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第一章 復讐する方向性の決定

信頼できる住職への相談と、初めての他者を交えた復讐 1

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 重圧が莉奈の身体で自らの本来の肉体と交わった翌日。
 重圧は、様々な原因となる神社に来ていたーー莉奈の肉体のまま。
 客間にて、重圧と住職。そして、額に三日月の痣を持つ猫が座っていた。
 人間二人は緊張や神妙さを宿した表情で、猫だけは座布団の上でくつろいでいる。
 ギプスは昨日の晩、病院で事情を聴きながら重圧が外していた。

「なるほどのう……つまり、その猫ーーいや、お方のおかげで、重圧君は、以前話してくれた義妹の……目の前にいる子の身体に魂を移された……と」

 住職がなんとも言えない表情で茶をすすり、重圧も同じように茶を飲んだ。
 三日月痣の猫は幾度も見かけていたが、ここの神社の守り神。
 神社ができた数百年前から居るらしい。

(正直、傷が治ってたり会話ができなければ信じられなかったけど……)

 高い自己治癒力があるものの、たまたま負傷した箇所が悪く。折れた骨が肺に突き刺さり、延命がやっとだったそう。
 莉奈が子猫を蹴飛ばそうとした時、それを守り負傷。
 その後報復のため莉奈を追うも、力尽きかけ神社に帰還。
 そこに重圧が駆けつけ、獣医に治療を受けた後に自力回復したそうで。
 その後は恩義を感じる重圧の危機に、急遽魂の入れ替えを行い。
 今は同じ相手に辛酸を舐めさせられた同士として、協力関係になったのだった。

「まあ、信じるより他あるまい。重圧君しか知らんことを知っておったし……。加えて、この寺の守り神のお言葉じゃ」

 住職が、チラリと猫に視線を送る。

『うむ、そなたとこうして話すのは初めてだったが、理解が早くて助かる』

 猫は鳴き声をあげただけだというのに、人間二人の頭には言葉が響いた。

(今でも信じられないって、猫さんの力で義妹の身体に憑依して、あんなことしちゃっただなんて……)

「ふぅ、しかし……まさか、賽銭泥棒が、重圧君の妹とは……前来た時は、可愛い娘と思って茶を出したが……騙されたわい」

 言葉半分は小声で聞こえず、莉奈と住職が接点のあることに重圧は気づけなかった。

「あ、あの、そのーー」

「ああ、謝らんでいいよ。身体は当人のものとはいえ、君に責任はない」

 住職は寛大な態度で手で制してきた。

「ひとまず、その話は当人に謝罪させ、返してもらうことにしよう。幸い、妹さんの記憶は読めるんじゃろ? 後で、盗んだ金額を教えてくれ」
「あのお金は、寺のために使う金でもあるが、何より参拝客のお気持ち。そのままにはし難いからな……それよりもーー」

 住職には莉奈に行なった報復の件は伏せている。
 流石にあの出来事は話せず、猫の神力で妹と身体が入れ替わった経緯。莉奈が賽銭泥棒をした上、他にも悪事を働いていそうだということだけを話した。

(他の悪事についての質問かな? 正直、よく思い出せないんだけど……)

 三日月猫の話では、体の持ち主の記憶を思い出すことはできるが。
 時間が遡る程に思い出すのは難しく、完全に忘れていることは思い出せないという話だ。
 数日間の記憶であっても、記憶を思い出すためのキッカケが必要なそうだ。

「あの、他の悪事に関してはまだ思い出せないんです……」
「今までした悪いことって考えても、何も思い出せなくて……万引き、とか考えると、ぼんやりコンビニらしき映像が出る程度で……」

『つまり、その性悪は、悪事を悪事と思っておらぬということよ』
『人間の法律上において……といった知識はあたっとしても、当人が悪事と思っておらねば、罪状が分かったところで、具体的なことは思い出せぬのだろう』

「多分、賽銭泥棒は、近場の出来事だったし。直前に僕がそうだと確信していたから、ハッキリ思い出せたんだと思います」

 住職はおおらかでありながら、風格を感じさせる柔和かつ厳格な態度をとっている。
 住職は恰幅が良く、頭髪一本ない頭が輝いていた。
 徳さえ感じる風貌。

(……視線が、チラチラ変なところ見てこなければ……)

 住職の視線は、ここに来た際にから莉奈の肉体を幾度も見ていた。
 住職はおそらく隠しているのだろうが、むっつりスケベ。
 本来の男だった重圧が卑猥な視線を感じたことはなかったが。一緒にいる時、巨乳な女性が視界に入るとよく頬を緩ませて見ていることは多かった。

(昔からお世話になってる人にこんな視線向けられるのはーー)
「あの……住職、中身は僕です」

 たまらず、言外に視線の意味には気づいていると、釘を刺す。

「!? いやあ、コホン!! いや、すまんね。分かってはおるが、若い娘さんを見る機会が少ないもんじゃからなー」
「目の保養、いや、物珍しくてのー」

(参拝客にそれなりに居るし、地域イベントとか、街に出ればいくらでも見れるだろうが!!)
「そうですか……」

 重圧は心の中だけで突っ込んだ。

「ふぅ~、しかし……だ、その格好は、君の趣味かい?」

(僕だって、できればこんな格好したくなかったよ!! でも、他にろくなのがなかったんだよ!!)

