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第八章
アラフォー、決勝に出る
しおりを挟む「ついにここまで来たのう」
「ああ。とは言っても」
「観てるだけだった……」
貰った特別シード権。それは決勝への特急券だったのだ。要約すると「1000のターゲットを破壊できる三人をトーナメントに出したら大荒れするから決勝だけにしてくれ」と、大会組織委員会の会長……つまるところアスラフィル国王に言われたわけである。
当然大ブーイング……と思ったが観客はむしろ喜んでる。観客席にいる時に聞いたが特別シード権が発行されるのは500年ぶりらしくその存在は伝説とも言われていた様だ。
……で、私たちがその伝説の体現者、という事になる。
「さて、決勝は大賑わいじゃなぁ」
「凄い熱気……」
「こっちが飲まれそうだ」
緊張はするが大丈夫だろう。行くか。
——
「さぁ始まりました! アスラフィル闘技大会決勝! 両チーム、先鋒前へ!」
——ワアアアアア!!
「我が一番槍じゃな」
「よろしくお願い申し上げる」
ヴィルベルと対峙するのはいかにも老師と名のつきそうな武人。ただならぬ雰囲気だ。
「スタート!」
——シュン!
「なかなか良い動きじゃのう」
「ほうほう、これは見切られましたな」
あまりに早い二人の動き。100発が一瞬に込められている様な錯覚に陥る。これは達人……いや、それを凌駕する動きだ。リヴェラによる視覚補助とダークエンハンスを目に集めていなければ追えない。
「はあっ!」
「ぬっ! お主、龍闘気を?」
「ほんの少しですがな。長年修行してこれだけですわい」
「いやいや、人の身にしてここまで清みやかな龍闘気はすごいのじゃ! 嬉しいのう。我も龍闘気、使うとするかの」
ヴィルベルの言う龍闘気。それは龍が纏う武術の気。人がそれを会得するにはとんでもない経験と修行が必要らしい。だが身につければ地を割り、天を裂く力を得るとも言われている。
そして、その龍闘気はヴィルベルも当然使える。
「この姿を拝めること、誉れに思うがよいぞ! 武人よ!」
闇からヴィルベルが姿を再度現す。その姿は普段のヴィルベルとはまるで違う。
細くしなやかで滑らかな無駄の一切ない体。178cmはあろうかという長身に膝まである長い金髪。最低限の布面積。そして……
「ふぅ……久々に龍闘気が身体に駆け巡るのう!」
素人目にも分かる並々ならぬ気。それは当然相手にも伝わった様で。
「おお……なんという……! この目でその様に美しい龍闘気を拝めるとは……!」
武人は涙を流し、一礼する。
「お主、今までその龍闘気、十分に発揮できていなかったであろう? 我に撃つがよい。お主のありったけを」
「おお……おお……! なんとありがたい事か! ではいきまする」
武人は静かに構え直す。その身体には龍闘気が巡っている。丹念に練り込まれたそれは徐々に大きくなり……
「いきますぞ……『龍気閃光波』!」
——カッ!
凄まじい閃光の波動……まるで龍を象った様なそれがヴィルベルに直撃する。
長い長い気の放出。武人は大丈夫なのだろうか?
——シュウウウウ……
「……見事であるぞ、武人よ! この我の肌を焦がすとは!」
ヴィルベルの脇腹が少し焦げている。あの気を以ってしてヴィルベルにこれだけしかダメージは通らないのか。
「はぁ……はぁ……感無量ですじゃ……」
「お主、生命力も龍闘気に変換したのか!?」
「はい……ああ、人生無駄にはならず……」
「むぅ……惜しいのう。『龍気棘刺』!」
「ぬぁっ!? 引導を渡して下さるのか」
ヴィルベルの放つ貫手。それは心臓を貫き、武人を闇に包んだ。そして、闇が晴れると……
「……ん? 儂は何故生きて……?」
「お主を死なすには惜しいのでな。若返りのオマケ付きで復活させたのじゃ」
「なんという……」
「人間にとっての龍闘気の極意、若返りを会得せよ。それが我からの宿題じゃ」
「は、ははっ!」
「それとのう。若返ったんじゃから自称は改めるがよい。後は女子を抱け。お主は修行に明け暮れすぎじゃ。龍闘気極意への道にはおなごを抱くというのもあるのじゃよ」
「心得ました……! 儂……いや、俺は必ず……!」
「うむ。待っておるぞ。武人よ」
——ワアアアアア!!
二人のやりとりに観客が沸く。ヴィルベルの勝ちとなったが素晴らしいものだった。きっとヴィルベルも使い手を求めていたのだろう。
「ふぅ。久々に滾ったのう」
「お疲れ様。ヴィルベル」
いつもの小さい姿に戻ったヴィルベルはドサッとベンチに座る。多少疲れたか。
「次はリヴェラの番じゃな。頑張れ~」
「うん……行ってくる……」
さぁ、次だ。
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