【死神 × 人間】『ハッピー・ホーンテッド・マンション』【1分あらすじ動画あり】

郁雨いくううう!

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3話【死神ファンタジーBL / あらすじショート動画あり】

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9/9(Mon)
閲覧いただき、ありがとうございます。
今週は『ハッピー・ホーンテッド・マンション』の
動画再生数差が2ビュー多かったので、
こちらを更新させていただきます。

動画を見てくださった方、ありがとうございます!

〈現在レース更新中〉
↓↓以下の作品のあらすじ動画のビュー増加数に応じて、
週末に更新する作品を決めさせていただいていますm

◆『不惑の森』(ミステリーBL)
https://youtube.com/shorts/uVqBID0eGdU
◆『ハッピー・ホーンテッド・マンション』(死神×人間BL)
https://youtube.com/shorts/GBWun-Q9xOs
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「おっはよ~う。ハニー」
近くから陽気な声が降ってきた。
ぎくりと身を弾ませて、恐る恐る横を向く。

一瞬、夢の続きを見ているのかと思った。
すぐ隣のベッドの上で、悠輝が片肘をつき、横向きに寝そべっている。まるで眩しいものを見るように目を細め、完璧な笑顔を浮かべていた。窓から差し込む朝の光が、その爽やかな笑みをキラキラと照らし出す。

「亘。お前、ガリガリじゃないか。ダメだぞ。生きてる人間は健康が第一。幽霊みたいに不幸を煮詰めたような顔しちゃって」

一瞬、思考が追いつかなかった。
亘は欠け布団を引き寄せると、ベッドの縁まで勢い良く後ずさる。

「な、何でお前がまだここに!? お前は、寝不足が見せた幻覚のはずだろう!?」
悠輝の幻覚は、「まぁまぁ、落ち着けよ」と気障ったらしく手を上げてみせた。

もし、全ての状況──死んだ高校時代の友達が自分のアパートにいて、ベッドに寝そべっていること──を抜きにすれば、何とも目が覚めるような光景だった。

悠輝は昨日とは違い、白いシャツにスラックスという格好だった。シャツは第三ボタンまで開け放たれ、鎖骨から胸元のラインがなだらかに見えている。長い足はベッドに収まりきらず、無造作にはみ出していた。

(ほんと、何でこいつは昔から、こんなに見た目がいいんだ)
しかも今の悠輝は、高校時代の明朗で爽やかな少年の面影を残しつつも、成熟した大人の風格もたたえていた。

(悠輝は、こんな大人になったのか……)
彼が高校を離れて以来、二人が会うことはなかった。成長した悠輝は高級な洋酒のように、柔らかくも少し危険な雰囲気をたたていた。

……もちろん、身体が透けていることと、足の先が消えていることを抜きにすればだが。
見惚れてしまった自分にハッと気がついて、亘は慌てて首を振った。布団をかなぐり捨てて、ベッドから飛び降りる。

「亘……?」
問いかけてくる声を聞こえないふりをして、デスクの上にあるパソコンを起動させた。

「一体、何してるんだ?」
ベッドからのそりと身体を起した悠輝が聞いてくる。亘は没頭するあまり、反射的に答えていた。

「近くにある心療内科を探しているんだ。これが寝不足による幻覚でないとすると、適応障害かPTSDか、それか元々のASDが悪化しているとか……とにかく、そういう類いのものだと思う」
「動揺している割には、考えていることは冷静だね。さすが亘」

からかうような口調に、カッとうなじの温度が上がる。

「お前に、俺の何がわかるんだ。幻覚のくせに!」
「わかるよ。だって、俺、ずっと亘のことを見てきたから」
「ずっと……?」

思わず振り返っていた。悠輝はベッドの端に座り、広げた膝の上に肘をついていた。組んだ両手で顎を支え、うっすらと微笑んでいる。
亘はごくりと息を飲み、唇を湿らせた。頭の隅にある考えが過ぎり、サアッと血の気が引く。

「ま……まさかとは思うけど、お前、もしかして悠輝とそっくりの……ストーカー……とか?」
「あはは。やっぱり、相変わらずぶっ飛んだ思考回路してるな。5年経っても全然変わってない」
グッと唾を飲み込む。5年前のことを知っているということは、赤の他人であるはずがない。

