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第33章~転生王子と出会いと別れ
エドの目標
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エドが聞いたという魔獣の話は、おそらく去年ステアの森に現れた山犬の魔獣のことだろう。
俺とカイルとコクヨウとヒスイで協力して、消滅させた魔獣だ。
俺は聖属性の動物を召喚獣にしていないけれど、その代わり鉱石を使って魔獣を消滅させることはできる。
鉱石を発動させる際、火の鉱石で『聖火』や水の鉱石で『聖水』などのように、聖属性を付与して魔獣を浄化させられるのだ。
ただ、魔獣を退治する術はあっても、とても危険であることに変わりはない。
通常であれば、クリティア聖教会に任せるべきところだ。
でも、たまたま森を訪れていたクリティア聖教の探索隊が襲われていると聞き、急遽助けに向かうことにしたのだった。
結果的に、その判断は正しかったと思っている。
魔獣化していたのは群れの中の一匹だったけど、仲間の山犬も魔獣の影響を受けて魔獣化する手前だったんだよねぇ。
救助を待っていたら、探索隊もステアも最悪な事態になっていたことだろう。
その当時のことを思い出しながら、俺はエドに優しく尋ねる。
「魔獣を見たことがないなら、本物かわからないもんね。噂を聞いて、勘違いしちゃったんだ?」
「はい。僕らを威嚇する山犬たちが怖くて、思わず『魔獣が現れたっ!』って叫んじゃったんです」
「恐怖を感じたら、叫んじゃうのも仕方ないわ」
アリスがそう言って慰め、トーマもコクコクと頷く。
「僕も山犬自体はカッコイイって思うけど、威嚇されたらやっぱり怖いもん」
「それで、視察団の人たちを混乱させちゃったんだな?」
レイが聞くと、ヴァンと護衛たちが渋い顔で頷く。
「視察団の人間も魔獣に遭遇した者がいなくて……」
「冷静になって統制が取れるまで時間がかかってしまって」
エドとヴァンの話に、俺は困り眉を作る。
「それは大変だったね」
魔獣は突然出現し、目撃情報があればすぐにクリティア聖教会が付近に結界を張って立入れないようにする。
だから、実際には見たことがない人も多いのだ。
とくにクロノア王国は島国だから、そこで出現したことがないなら、魔獣の噂自体聞いたことないかも。
エドが怖がるのも、視察団が混乱するのも仕方がないことかもなぁ。
カイルは真面目な顔で、ヴァンに確認する。
「魔獣ではないというのは間違いないのか?」
俺は違うと思っているが、カイルは気になったらしい。
確かに、俺たちが消滅させたのは、魔獣化した山犬だけだもんね。
元凶の魔獣が消滅したら、感化された仲間の山犬たちは元に戻るという。
それをヒスイから教わり、そのまま森に解放したのだ。
一応、しばらくの間は立入り禁止にしていたし、その後はクリティア聖教会が何度か調査をして、安全が確保されたので規制も解除されている。
俺が違うと思った理由の一つは、場所の違いだ。
ヴァンたちが山犬と出会ったと言っていた場所は、西の森。
山犬には群れごとにテリトリーがあるから、俺たちが解放した山犬とは違う群れだと思う。
群れからはぐれた山犬が、他の群れに入ると言う話も聞いたことがないしね。
カイルが質問の答えを待っていると、ヴァンはしっかりとした口調で答えた。
「魔獣ではなく、間違いなく野生の山犬です。その証拠に、食料は盗まれましたが、威嚇しただけで俺たちに攻撃はしてきませんでした。魔獣だったら、食料を盗むだけですまなかったはずです」
そこも俺が違うと思った、もう一つの理由だ。
万が一にも魔獣なら、エドもヴァンも護衛たちも無事でいられなかったと思う。
命を弄ぶことに喜びを感じ、力を欲するのが魔獣だ。
魔獣と対峙したことがある俺やカイルは、その恐ろしさを肌で感じている。
ヴァンに確認したカイルも、安心したようだ。
俺は一つ息を吐いて、微笑む。
「誰も怪我をしなかったなら良かったよ。魔獣でなくても野生の動物は、人間を襲うこともあるからね。生きていくために、獰猛になることもあるんだよ」
その言葉に、トーマはコクコクと頷き。それから、二人に尋ねる。
「もしかして、その事件が起きたのって春の中旬頃だったのかな?それなら、山犬の気が立っていた理由もわかるんだけど……」
尋ねられたエドとヴァンは、驚いた顔をする。
「そうです!春の中旬でした」
「理由がわかるんですか?
