司に押し倒されています──。
★
「なあ、旅行いこうぜ」
ことの始まりは、私の嫌いな上司、三澤晃(みさわあきら)がこう言い出したことだった。彼は暑さに弱いらしく、毎日暑い暑いと連呼していた。
うるさいが、突っかかると余計に暑苦しいし、絶対返り討ちにあうので、私──原田ミチは、黙ってパソコンを叩いていた。三澤があまりにも暑いと連呼するから、なんだか首筋が汗ばんできた。
なんて言うんだっけ、こういうの。洗脳?
私は手元の資料を見下ろした。今組んでいる記事は、痴漢の心理についてだ。わざわざ大学まで行って心理学について聞いてきたのである。
痴漢の心理を解き明かす必要が、果たしてあるのだろうか? 痴漢の心理がどうであれ、「しね」という単語で表現すれば十分だと思うのだが。
しかも、話を聞いた心理学の先生はかなり真面目に語ってくれて、おまけに論文まで貸してくれたので、いやにかっちりした記事が出来上がってしまった。三澤いわく、
「すごいけど、この記事だけ浮きすぎ」
そんなわけで、どうしていいか途方にくれているところである。
私の嫌いな上司──三澤晃は、どんなしょうもない記事にも手を抜かない。というより、しょうもない記事が大好きなのだ。
色のない髪に、切れ長の瞳。長い手足。さして身なりに気を使っているようには見えないのに、三澤が着ている服は妙に洒落て見える。一緒に取材に行くと、電車に乗っているだけで女性の視線を集める。
だから──見た目だけならかなりの高級品なのだろう。見た目だけなら。中身はただのおっさんだし。電車に乗って見てるのはグラビアアイドルが載った吊り広告だし。
高級品といえば、私が手にしている見本誌には「すっぽん」やら「バイアグラ」などという文字が踊っている。察しのいい人ならばすぐわかるだろう、うちが作っているのはエロ雑誌だ。
三澤晃は元々大手出版社にいたのだが、今出版しているエロ雑誌を作りたいがゆえにその出版社を辞め、「三澤出版」を立ち上げた。ほんとに、頭がおかしいとしか思えない。
まあ、社員のひとり、橋本さんから聞いたところによると、それなりの事情があるようなのだが……。
仕事の姿勢はともかくとして、三澤はとにかく、セクハラがひどい。一日最低一回は、私を貧乳と馬鹿にするのだ。
そしてこの連日は、暑い暑いとさわぐ。
部下に余分なストレスを与えるなんて、ほんとに最悪な上司だと思う。大体、会社内はクーラーが効いているんだから、そこまで暑いわけでもない。
河原さんと橋本さんも、苦笑しながら仕事をしている。三澤と違って大人である。というかあれが普通なのだ。
三澤は空気を読まずに続けた。
「ほら、七月十五日から三連休だろ。みんなで慰安旅行に行こう。金出してやるからさ」
突然何を言いだすのよっ。
絶対思いつきだろう。私は勇気ある若者を代表して言った。
「みんな忙しいし、疲れてるんですよ。空気読んでください」
「生意気だぞ原田。おまえどうせ男もいないし、暇だろ?」
その言葉に、私はいらっとした。確かに彼氏はいない。というか、できたことがない。だけど、見透かされているみたいで、なんだか癪に触った。だいたい、セクハラでパワハラではないか。
そしてその、セクハラクソ上司とえっちしてしまったことが、最近の黒歴史だ。
……あれは何かの間違いなのだ。エロ記事を書くためにネットサーフィンでエロいワードばかり見ていたせいで、脳がやられたのだ。
でなければ、あり得ないではないか。会社のソファでえっちするなんて。おかげで未だに、あのソファに近寄れない。
もう流れとかでは絶対しない。そう心に誓った。
「涼しいとこがいいよな」
三澤はデスクに肘をついてつぶやいた。
「北海道とか」
「あー、いいね」
と橋本さん。絶対、大していいと思ってない。
「遠すぎますよ、どう考えたって」
私が口を挟んだら、
「北海道はでかいから、おまえみたいな貧乳でも受け入れてくれるぞ」
「広さ関係ないでしょ。私はこの土地にちゃんと受け入れられてます」