 重圧の格好は、短パンにピンク色のTシャツ。そしてジャケットという姿だ。
 臀部は小ぶりながら安産型な上に、短パンのサイズは小型なためパツパツ。
 シャツ周りは言わずともな巨乳のためにパツパツ。ジャケットはボタンが閉まらないため前開き。
 ソックスは太ももまで届くロングサイズなため、もも肉がソックスに食い込んでムチムチさに拍車をかけている。
 髪型はツインテールが思いの外痛かったので、ストレートだ。

「……スカートは、長くてもスウスウするし、長ズボンはないし……」
「上もフリルとかヒラヒラした可愛い系は、ちょっと……僕の服はサイズが違いすぎるから、マシなのがこんな感じで……」

 薄い色合いのTシャツは、ブラが透けて浮かびあがるために却下。
 ソックスが長いのは、慣れぬ短パンに抗うための苦肉の策。
 正直この格好でも恥ずかしい上、普段感じることのない男の視線も集めたが仕方ない。

「そうかぁ~、そうかぁ~。しかし、まともな格好を選んでも、そんな……エッチな格好にーー」

 住職の視線は更に凝視するものになり、隠すモノのない重圧は苦手意識を強めてしまう。
 
「そりゃあ、そんなにエロくちゃあ、手も出すというもの……」

「ハッ!?」

「それも、処女じゃったんじゃろ?」

 伏せた出来事に追求され驚く重圧。
 その隙に、住職は重圧の背後に回り込み、膝を着くと肩に手を置いてきた。
 住職の息遣いがイヤにねっとりしたモノに感じた。
 全身から汗が噴き出る。

「まさか……猫さん!?」

『うむ、そなたがトイレに立った際にな。自分の口から話しづらそうだったからな。童貞だったということはーー』

「そこじゃないよ!!」

『うん? 恥ずべきところは、そこではなかったか? 今後のために住職に相談したいというから、スムーズに進めるため、その部分も話したがーー』

(童貞捨てたからって、何がスムーズにいくと!?)

 莉奈とは違う方向で、猫ゆえ感性が違うのだろう。

「まあ、落ち着きなさい……別に責めようという話ではない」
「なにしろ、殺されかけた上、散々酷い扱いを受けてきたのだろう?」
「その上、守り神さまがお力を貸しての行為、神罰を下したとも言える以上、ワシから何を責めもせんし、諭すつもりもないーー」

(じゃあ、この手はなに? 僕の中の少し残った莉奈がすっごい警鐘を鳴らして来るんですけど!!)

 魂を入れ替えても、互いの身体に僅かながら残るそうで。
 今は三日月猫の力で更に奥底まで沈めているがーー声は聞こえずとも警戒感が滲み出ている。

 再びバッと三日月猫に視線を向ければ、いつの間にか重圧に出されていた茶菓子を美味しそうに食べていた。
 猫が茶菓子を食べていいとも思えないものの、相手はまともな猫ではない。
 なにより、まんじゅうの皮を小さく噛み砕き、中のあんこをペロペロ舐める姿は愛らしかった。
 本能から助けを求めようとした言葉は和んで飲み込まれてしまった。

「ーーワシが言いたいのは、少々ズルいということじゃ」

「えっと、それは意識のない……ああ、いや、今回の場合は、自由にならない相手をーー」

「そんなことはどうでもよい!! じゃから、重圧君だけ、そんな可愛くてエッチな娘とエッチなことができて……ズルいとは思わんか?」

 莉奈本体の嫌悪感と重圧の嫌悪感がダブル。

「実を言うと、ワシはおなごが好きでのうーー」

(あっ、それは気づいてました)

「特に、最近の若い娘は発育が良い上に、やたら肌を露出するからのうーー」

「住職、僕帰ります!!」

 手を振り払うようにしながら、重圧は立ち上がった。
 幼少期から世話になってる、60手前になる老人の性のカミングアウトなど聞きたくない。
 莉奈が『さっさと逃げろ!!』と、言ったような気がした。
 住職は流れるように正座をして姿勢を正すと、勢いよく頭を下げた。
 土下座である。

「お願いです!! 下着……下着姿だけでいいんです!! 見せてください!!」

「子供相手にバカなまねはやめてください!!」

 敬語で願い出るお願いに、重圧は引いた。
 
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