トーマは「やっぱり」と呟いて、にこっと笑った。
「春は子犬が生まれて、山犬のメスは一番気が立っている時期なんだよ。オスたちもそんなメスや子犬を守ろうとするから、とても攻撃的なんだ」
「あぁ、その頃って子犬に栄養をあげようと、たくさん食料も必要になるんだよね」
俺がそう補足すると、レイがパチンと指を鳴らした。
「なるほど!だから、食料を盗んでいったわけだな?」
「その可能性が高いね。もしそうだとしたら、無事だったのは運が良かったかもしれないねぇ」
トーマの言葉に、俺は大きく頷く。
「そうだね。もっと興奮して、こちらに襲いかかってきていたかもしれない」
俺は言いながら、両手で引っ掻くポーズを作る。
エドとヴァンと護衛たちは、俺たちの会話を聞いて血の気が引いたのか、顔色が悪くなった。
怖がらせちゃったかな。
でも、また同じことが起こらないとも限らないもんなぁ。
自分たちが危機的状況だったことをしっかり認識することは、結構大事なのだ。
『魔獣じゃなくて良かった』で終わっていたら、似たようなことが起きた時にまた同じことを繰り返すからね。
魔獣でも野生の動物でも、あらゆる不測の事態に対応できるようにしとかないと。
これは基礎的なことなんだけど……。
クロノア王国の兵士たちは、訓練で教わらないのかな。
俺は後ろに控えている、護衛のロードとピークスに視線を向ける。
俺と目があった彼らは、居心地悪そうに大きな体を小さく縮こませた。
ヴァンは彼らのことを、国の中でも腕が立つ者たちだと言っていた。
実際、単独行動をするエドの護衛の任ついているのだから、視察団の護衛の中でも優れた部類なのだろう。
だけど、この二人。エンペラーシープの事件の時に、エドに近付いた俺とカイルを制圧しようとして、逆に俺たちに投げ返されちゃったんだよなぁ。
俺たちが子供だから油断していたにしても、護衛としてちょっと心許ない。
グレスハート王国では、まず王族の近衛兵にはなれないだろう。
クロノア王国は温厚な人が多くて平和らしいから、強化していないのかなぁ。
カイルはヴァンをじっと見据えて言う。
「作ったばかりの使節団なら、経験が少ないのも仕方ないとは思うが……。よくクロノア国王陛下が、その視察団に王子が同行することを許してもらえたな」
ヴァンはチラッとエドを見る。
「それは……」
口ごもるヴァンに代わって、エドがおずおずと口を開く。
「父上や母上、大臣たちも、初めは不安そうでしたが、僕のお願いを聞いてくれたんです」
不安はあったが、エドが同行を望んだから許可したってことか。
エドに甘いのか、絶対的な信頼があるのか……。
今のエドの年齢は、俺がステアに留学した年齢と同じ七歳。
つまり、俺が親元を離れて他国へ渡ったのと同じ年齢である。
俺の時は結構、許可をもらうまで時間かかったんだよなぁ。
俺は国内にいるとどうしても注目されちゃうから、いつかはのんびり留学したいなって考えていた。
その後、カイルも学校に行かせてあげたいなって思っていた頃、身分関係なく学べるステア王立学校の話を父さんから聞いて、獣人のカイルも通えるか確認してもらったんだよね。
そこから、俺もカイルと一緒の学校に通いたいと、父さんと母さんを説得し始めたのだ。
アルフォンス兄さんやレイラ姉さんに知られたら、絶対に反対されて阻止されるだろうから、まず父さんたちから味方にしようと思ったのである。
兄姉に知られないように、プレゼン資料を作って、父さんを説得するのはめちゃくちゃ苦労したなぁ。
父さんは普段はとても優しいけど、頑固なところもあるからね。
コクヨウやヒスイがいるから安全面は心配していないけど、俺から目を離すのがすごく不安だったみたい。
まぁねぇ、国内ならどうにかなることも、遠く離れたステアじゃ対応できないこともあるもんね。
説得は大変だったけど、味方になってくれた後の父さんたちはとても頼もしかった。
入試を受ける時も兄姉にバレないようにしてくれたし、兄姉の説得も引き受けてくれた。
さらに後で知ったことだが、ティリアに住むステラ姉さんに留学中のフォローを頼んだり、アリスを一緒に留学させたり、ステア王国の女王陛下に手紙を送ってくれていたり、いろいろと対策をとってくれていたらしい。
知った当初は俺の信用度低いなぁと思ったが、今思えば親の大きな愛情だよね。
ともあれ、準備や対策をいろいろとってくれて、なんとか留学することができたのだった。
それを考えると、クロノアの視察団もエドも、準備や対策が足りていない気がするんだよねぇ。
カイルは真面目な顔で、ヴァンに向かって言う。
「従者として、反対しなかったのか?国王陛下やご家族がお願い事に弱いなら、意見を言えるのはヴァンだけだろう」
「反対は……何度もしましたが……、エド様の意志が固くて」
ヴァンは絞り出すかのような声で言って、キュッと唇を噛む。
意思を尊重して、結局は反対しきれなかったのかな?