苛立ちをあらわにすると、三澤がにやにや笑った。
「いや、貧乳好きは少ないから、インドあたりまで行かないと無理かもな」
私の胸が受け入れられるには、そこまでの人口が必要だというのか。失礼すぎるわ。
三澤の話は冗談だと、その場にいる誰もが思った。だがしかし──。
★
七月十五日、土曜日(休み)、私は鳴り響く着信音で目を覚ました。
「んー、なに……」
布団から手を出し、手探りでスマホを掴み、耳元へ持っていく。
「はい、原田です」
「おう、貧乳」
電話口から陽気な声。
「……休みなのにセクハラクソ上司の声が聞こえる。なんですか」
「なんですか、の前がっつり聞こえてんぞ」
三澤はそう言って、
「こないだ話しただろ。旅行行くぞ」
「あれ冗談じゃなかったんですか……」
「なんで冗談だよ。いまおまえんちの前にいるから」
「!?」
私はギョッとして、ベッドから起き上がった。カーテンを引いて外を見ると、三澤が車の脇にたって、手を振っている。慌てて突っかけを履いて、アパートの階段を駆け下りた。
「よお」
「よお、じゃないですよ。何してるんですか」
「なにって迎えにきた。乗れよ」
「乗れよって、私、今起きたばっかりで、ひい」
三澤は私の服の襟に指を引っ掛け、くい、と引いた。
「なにこのテロテロの寝巻き。つか、上から見ても小さい……」
「見るな!」
真っ赤になって膝を蹴りつけたら、彼がカエルのような顔で呻いた。
三十分後。私は三澤の車に乗って、高速を走っていた。彼は助手席の私を横目で見て、
「蹴るかよ、普通。凶暴な貧乳だな」
私は旅行カバンを膝に抱えて言った。
「なんですか、その言い草。車に乗ってあげただけでもありがたいと思ってください」
「なんで上から目線なんだよ。俺は上司だぞ」
「上司らしいことなんかしないくせに」
「誰が給料払ってると思ってんだ。あ?」
「これ特別出勤と同じですから。あとでお金払ってくださいよ」
「貧乳ツン娘め……」
三澤はガムを取り出して噛んだ。私は手を差し出す。
「私にもください」
「いいけど、20円払え」
「嫌ですよ。どんだけケチなんですか」
三澤は仕方ねえな、と言って、ガムを私の胸元に入れた。ガムはなんの引っ掛かりもなく、すとん、と私の膝に落ちる。無言でガムを見つめる私に、三澤はしれっと、
「ああ、悪い。挟める谷間なかったな」
「……イ○ポになれ」
「は? なんか言ったか」
ギスギスした車内は、とても慰安旅行という雰囲気ではない。だいたい、車に乗っているのは私だけではないか。私はガムを噛みながら、
「橋本さんと川崎さんは?」
「家族で出かけるから無理だって。薄情だよな」
「あたりまえですよ。三澤さんと家族なら家族をとるでしょ」
三澤は哀れむような口調で、
「おまえは出かける相手とかいないんだよな。胸も存在もかわいそう」
「そろそろ首締めますよ」
★
車内のギスギスした雰囲気は、車がハイウェイを抜け、海辺を走り始めたあたりから若干和らいだ。私は、車の窓から身を乗り出して言う。
「わあ、海だ」
「おまえ、海好きなの」
「はい。うち、山間部にあったので」
「へー」
きらきら輝く水面に、私は目を輝かせる。視線を感じて振り向くと、三澤が目を細めていた。いつもとは違う優しい表情に、どきっとした。
「な、なんですか?」
「機嫌よくなったなと思って」
「べつに、最初から悪くないですよ……」
よく考えたら、旅館では三澤と二人きりなのだ。どうしてもこないだのことを思い出してしまい、私は顔を赤らめた。
「おまえ顔赤いよ。暑いか?」
「な、なんでもないです」
ダメだ、意識してると思われたら、またバカにされるに決まってる……。私は思わず、自分の胸を押さえた。こないだどういう下着つけてたんだっけ。いや、べつにどんな下着でもいいよね。
車をコインパーキングに停めた三澤は、私の荷物をひょい、と取り上げる。
「あ、いいですよ、自分で」
「いーから」
彼はそう言って、さっさと歩き出す。まさか、私が逃げないように荷物を確保したのか……えっ、私どうなるんだ?
