顔も身体も最高だけど生意気な義妹と入れ替われたので、色々遊んでやることにしました。

鮭茶漬 梅茶

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プロローグ 黒猫の恩返し? 或いは呪い

かくして少年は、義妹に復讐を誓う

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 学校帰り、重圧は近所の神社裏で言葉を失っていた。
 ここは、近所の野良猫の溜まり場であり、猫好きの住職の許可の元餌やりに来ることも多かった。
 重圧は猫が好きなのである。
 昨日の妹の発言に不穏を感じた重圧は、別件の用もあって様子を見に行くことにした。
 そして、神社に来るや野良猫の歓迎を受けた。
 必死に何か訴えるように先導を始めた猫に誘われ来てみればーー。

「ひ、酷い……」

 一匹の額に三日月の痣のある黒猫が、吐血しながら横たわっていた。
 前足の一本は潰されて、腹部は不自然なくぼみ方をしている。
 車などにはねられたにしては小さなくぼみは、人の足で蹴られたと言われればシックリくる具合に見えた。

「ヤバいッ!! 救急車!! じゃない!! 獣医さん!! え~と!!」

 周囲に心配そうに集まっていた猫の鳴き声で我に返った重圧は、混乱しながらもひとまず住職に連絡を入れることに。
 ここに来る際に、受付に出かけていると立て札があった。
 急いで住職に電話をかければ、ちょうど車で帰って来た所だった。
 重圧は事情を説明して、持っていた鞄を投げ捨てると猫を抱えて車に向かった。
 そのまま車に乗り込むと、近くの動物病院へと向かうのだった。

ーーーー。

(あの猫、大丈夫かな……)

 獣医の話では、ひとまず手術は成功したようで、なんとか一命は取り留めたということだった。
 折れた骨が肺に刺さっていたようで、かなりの重症。この傷は、長く見積もっても数十分前にできたものだろうと推察していた。

(少し前って言うなら、莉奈が蹴った猫じゃないんだろうけど……)

 獣医の診断が正確であれば、妹が犯人ではない。
 だが、心の中では、妹に対する不信感で満ちていた。

(流石の莉奈も、あんな重症になるようには蹴らないよな? うん、追い払った時に少し掠めただけさ)

 疑念は尽きぬまま、言いかかせるようにしながら、寺に戻っていく。
 鞄を投げ捨てたままだったのだ。

「コッチくんな~!! ゲッ!?」

 寺へ続く階段を登っていれば、本堂の方から聞き覚えのある声が聞こえる。
 見上げれば、莉奈が階段を駆け下りて来るところだった。
 向こうもコチラに気づいたようで、数段降りたところで急ブレーキをかける。

(この音……小銭!?)

 莉奈の両ポケットはパンパンに膨らんでおり、そこから小銭が擦れるような音が。
 重圧の心音が急速に高まっていく。
 本来の寺に来た要件が、住職に賽銭泥棒の相談を受けたことだった。
 防犯に回す費用があまりないと言うことで、安い見守りカメラを購入し。機械に疎い住職に代わって、見守りカメラを設置するのが本来の要件だった。

「……」

 互いに無言のまま、階段の中腹辺りで交差する二人。
 莉奈は両手をポケットに入れ、明らかにバツが悪そうで不審な様子だった。
 猫やカラスが、階段上から不自然に威嚇の声をあげている。
 重圧は、咄嗟に莉奈の片腕を引っ張りあげた。

「っ!? な、何すんのよ!?」

 ポケットからは何枚もの小銭が溢れ。莉奈の手の中にも不自然な量の小銭があった。

「お前……これ……」

「な、何よ!! 疑ってんの!! 離せ、ブタ!!」

 疑っているが、そもそも重圧はまだ何も言っていない。
 莉奈は明らかな動揺を見せながらも、敵意を向けて掴んだ腕を振り解いた。
 そのまま階段を走る降りようとしだす。