「エドの意志って言うのは、国の役に立てるような立派な人間になるっていうこと?」
俺が聞くと、エドは胸の辺りの服を掴んでコクリと頷く。
それはとても素晴らしい目標だと思うけど……。
俺はエドとヴァンに向かって、優しい口調で話す。
「僕が話を聞いた限りでは、エドにはまだ視察団の同行は早かったんじゃないかと思うんだ。厳しいことを言うようだけど、事前に旅の基礎的な知識を得てからとか、もう少し準備をしてから次回の視察に同行したら良かったんじゃないかな」
俺の言葉を聞いて、エドは悲しそうな顔になる。
可哀想だけど、誰も止めてくれないというこの状況は、エドにとって危険だ。
俺にはコクヨウとヒスイがいるし、転生した知識を使って自分で対処できる部分がある。
それに、自分の限界を超えて危ないことをしそうなら、止めてくれる家族や友人がいる。
一方エドの場合は、護衛に不安があるのに、エドは一直線に事件に向かうし、誰もそれを制御できていない。
俺から見れば、かなり綱渡り状態。
よく今まで無事だったなって、心底思う。
「どうして焦っているのかな?君は平民の僕を師匠にしようなんていう、身分に囚われない柔軟性がある。困っている人がいたら助けたいと思う、優しさがある。経験したことを学んで、常に次に活かそうと考えるところも偉いなって思うよ。いつかは立派な王子様になれるよ」
俺が微笑むと、エドは目に一杯涙を貯め、顔をふにゃっと歪めた。
「いつかじゃ駄目なんです。早く立派で、国の役に立つ王子になれないと、グレスハートの王子様みたいになれないんですぅぅ」
泣きだすエドの発言に、俺たちはぎょっとする。
「「「「「「え!?」」」」」」
俺とカイルとコクヨウとヒスイで協力して、消滅させた魔獣だ。
俺は聖属性の動物を召喚獣にしていないけれど、その代わり鉱石を使って魔獣を消滅させることはできる。
鉱石を発動させる際、火の鉱石で『聖火』や水の鉱石で『聖水』などのように、聖属性を付与して魔獣を浄化させられるのだ。
ただ、魔獣を退治する術はあっても、とても危険であることに変わりはない。
通常であれば、クリティア聖教会に任せるべきところだ。
でも、たまたま森を訪れていたクリティア聖教の探索隊が襲われていると聞き、急遽助けに向かうことにしたのだった。
結果的に、その判断は正しかったと思っている。
魔獣化していたのは群れの中の一匹だったけど、仲間の山犬も魔獣の影響を受けて魔獣化する手前だったんだよねぇ。
救助を待っていたら、探索隊もステアも最悪な事態になっていたことだろう。
その当時のことを思い出しながら、俺はエドに優しく尋ねる。
「魔獣を見たことがないなら、本物かわからないもんね。噂を聞いて、勘違いしちゃったんだ?」
「はい。僕らを威嚇する山犬たちが怖くて、思わず『魔獣が現れたっ!』って叫んじゃったんです」
「恐怖を感じたら、叫んじゃうのも仕方ないわ」
アリスがそう言って慰め、トーマもコクコクと頷く。
「僕も山犬自体はカッコイイって思うけど、威嚇されたらやっぱり怖いもん」
「それで、視察団の人たちを混乱させちゃったんだな?」
レイが聞くと、ヴァンと護衛たちが渋い顔で頷く。
「視察団の人間も魔獣に遭遇した者がいなくて……」
「冷静になって統制が取れるまで時間がかかってしまって」
エドとヴァンの話に、俺は困り眉を作る。
「それは大変だったね」
魔獣は突然出現し、目撃情報があればすぐにクリティア聖教会が付近に結界を張って立入れないようにする。
だから、実際には見たことがない人も多いのだ。
とくにクロノア王国は島国だから、そこで出現したことがないなら、魔獣の噂自体聞いたことないかも。
エドが怖がるのも、視察団が混乱するのも仕方がないことかもなぁ。
カイルは真面目な顔で、ヴァンに確認する。
「魔獣ではないというのは間違いないのか?」
俺は違うと思っているが、カイルは気になったらしい。
確かに、俺たちが消滅させたのは、魔獣化した山犬だけだもんね。
元凶の魔獣が消滅したら、感化された仲間の山犬たちは元に戻るという。
それをヒスイから教わり、そのまま森に解放したのだ。
