転生王子はダラけたい

朝比奈 和

文字の大きさ
上 下
323 / 340
第32章~転生王子と聖なる髪の少年

サンドイッチ

しおりを挟む
 マシューがこっちに来ていると思ってなかったからそれは予定外だったけど、ニコさんの分のお弁当は初めから用意していたし。
 コクヨウがおかわり欲しい時用にと思って、多めに作ってきていたんだよね。
 「ただ、僕の作ってきたのも、具をパンで挟んだサンドイッチなんだよね。それでよければどうぞ」
 俺の言葉には、マシューとニコさんは席に座り直す。
 「フィル君の作ったサンドイッチなら、間違いないですよ。嬉しいなぁ」
 「僕も楽しみだよ。マシューや師匠から聞いて、ずっと食べたいと思っていたんだよねぇ」
 マシューとニコさんは期待満面の顔をしている。
 本当の兄弟ではないけど、喜ぶ顔がそっくりだなぁ。
 俺はクスッと笑って、ニコさんに尋ねる。
 「ニコさん、お弁当を出したいので、テンガを召喚してもいいですか?……それから、ついでにコクヨウも。お昼におやつをあげないと拗ねるので」
 俺がため息交じりに言うと、ニコさんは小さく噴き出した。
 「もちろんいいよ」
 ニコさんの許可をもらって、俺はテンガとコクヨウを召喚する。
 俺はテンガとコクヨウを抱き上げ、ベンチに座らせた。
 「テンガさっそくだけど、お弁当を出してもらえる?用意していたやつ全部」
 【了解っす!】
 テンガは元気な声で返事をして、お腹の袋に前足を入れてゴソゴソと探る。
 テンガの袋は収納は大きいのだが、袋の入口の幅には限りがある。
 大きなお弁当箱は出せないので、小分けにする必要があった。
 ただ、この場合だと大きさは問題なくとも、回数が多くなるんだよね。
 サンドイッチのランチボックスが六個と、おかずが入ったランチボックスが五個。
 デザートのプリンは、俺たちの分にコクヨウのおやつを足した九つも出さなきゃいけない。
 毎度のことながら、テンガには苦労をかけるなぁ。
 テンガが一生懸命に、ポケットからプリンを出しているのを見ると、申し訳ない気持ちになってくる。
 作業服も持って来なきゃ行けなかったからお弁当はテンガに頼んだけど、バッグがパンパンになっても自分で持って来れば良かっただろうか。
 夏のこの時期は食中毒も心配だけど、ザクロがいてくれればその心配もないし。
 まぁ、どっちみち柔らかいプリンはお任せしていただろうけど……。
 【これで最後っす!】
 やりきったとばかりに、テンガは鼻息を吐く。
 「いつもありがとうね」
 俺はよしよしと頭を撫でて、存分に褒める。
 褒められて嬉しかったらしく、テンガは【へへへ】と照れくさそうな笑い声を上げた。
 召喚獣は主人の役に立つことこそが喜びというが、こんなに喜んでくれると、こちらも幸せになるなぁ。
 ほっこりしていると、ベンチにお座りしていたコクヨウが俺に向かって言う。
 【フィル、皆が待っているではないか】
 ハッと我に返った俺は、皆に謝る。
 「あ、お待たせしてすみません。一つずつどうぞ」
 俺がニコさんたちにお弁当を配っていると、コクヨウは俺の膝をむぎゅむぎゅと踏む。
 【我にもだ。蓋を開けるのも忘れるな】
 食いしん坊な殿様だな。
 むぎゅむぎゅする姿は可愛いけどさ。
 俺はコクヨウとテンガのお弁当の蓋を開けてあげる。
 「テンガのは特別だよ」
 【わ!野菜たっぷりっす!】
 テンガは野菜が好きなので、サンドイッチの具は数種類の野菜をたっぷり詰めた。
 いつも頑張ってくれている、せめてものご褒美である。
 しかし、テンガのお弁当を見たコクヨウは、鼻にシワを作る。
 【草のみで何が美味いのか。こっちの方が断然美味いのに】
 そう言って、さっそくサンドイッチにかぶりつく。
 コクヨウのサンドイッチは、俺たちと同じものだ。
 コクヨウを羨ましげに見ているマシューとニコさんに向かって、お弁当の説明をする。
 「こちらのサンドイッチの具は、ステアエビとクィールとチーズが挟んであります」
 ステアエビはステアの川で取れる淡水のエビ。川エビだけど、十センチほどある大きなエビだ。
 クィールはアボカドに似た木の実で、濃厚な味は同じだが、種が小さくて実の色が黄色い。
 「おかずはフライドポテトにオニオンリングフライ、卵焼きと野菜の酢漬けが入っています」
 お弁当を開けたニコさんとマシューは、感嘆の声を漏らす。