「……お前は一体、何者なんだよっ!?」
溜まらず、語尾がうわずってしまう。

亘はガシガシと頭を掻き乱した。話せば話すほど、混乱してくる。自分の拳で頭を叩こうとしたが、グッと堪える。
悠輝が言った。

「俺は悠輝。悠輝の幽霊だよ」
しーん。沈黙が部屋を支配する。
亘はゆっくりとパソコンに向き直ると、素早い速さでキーボードを打ち始めた。

「心療内科 精神病院、幻覚、幻聴……よし、検索」
「おいおいおいおい! もうちょっとまともなリアクションくれてもいいんじゃないの!? 俺だよ、俺! お前の友達の俺なんだよ!」
「悪い。オレオレ詐欺なら他でやってくれ。こっちはそれどころじゃないんだ」
「『あーもしもし、オレ、オレだけど。あんたの死んだ息子だけど。ちょっとあの世へのお布施が足りないから、至急、振り込んでもらえない』ってか! そんなことあるはずないだろう!」

悠輝は一人でボケては、一人でツッコんでいた。
これだ。思い出した。
悠輝の唯一嫌なところ。それは、この緊張感のなさだ。奴はどんな真剣な状況でも、冗談を言わずにはいられない病気にかかっている──いや、いた。

「お願いだ。信じてくれよ。これだけは本気なんだ」
乞うような声に、思わず後ろを見る。悠輝は立ち上がり、真剣な表情で亘を真っ直ぐに見据えていた。

「俺は幻じゃない。帰ってきたんだよ」
亘はごくりと唾を飲み込む。緊張からか期待からか、知らず喉が震える。

「幽霊って……本当にあの幽霊?」
亘は、テレビ画面に目をやった。そこでは丁度、家に取り憑いた霊が、住人をあの世に引きずり込もうとしている場面だった。
霊の顔はドロドロに爛れ、憎悪と恨みで歪んでいた。

「いや、そっちじゃなくて!」
悠輝がテレビ画面の前に躍り出る。

「俺はこうゆう幽霊とは違う! どっちかっていうと『ゴースト ニューヨークの幻』とか『キャスパー』とかそっちの方だから! いや、もっと正確に言うならば『ジョー・ブラックによろしく』の方かも」
「…………?」

映画好きの悠輝のおかげで、亘もそれなりに詳しくはなっていた。だが、最後のタイトルだけは観たことがない。

「つまりだ」
悠輝はごほんと咳をして、胸をはった。興奮からか、鼻がひくひくと動いている。

「聞いて驚くなよ。俺は、そこらのニート幽霊とは違う! なんと、死神見習い中の幽霊なんだ!」
悠輝は、座椅子の上にかけてあった黒のジャケットを優雅に羽織った。その上腕の部分には、「死神研修中」と書かれた黄色と緑の腕章がかけられていた。

「死、神……?」
「そう。デカプリオみたいな。って言っても、あの映画の死神は、死神界の中でもトップ中のトップで、俺みたいな元人間の下っ端構成員には足元にも及ばない高貴な存在なんだけど」

一瞬でも耳を貸そうとした自分が馬鹿だった。
亘は無言で携帯を取ると、通話ボタンを押した。

「あ、もしもし上村病院さんですか? 実は──」
「亘! 亘ったら、ちょっと聞けって!」

突然、部屋の照明がちかちかと点滅し始めた。テレビ画面がザアッと乱れ、棚の上に置かれていた小物がグラグラと揺れ始める。
「何だ、これ……? どうなってるんだ?」
亘が電波の途切れた携帯から顔を上げると、悠輝は勝ち誇った顔をした。

「ポルターガイスト現象だよ。どうだ? これで信じる気になっただろう?」
「……じ」
「じ?」
「地震情報、調べなきゃ」

悠輝の肩がガクリと落ちる。

「何で、お前はそんなに頑固なんだ~」
呆れるような口調にさすがの亘もイラッときて、デスクにバンと手をついた。

「当たり前だ! 俺は現実主義者なんだ! 急に、幽霊だの死神だの言われたって信じられる訳ないだろう?」
亘は、悠輝を真っ直ぐに指さす。

「お前は俺の……後悔が作りだした幻だ。それ以外考えられない。だから、早く俺の頭の中から出て──くしゅんっ!」
たて続けに、くしゃみが出る。今まで興奮していたから気がつかなかったが、部屋の中は凍えるように寒かった。ふつふつと全身の肌に鳥肌がたち、両手で身体をさする。