私は内心ビクビクしながら、三澤についていく。たどりついた港には、小型の船が停まっていた。
「ふね?」
「ああ、その旅館、離島にあるんだよ」
「俗」という言葉だけでできていそうな三澤にしては、やけに通なところを選んだものだ。タラップに足をかけたら、サンダルゆえにずるっ、と滑る。
「うおっ」
バランスを崩した私を、三澤が抱きとめた。
「!」
「大丈夫か」
「あ……は、はい」
私はドキドキしながら、三澤を見上げた。切れ長の瞳と目が合う。三澤はじっとこちらを見下ろして、身体をくっつけたまま、私の背中をペタペタ触った。
「本当に背中と前が変わんねーよな」
「っ」
思わず膝を蹴り飛ばしたら、彼が呻いた。
「ってえ! なにすんだ貧乳」
私はふん、と目をそらす。船の操縦士が、私たちをからかう。
「幸先悪いねえ。大丈夫かな?」
大丈夫じゃない。基本的に、私たちは仲が悪いのだから……。
*
船が島につくと、帰りまた電話するようにとおじさんが言った。
「ありがとうございます」
私はおじさんにお礼を言い、三澤と距離を開けて歩き出す。近寄ると喧嘩になるのだ、まさに磁石のごとく。多分ものすごく相性が悪いのだろう。
彼はというと、カモメの群れに目をやっていた。私はその様子を横目で見る。海風になぶられる黒髪、きらきら輝く水面に目を細めている、切れ長の瞳……。
……黙ってればかっこいいのに……
そんなことをぼんやり思っていたら、目があいかけたので、慌ててそらす。港には、旅館から迎えの車が来ていた。車はなだらかな坂を上っていき、その先にぽつりとあった旅館にたどりつく。
「素敵ですね」
私が言うと、
「だろ」
なぜか三澤が自慢する。なんであんたが威張っているんだ。しかし、このひとの趣味にしては、随分と格式が高い感じの宿だ。正直ちょっと見直したじゃないか。
私たちが旅館に入ると、綺麗な女将さんが出て来て、三つ指をついた。
「ようこそお越しくださいました」
私は慌てて礼を返す。
「よろしくお願いします」
頭をあげた女将さんは、私を見て相好を崩す。
「あらあ~あなたが晃の新しい彼女?」
「ハイ?」
「可愛らしいこと。晃ってば趣味がよくなったわねえ。昔はケバい感じの子ばっかりと付き合ってたのに」
「こっちは暑い思いして来てんだから、さっさと案内してくれよ、お袋」
三澤がうんざりした口調で言う。お袋……え?
私はギョッとして、三澤と女将さんを見比べた。
「お母さん!?」
「はい、晃の母です~」
たしかに目鼻立ちはなんとなく似ている。三澤も、顔だけは端正なのだ。中身はセクハラクソ野郎だが。ぽかんとしている私を、女将さんが促す。
「お部屋にご案内しますね。どうぞこちらに」
歩き出そうとする三澤を引き止めた。
「ちょっ、三澤さん!」
「あ? なんだよ」
「つまり、ここ、三澤さんの実家ですか?」
「うん、まあな」
なんてこった。この人、坊ちゃんなの?
私がそんなことを思っていたら、番頭さんらしき人が寄ってきた。
「お帰りなさいませ、坊ちゃん!」
「ああ、ただいま、亀さん」
亀さんは私のほうに目をやり、ぱあっ、と顔を明るくした。
「おめでとうございます!」
いや、なにが?
女将さんは私と三澤を部屋に通し、お茶を淹れてくれた。彼女は眉を下げ、
「あらあ、じゃあ、恋人同士じゃなく、上司と部下なんですか」
「はい、全然、一ミリも付き合ってません」
私はきっぱり言った。一度えっちしてしまったことは、いわゆる黒歴史というやつだ……。
女将さんは残念だわ~すごく残念だわ~と繰り返している。
そんなにか……。
「晃が女の子を連れてくるの初めてだから、てっきり将来を誓い合った仲だと思ったのに」
初めて? 私が目を丸くしたら、三澤が口を開いた。
「結婚とか面倒だし、当分しない」
「もー、そんなことばっかり言って。遊んでばかりいたら、あとで寂しい思いをするわよ」
私は親子の会話のはざま、気になっていることを尋ねてみた。
「えっと、すいません、私の部屋は」
彼女は一瞬目を瞬いて、あら、大変、と言った。
「ごめんなさい。ついうっかり部屋をとりわすれてしまって。先ほど満室になってしまったの~」
はい?