一応、しばらくの間は立入り禁止にしていたし、その後はクリティア聖教会が何度か調査をして、安全が確保されたので規制も解除されている。
俺が違うと思った理由の一つは、場所の違いだ。
ヴァンたちが山犬と出会ったと言っていた場所は、西の森。
山犬には群れごとにテリトリーがあるから、俺たちが解放した山犬とは違う群れだと思う。
群れからはぐれた山犬が、他の群れに入ると言う話も聞いたことがないしね。
カイルが質問の答えを待っていると、ヴァンはしっかりとした口調で答えた。
「魔獣ではなく、間違いなく野生の山犬です。その証拠に、食料は盗まれましたが、威嚇しただけで俺たちに攻撃はしてきませんでした。魔獣だったら、食料を盗むだけですまなかったはずです」
そこも俺が違うと思った、もう一つの理由だ。
万が一にも魔獣なら、エドもヴァンも護衛たちも無事でいられなかったと思う。
命を弄ぶことに喜びを感じ、力を欲するのが魔獣だ。
魔獣と対峙したことがある俺やカイルは、その恐ろしさを肌で感じている。
ヴァンに確認したカイルも、安心したようだ。
俺は一つ息を吐いて、微笑む。
「誰も怪我をしなかったなら良かったよ。魔獣でなくても野生の動物は、人間を襲うこともあるからね。生きていくために、獰猛になることもあるんだよ」
その言葉に、トーマはコクコクと頷き。それから、二人に尋ねる。
「もしかして、その事件が起きたのって春の中旬頃だったのかな?それなら、山犬の気が立っていた理由もわかるんだけど……」
尋ねられたエドとヴァンは、驚いた顔をする。
「そうです!春の中旬でした」
「理由がわかるんですか?
トーマは「やっぱり」と呟いて、にこっと笑った。
「春は子犬が生まれて、山犬のメスは一番気が立っている時期なんだよ。オスたちもそんなメスや子犬を守ろうとするから、とても攻撃的なんだ」
「あぁ、その頃って子犬に栄養をあげようと、たくさん食料も必要になるんだよね」
俺がそう補足すると、レイがパチンと指を鳴らした。
「なるほど!だから、食料を盗んでいったわけだな?」
「その可能性が高いね。もしそうだとしたら、無事だったのは運が良かったかもしれないねぇ」
トーマの言葉に、俺は大きく頷く。
「そうだね。もっと興奮して、こちらに襲いかかってきていたかもしれない」
俺は言いながら、両手で引っ掻くポーズを作る。
エドとヴァンと護衛たちは、俺たちの会話を聞いて血の気が引いたのか、顔色が悪くなった。
怖がらせちゃったかな。
でも、また同じことが起こらないとも限らないもんなぁ。
自分たちが危機的状況だったことをしっかり認識することは、結構大事なのだ。
『魔獣じゃなくて良かった』で終わっていたら、似たようなことが起きた時にまた同じことを繰り返すからね。
魔獣でも野生の動物でも、あらゆる不測の事態に対応できるようにしとかないと。
これは基礎的なことなんだけど……。
クロノア王国の兵士たちは、訓練で教わらないのかな。
俺は後ろに控えている、護衛のロードとピークスに視線を向ける。
俺と目があった彼らは、居心地悪そうに大きな体を小さく縮こませた。
ヴァンは彼らのことを、国の中でも腕が立つ者たちだと言っていた。
実際、単独行動をするエドの護衛の任ついているのだから、視察団の護衛の中でも優れた部類なのだろう。
だけど、この二人。エンペラーシープの事件の時に、エドに近付いた俺とカイルを制圧しようとして、逆に俺たちに投げ返されちゃったんだよなぁ。
俺たちが子供だから油断していたにしても、護衛としてちょっと心許ない。
グレスハート王国では、まず王族の近衛兵にはなれないだろう。
クロノア王国は温厚な人が多くて平和らしいから、強化していないのかなぁ。
カイルはヴァンをじっと見据えて言う。
「作ったばかりの使節団なら、経験が少ないのも仕方ないとは思うが……。よくクロノア国王陛下が、その視察団に王子が同行することを許してもらえたな」
ヴァンはチラッとエドを見る。
「それは……」
口ごもるヴァンに代わって、エドがおずおずと口を開く。
「父上や母上、大臣たちも、初めは不安そうでしたが、僕のお願いを聞いてくれたんです」