 「わぁ!美味しそう~!僕らのお昼ご飯と大違いだ!」
 「豪華なお弁当ですね!ニコ兄さん!」
 二人の反応に、俺は苦笑する。
 「普段も栄養を考えてくださいね。お仕事をするには、ちゃんと食べないと」
 ニコさんとマシューは反省した様子で、コックリと頷いた。
 「本当だね。こう見ると、自分たちのご飯は力が出そうにないメニューだ」
 その言葉に俺は微笑んで、お弁当を手の平で指した。
 「では、皆でお弁当を食べて午後も頑張りましょう」
 俺が促すと、一斉にサンドイッチにかぶりつく。
 俺も大きな口で、サンドイッチを頬張った。
 咀嚼は大変だけど、外で食べる時ははみ出すくらいがいいよね。
 「美味しいっ!茹でたステアエビとクィールとチーズの相性がいい!この一体感はサンドイッチだから?」
 驚嘆しているニコさんに、マシューがサンドイッチを指して言う。
 「このソースが一体感を強めているんですよ!フィル君、このソースなんですかっ!」
 勢いよくこちらに顔を近付けてきたので、俺は少しのけ反りながら言う。
 「マ……マヨネーズソース」
 「ママヨネーズソース!すごいですね、ママヨネーズソース!」
 興奮するマシューに、俺は落ち着けと手で制止する。
 「ごめん、違う。ママヨネーズじゃなくて、マヨネーズ。卵と油と酢と塩でベースのマヨネーズを作って、サンドイッチに合うようそこに胡椒とかハーブが入っているんだ」
 「初めて食べたら、美味しさに驚きますよね」
 カイルはマシューの気持ちはよくわかると、大きく頷く。
 あぁ、そうか。カイルとかにはマヨネーズ食べさせたことあるけど、マシューたちは初めてだもんね。初めて食べるなら、驚くかも。
 とくに今朝作ったばかりだし。
 出来たてマヨネーズって、段違いに美味しいもんねぇ。
 俺だって初めて作って食べた時は、市販のマヨネーズとの味の違いに衝撃を受けたくらいだ。
 「卵ソースと似ているけど、違うんだね。本当に美味しいよ。マヨネーズソース」
 感嘆するニコさんに、俺は笑う。
 「材料はほぼ一緒ですけど、油の分量とかかき混ぜる回数とかが違うので」
 こちらの世界にも同じ材料を使った卵ソースはあるが、マヨネーズとは全くの別物だ。
 作り方が変わると、こんなにも変わるんだから、料理って不思議。
 「この揚げたお芋も美味しいですけど、このトマトソースが美味しいです!」
 マシューが指をさすのは、フライドポテトとそこに添えられたケチャップだ。
 「それはケチャップっていうソースだよ」
 「ケチャップ。……僕が知るトマトソースより滑らかで、とても複雑な味だ」
 ニコさんも目を大きく見開いて、驚いている。
 「丁寧に裏ごしして、スパイスもいろいろ入れて煮込んでいるので、いつものトマトソースとは少し違うかもしれませんね」
 そう話す俺に、マシューはケチャップをたっぷりつけたフライドポテトを頬張りながら言う。
 「けひゃっぷ、おいひいれす!感動しまひた!」
 そんなマシューを見て、コクヨウはフンと鼻息を吐く。
 【ソース如きで驚くなど……。我はフィルの美味い料理を食べ慣れておるからな。これくらいで驚いたりせぬわ】
 余裕のある口ぶりである。
 確かに、コクヨウは美味いって言うくらいで、そんなに感動や驚きは出さないよね。
 でも、コクヨウがケチャップやマヨネーズを初めて食べた時、がっつきが良かったことを俺は覚えている。
 今も口元のケチャップだらけだしなぁ。
 俺はそれをキレイに拭ってやりながら、ため息を吐く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

捨てられ令嬢の恋

白雪みなと
恋愛
「お前なんかいらない」と言われてしまった子爵令嬢のルーナ。途方に暮れていたところに、大嫌いな男爵家の嫡男であるグラスが声を掛けてきてーー。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

伯爵令嬢は婚約者として認められたい

Hkei
恋愛
伯爵令嬢ソフィアとエドワード第2王子の婚約はソフィアが産まれた時に約束されたが、15年たった今まだ正式には発表されていない エドワードのことが大好きなソフィアは婚約者と認めて貰うため ふさわしくなるために日々努力を惜しまない

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。