三澤はまんじゅうを食べながら、
「別に一緒でいいじゃん」
「よくないでしょ!」
「ごめんなさいねえ、あ、ここ襖で仕切れますから」
女将さんは襖を動かしてみせて、 なぜか三澤にウインクしてみせる。
「ん?」
「じゃあごゆっくり」
いそいそと部屋を出ていく女将さんを見て、三澤は首を傾げた。
「なんだいまの」
私はぎぎぎ、と腕を動かし、湯呑みを手にした。
「……まさか、ご実家とは、まるで想像もしませんでした」
三澤がああ、と漏らし、
「おまえ、俺が旅館の息子って言って信じたか?」
「信じません」
「即答かよ。ま、いーじゃん。毎年帰らないとうるせーからさ」
つまりただの里帰りではないか。なぜ私を巻き込んだのだ。
私は、スマホをいじる三澤を横目で見た。
「あ、八代カスミの写真集安く出てる。ポチろ」
伝統とか格式とかとは、無縁のところにいる……それが三澤晃なのだ。
「三澤さんって、きょうだいいるんですか?」
「ああ、ひとり。俺と違って超真面目で、跡継ぐために海外のホテルで研修とかしちゃう感じ」
「そうなんだ……」
なんだか、急にまるで次元の違う人みたいに見えてきた。彼はスマホを置いて、んー、と伸びをした。
「風呂でも入ろ。おまえは?」
「あ、じゃあ、私も」
私は三澤のあとについて部屋を出た。
温泉に向かったら、赤と青ののれんが、並んでかけられていた。赤い暖簾には「女」という文字が白抜きにされている。私はそちらへ歩き出した。
「よし、いくか」
三澤は、私の肩を抱いて引き戻し、青いのれんの方にぐいぐいと押す。
「ちょ、私は赤!」
「え? 胸の寂しいお方は青へどうぞ、って書いてあるじゃん」
「優先席かっ!」
私は思い切り三澤の脛を蹴りつける。痛みにうめいている彼を置いて、さっさとのれんをくぐった。
──全く、あの男ときたら。私は、湯船につかって眉をしかめていた。ヒノキ風呂のお風呂は大変気持ちいい。三澤のせいで少し気分が落ちているのだ。すきあらば私の貧乳を馬鹿にしてくるので油断ならない。
傍でお湯につかっているお姉さんをちら、と見る。お湯に胸の上部が浮いていた。自分の胸を見下ろしてみると、ストーン、という言葉がふさわしい。
「ちっさい……」
気にしなければいいのだろうが、どうにもならないことを言われると、やっぱりへこむ。
ため息をついて湯船からあがり、浴衣を羽織る。髪をかわかして外に出たら、三澤が水を煽っていた。足が長いので、浴衣が短く見える。
髪をちゃんと乾かしていないのか、黒髪はかすかにしっとりと濡れていた。三澤のくせに妙に色気があるように見えた。彼は唇を手の甲で拭い、こちらに気づいて、じっ、と視線を据えた。
何か言われるのかと、私は心臓を高鳴らせる。
なんだろう。浴衣似合うとか、色っぽいとか、かわいいとか……? ドキドキしながら、彼が口を開くのを待つ。
「おまえ、すごいな」
「な、なにがですか」
「風呂上がりで、浴衣なのに……全然エロくない」
「……」
私は顔を引きつらせ、三澤の肩をタオルで叩いた。さっさと歩き出すと、三澤がのんびりついてくる。
「なあ、何怒ってんの」
「べつに、怒ってないです」
「なんていうの? 健全すぎるんだよな、おまえ。胸がないなら別のとこで色気出した方がいいんじゃね?」
「色気なんかなくても生きていけるので」
「そんなんじゃ男できねえぞ」
──なんで。わざわざそんなこと言うんだ。なぜか、胸がちりっとした。彼が私のことを、全然意識していないから?
私にとって、初めてのひとは三澤だった。だけど、一度したからって、何かが始まるなんてことはないのだ。
彼にとって私は部下で、たった一回えっちしただけの相手なんだから。
私にとっては初めての相手でも、三澤にとって、私は特別じゃないんだから。
「足を出すとかさ」
「自分で出したらどうですか」
「俺が出してどうすんだ」
「彼女できるかもしれませんよ」
私はなんでもない風を装って、そう言った。
土産コーナーに寄っていこう、といわれたので、ついていく。
「なあ、土産何がいいかな。この辺あんま特産とかないんだよな」
海苔とかじゃ地味だよな、と三澤は言う。海苔、美味しいと思うけど。
「部屋で食べたおまんじゅうはどうですか。美味しかったし」
「ああ、いいな。お、ウルトラ仮面だ」
子供客のためだろう、テレビシリーズで人気のキャラクターの商品が、いくつか並べられていた。
三澤は特撮ヒーローのお面を手にし、私に被せた。
「わ、なんですか」
「おまえ、顔ちっさいな、胸も小さいけど」
お面の隙間から見えた笑顔に、胸が高鳴る。
「……もし光線銃持ってたら、真っ先に三澤さんを撃ちます」
「こえー」
彼はまんじゅうの箱を手に、笑いながらレジへと向かう。私はその背中を見送り、顔を隠すために仮面を引き下ろした。
──べつに、いいんだ。三澤に彼女ができたり、私に彼氏ができたり。そうなっても、上司と部下である限り、こうやって馬鹿みたいな会話ができる。恋人なんかになるより、そのほうがいいんだ。
そう言い聞かせていたら、ちょっとだけ、涙がにじんだ。
うそだ。ほんとは、胸なんかなくても、気にしないって、すきだって、言われたかった。すきって、言いたかった。だけど怖い。そんなつもりなかったって言われるのが、すごく怖い。
三澤が戻ってくる前に、涙を引っ込めて、私は仮面をそっと外した。
私の嫌いな上司は能天気な顔で、部屋戻ろうぜ、と言った
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