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王宮での日々
朝ごはん
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翌日、日が登る前に起き出したシルフィーは、朝食を作るために食糧庫の中を覗いた。しかし、中には小麦粉しかなかった。こんな時間じゃ店も空いていないだろう。どうしようかと思っていたら、こけこっこー、という鳴き声が聞こえてきた。シルフィーは外に出て、家のそばに建っている小屋へ向かう。中に入ると、目つきの悪い鶏が二羽いた。一羽が雄鶏で、もう一羽は雌鳥のようだ。夫婦の鶏なんて素敵だわ。巣の中を覗き込むと、卵が産み落とされていた。シルフィーが卵を手にとろうとしたら、雌鳥がけたたましく鳴いた。
「ちょっとぐらい分けてくれてもいいじゃない」
シルフィーはそう言ったが、雌鳥は卵をとったら蹴り飛ばすぞというオーラを出している。シルフィーは肩をすくめて、鶏小屋から退散した。やっぱり困った時のタンパク源といえば虫だろう。家の周りを探索し、数匹のこおろぎを捕まえた。
こおろぎを炒めていると、匂いにつられたのか、エントが起き出してくる。
「おはよう、エント!」
「朝から元気だな」
「エントは朝がよわいのね」
シルフィーは鼻歌を歌いながら、食卓に皿を並べた。エントは皿に乗ったものを見て顔を引き攣らせる。
「なんだこれ」
「こおろぎよ。オリーブオイルで炒めたの。たんぱく質が豊富なのよ」
彼はさりげなく皿を避けて、「朝食を食べたら送って行く」と言った。シルフィーはこおろぎをかじりながら尋ねた。
「どこに?」
「乗合馬車できたんだろう。最近若い娘がさらわれる事件が勃発してるから、そこまで送って行くよ」
エントがトランクを持ち上げようとしたので、シルフィーは慌ててトランクを後ろに隠した。
「私、帰らないわ!」
「俺は君と結婚する気はない」
「こおろぎ嫌いだった? やっぱりミドリムシのほうがいいかしら」
「どっちの虫も食う気はない。というかそういう問題じゃない」
エントはそう言って寝癖のついた髪をなおした。シルフィーはその仕草に見惚れた。エントの髪ってシミみたいな色だわ。シミ呼ばわりされていることも知らず、エントは淡々と言った。
「俺は追放されて、君は危険人物とみなされてる。結婚なんかしたら、王宮から危険視されるに決まってるだろう。一言でいえば、迷惑だ」
シルフィーはしゅんとして俯いた。ちまちまとこおろぎを食べ終え、エントと一緒に外へ出る。彼は馬車の乗り合い所までシルフィーを送っていき、じゃあな、と言って踵を返した。エントは優秀で、立派な人だ。シルフィーなんていなくても、自分の力で道をひらくだろう。自分がエントを助けられるなんて、思い上がっていたのかもしれない。その時、ポケットの中に入っていたビンがぴしりとひび割れる音がした。シルフィーは慌てて瓶を取り出す。バロンが巨大化し、耳をつんざくような鳴き声をあげた。エントが素早く戻ってきて、バロンを凍結させた。
「神の与えし賢者の石よ、かのものを凍らせよ!」
バロンが固まって動きを止める。エントはため息をついて、バロンを眺める。
「はあ……君の錬金術は、本当に感情次第なんだな」
「ごめんなさい」
「……帰ろう」
エントはそう言って、シルフィーに手を差し出した。シルフィーは笑顔になって、エントの手を取った。
「ちょっとぐらい分けてくれてもいいじゃない」
シルフィーはそう言ったが、雌鳥は卵をとったら蹴り飛ばすぞというオーラを出している。シルフィーは肩をすくめて、鶏小屋から退散した。やっぱり困った時のタンパク源といえば虫だろう。家の周りを探索し、数匹のこおろぎを捕まえた。
こおろぎを炒めていると、匂いにつられたのか、エントが起き出してくる。
「おはよう、エント!」
「朝から元気だな」
「エントは朝がよわいのね」
シルフィーは鼻歌を歌いながら、食卓に皿を並べた。エントは皿に乗ったものを見て顔を引き攣らせる。
「なんだこれ」
「こおろぎよ。オリーブオイルで炒めたの。たんぱく質が豊富なのよ」
彼はさりげなく皿を避けて、「朝食を食べたら送って行く」と言った。シルフィーはこおろぎをかじりながら尋ねた。
「どこに?」
「乗合馬車できたんだろう。最近若い娘がさらわれる事件が勃発してるから、そこまで送って行くよ」
エントがトランクを持ち上げようとしたので、シルフィーは慌ててトランクを後ろに隠した。
「私、帰らないわ!」
「俺は君と結婚する気はない」
「こおろぎ嫌いだった? やっぱりミドリムシのほうがいいかしら」
「どっちの虫も食う気はない。というかそういう問題じゃない」
エントはそう言って寝癖のついた髪をなおした。シルフィーはその仕草に見惚れた。エントの髪ってシミみたいな色だわ。シミ呼ばわりされていることも知らず、エントは淡々と言った。
「俺は追放されて、君は危険人物とみなされてる。結婚なんかしたら、王宮から危険視されるに決まってるだろう。一言でいえば、迷惑だ」
シルフィーはしゅんとして俯いた。ちまちまとこおろぎを食べ終え、エントと一緒に外へ出る。彼は馬車の乗り合い所までシルフィーを送っていき、じゃあな、と言って踵を返した。エントは優秀で、立派な人だ。シルフィーなんていなくても、自分の力で道をひらくだろう。自分がエントを助けられるなんて、思い上がっていたのかもしれない。その時、ポケットの中に入っていたビンがぴしりとひび割れる音がした。シルフィーは慌てて瓶を取り出す。バロンが巨大化し、耳をつんざくような鳴き声をあげた。エントが素早く戻ってきて、バロンを凍結させた。
「神の与えし賢者の石よ、かのものを凍らせよ!」
バロンが固まって動きを止める。エントはため息をついて、バロンを眺める。
「はあ……君の錬金術は、本当に感情次第なんだな」
「ごめんなさい」
「……帰ろう」
エントはそう言って、シルフィーに手を差し出した。シルフィーは笑顔になって、エントの手を取った。
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