「……お前が蹴った、三日月の痣がある猫……重症だぞ?」

 莉奈の足が止まったかと思えば、重圧にハッと振り返り詰め寄って来る。

「……見たの?」

 動揺は強まり、警戒心と敵意が膨れ上がった。
 重圧の中で怒りが膨らみ、莉奈が両方の犯人であると半ば確信した。

「お前ッ!! 何してんだよ!!」

 珍しく声を荒げた重圧に怯んだ莉奈が後ずさる。

「あっ!?」

「危なーー」

 急な階段を莉奈は踏み外し、重圧は咄嗟に伸ばされた掴んで引っ張り寄せる。
 二人の位置は入れ替わり、重圧が逆に落下しそうに。

「ッーー!?」

「キャッ!?」

 何とか耐えたものの、莉奈のことは半ば階段に向かい投げ捨てるような格好に。
 莉奈は短く悲鳴を上げると、身体を階段に打ちつけた。

「何すんのよ!?」

 倒れ込んだ格好のまま、莉奈は重圧の身体を手で押した。

「うお!?」

 あわや階段から滑り落ちたものの、幸いに二段程で落下は止まる。

「危ないだろ!!」

「手!!」

 莉奈が大声を張り上げると、階段についた手を眼前に掲げた。
 少しだけ擦り剥けていた。
 重圧は一瞬混乱して怯んだ。階段から落ちかけた莉奈を庇った身としては、理解し難い状況だった。

「ブタ風情が、この莉奈のことを……許さない……死ね!!」

 莉奈の全力に蹴りが顔面に入る。
 あまりの衝撃に、後方へひっくり返るようにノックバックする。

「ーーーーーーー!?!?!?」

 強烈な痛みが後頭部に走ったかと思えば、そのまま背中と後頭部に断続的な痛みが走り続けた。
 声にならない悲鳴をあげながら、重圧は動けなくなってしまう。
 何が起きたのか理解できない。
 痛みがあるにも関わらず、身体は重いのにフワフワ浮くような感覚が全身を包み込んだ。
 階段の方から機械的な何かに音が響く。
 何とか視線だけを向ければ、莉奈が引きつった笑みで見下ろしながら、携帯で撮影をしていた。

「いい気味♩」

 ようやく自身が蹴り落とされ、死にかけていることを理解できた。
 だが、理解が及んだ状況に反して、莉奈のことは理解し難かった。

(嘘だろ? こんな、ここまで酷いヤツだなんて……)

 あまりにも可愛い少女に、突然自分のような不細工な兄ができたことに対する遠慮はあった。
 理不尽に思いながらも、円満な家族を演じようと自分が少し我慢すれば全ては丸く収まると勘違いしていた。

(まさか、外でもこんなに酷いことをしてたなんて……)
(それに、俺……これ、死ぬんじゃ……)

 莉奈の様子から、悪事は賽銭泥棒程度では収まらないだろう。
 なにしろ、嫌いな相手とはいえ。仮にも家族を意図的に階段から突き落としたのだ。
 あまつさえ、動揺を見せながらも。死にかけている姿を笑って撮影までしている。

(ふざけるな……ふざけるな……)

 重圧はどちらかと言えば人が良く気が弱い。他人に対して怒りは覚えても、憎悪したことなどなかった。
 だが、意識が薄れ思考もままならぬ中で、心の底から莉奈のことを嫌悪し、憎しみを抱いた。
 もはや、普段良く抱いていた怒りの感情さえ掻き消えている。

(許さない……許しちゃいけない……)

 弱々しくなっていく思考の中で、使命感にも似た強い決意を心に秘める。
 
「ニャーー」

 近くから猫の鳴き声が聞こえる。

『カラスどもが、あの性悪娘がまた来たと騒いでおったから身体に鞭打って戻ってみれば、よもやこのような事態になっていようとはな』

 耳には猫の鳴き声が聞こえて来た。
 だが、その声は頭に入るや明確な言語となって聞こえてくるようだった。
 やけに荘厳に聞こえた。

『小僧、死んでくれるなよ? 我は治癒の力を自分には向けれても、他者には向けることができぬ』
『生き残ることが叶ったのなら、恩人の願いかつ我が報復相手に対する思い。成就させるために力を貸してやろう』
『かの者には、我らで罰をーー』

「キャアァァァーー」

「……」

 莉奈の悲鳴のようなものが聞こえたが、既にソレを気にする余裕もなかった。
 重圧は、もはや呻くこともできぬまま、頭に響く声の主が誰かも分からぬまま意識を失った。
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