不安はあったが、エドが同行を望んだから許可したってことか。
エドに甘いのか、絶対的な信頼があるのか……。
今のエドの年齢は、俺がステアに留学した年齢と同じ七歳。
つまり、俺が親元を離れて他国へ渡ったのと同じ年齢である。
俺の時は結構、許可をもらうまで時間かかったんだよなぁ。
俺は国内にいるとどうしても注目されちゃうから、いつかはのんびり留学したいなって考えていた。
その後、カイルも学校に行かせてあげたいなって思っていた頃、身分関係なく学べるステア王立学校の話を父さんから聞いて、獣人のカイルも通えるか確認してもらったんだよね。
そこから、俺もカイルと一緒の学校に通いたいと、父さんと母さんを説得し始めたのだ。
アルフォンス兄さんやレイラ姉さんに知られたら、絶対に反対されて阻止されるだろうから、まず父さんたちから味方にしようと思ったのである。
兄姉に知られないように、プレゼン資料を作って、父さんを説得するのはめちゃくちゃ苦労したなぁ。
父さんは普段はとても優しいけど、頑固なところもあるからね。
コクヨウやヒスイがいるから安全面は心配していないけど、俺から目を離すのがすごく不安だったみたい。
まぁねぇ、国内ならどうにかなることも、遠く離れたステアじゃ対応できないこともあるもんね。
説得は大変だったけど、味方になってくれた後の父さんたちはとても頼もしかった。
入試を受ける時も兄姉にバレないようにしてくれたし、兄姉の説得も引き受けてくれた。
さらに後で知ったことだが、ティリアに住むステラ姉さんに留学中のフォローを頼んだり、アリスを一緒に留学させたり、ステア王国の女王陛下に手紙を送ってくれていたり、いろいろと対策をとってくれていたらしい。
知った当初は俺の信用度低いなぁと思ったが、今思えば親の大きな愛情だよね。
ともあれ、準備や対策をいろいろとってくれて、なんとか留学することができたのだった。
それを考えると、クロノアの視察団もエドも、準備や対策が足りていない気がするんだよねぇ。
カイルは真面目な顔で、ヴァンに向かって言う。
「従者として、反対しなかったのか?国王陛下やご家族がお願い事に弱いなら、意見を言えるのはヴァンだけだろう」
「反対は……何度もしましたが……、エド様の意志が固くて」
ヴァンは絞り出すかのような声で言って、キュッと唇を噛む。
意思を尊重して、結局は反対しきれなかったのかな?
「エドの意志って言うのは、国の役に立てるような立派な人間になるっていうこと?」
俺が聞くと、エドは胸の辺りの服を掴んでコクリと頷く。
それはとても素晴らしい目標だと思うけど……。
俺はエドとヴァンに向かって、優しい口調で話す。
「僕が話を聞いた限りでは、エドにはまだ視察団の同行は早かったんじゃないかと思うんだ。厳しいことを言うようだけど、事前に旅の基礎的な知識を得てからとか、もう少し準備をしてから次回の視察に同行したら良かったんじゃないかな」
俺の言葉を聞いて、エドは悲しそうな顔になる。
可哀想だけど、誰も止めてくれないというこの状況は、エドにとって危険だ。
俺にはコクヨウとヒスイがいるし、転生した知識を使って自分で対処できる部分がある。
それに、自分の限界を超えて危ないことをしそうなら、止めてくれる家族や友人がいる。
一方エドの場合は、護衛に不安があるのに、エドは一直線に事件に向かうし、誰もそれを制御できていない。
俺から見れば、かなり綱渡り状態。
よく今まで無事だったなって、心底思う。
「どうして焦っているのかな?君は平民の僕を師匠にしようなんていう、身分に囚われない柔軟性がある。困っている人がいたら助けたいと思う、優しさがある。経験したことを学んで、常に次に活かそうと考えるところも偉いなって思うよ。いつかは立派な王子様になれるよ」
俺が微笑むと、エドは目に一杯涙を貯め、顔をふにゃっと歪めた。
「いつかじゃ駄目なんです。早く立派で、国の役に立つ王子になれないと、グレスハートの王子様みたいになれないんですぅぅ」
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