「ごめん。俺のせいだ」
ふわりと何かが肩にかかる。顔を上げると、悠輝がいつの間にか目の前に立っていた。両手に持った掛け布団を亘の肩にかけ、胸の前で端を合わせる。

「ってか、お前もいくら家の中とはいえ、そんな無防備な格好してるなよ」
つられるように、自分の身体を見下ろす。すっかり忘れていたが、今の自分はシャツと下着一枚という格好だった。
突然、何とも言えない気恥ずしさが襲ってくる。

「ど、どうやってやったんだ、これ?」
誤魔化すように、はおった布団の裾を上げてみせる。すると悠輝は、

「見てて」
と、自分の掌を広げて見せた。
悠輝は意識を集中させるように、自身の指先をじっと見つめる。

変化は、次の瞬間に起こった。
悠輝の瞳の中でパチパチと銀色の閃光が弾ける。と同時に、半透明だった手が、指先から徐々に明確な色と形を持っていく。まるで、水が結晶化していくように。

「これこそが普通の幽霊にはない、死神の特権なんだ。死神は、必要な時に現実に干渉できる」
「現実に、干渉……?」

目の前の不思議な光景に釘付けになり、思わず尋ねていた。悠輝は完全に物質化した手先をなめらかに動かしながら、答える。

「あぁ。つまり、現実の物に触れたり、他の者の目にも見えるようなったりすること。ただどこまでできるかは、各々の死神の能力と経験によって決まる。それこそ人間として現世で生きている死神もいれば、俺みたいに幽霊と死神の間を彷徨っているペーペーもいる訳だ」
「でも一体、何のために……?」
「いい質問だ」

悠輝は、優秀な生徒を誉めるように言った。

「死神の役割は、死んだ者の魂を迎えにいくこと。で、死にかけの人間っていうのは、言ってしまえば、生と死の中間を彷徨っているようなものなんだ。だから、迎えにいく俺たちにもあの世とこの世、どちらにも関与できる力が必要になる」

亘は黙った。黙らざるをえなかった。
生まれてからこの方、死神の存在なんて信じたこともなければ考えたこともない。

そんな自分にどうやって、この話が本当かどうか判断できる?
いや、できるはずない。

『もしもーし。聞こえてますかー?』
片手に持っていた携帯電話の通話口から、気遣わしげな声が響いてきた。そうだ、すっかりと忘れていた。慌てて電話を耳に当てる。

「はいっ、すみません、ちょっと電波の調子が悪くて。そちら、上村医院さんですか?」
「そうですが。ご予約ですか?」

亘はちらりと悠輝の方を見た後、視線を手元に戻した。

「えぇ、できれば心療内科の予約をとりたいのですが」
「心療内科?」

待つこと数秒後。相手は「あー!」と声を上げた。

「心療内科ですね! あります、あります! 本日の予約でいいですか?」
亘は不安に思いながらも、今日の午前の予約をとりつけた。今は何でもいいから、この今の状況を客観的に考えたかった。

「亘? どこか行くの?」
着替えをすませ、机の上の物をバッグに入れていると、悠輝が聞いてきた。その横をすり抜けて、部屋を出る。

「亘!?」
玄関の前で振り返ると、廊下で立ちつくす悠輝と目が合った。その薄い色の瞳には、困惑の色がありありと浮かんでいる。
亘は痛む胸を意識しないように、自分の足元に視線をやった。

「……たぶん、次、俺が病院から帰ってきた時には……お前は、もうここにはいないと思うけど……」
わずかに顔を上げ、微笑んでみせる。

「悠輝。お前にまた会えて良かった。たとえ幻覚だったとしても。ありがとう……ごめんなさい」
それ以上耐えることができず、開けたドアから滑り込むように外へ出る。

「亘……」
ドアが完全に締まる直前、そう呟く悠輝の声が聞こえた。


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「郁嵐(いくらん)」名義で
ブロマンス風のゆるい歴史ファンタジー小説も書いています。
新連載を始めましたので、気軽におこしくださいませ~

◆あらすじ動画
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
※本編情報は概要欄にございます。

良い週をお過ごしください!
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