転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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第32章~転生王子と聖なる髪の少年

五人のコーディネイター

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 「残るは服ね。フィル君、服は持ってきてくれた?」
 ライラに聞かれて、俺は部屋の隅に置いていたボストンバックを持って来る。
 「クローゼットの中から、色んなタイプの服を持ってきたよ」
 そう言って、バックから服を取り出す。
 色はあまり派手ではない、黒や茶や紺などの暗めの色や、モスグリーンや灰色やペールブルーなどくすんだ色。
 服はラフなものからお出かけ用など、様々なタイプを持ってきた。
 それらをズボン・ベスト・シャツ・ネクタイなどの小物に分類して、テーブルの上に並べる。
 レイはシャツを一枚手に取って、感心したように呟く。
 「へぇ、手触り良くて、縫製が綺麗だ。形も普通かなって思ったけど、よく見ると細かいところにデザイン性があるし」
 それを聞いて、俺はにこっと笑う。
 「僕の好みに合わせて色や形は控えめだけど、アルフォンス兄さまが選んで買ってくれたものだからね」
 先日帰郷した時、アルフォンス兄さんがプレゼントしてくれた服。
 それらは、金糸もフリルもリボンもついていないものが多かった。
 でも、形はシンプルながら、水玉やチェック柄の生地だったり、ワンポイントの刺繍が入っていたり、襟や袖にデザインが施されていたりする。
 さりげないお洒落さがある服なのである。
 「アルフォンス殿下のプレゼントかぁ。それじゃあ、納得だ。服に興味のないフィルが選んだにしては、センスが良すぎる」
 合点がいったというスッキリ顔のレイを見て、俺は「むぅ」と口を尖らす。
 アルフォンス兄さんがセンスがいいのは、俺が一番わかっているし、張り合おうとは露ほどにも思っていない。
 実際、俺は着心地良くてシンプルなら、何でもいいやって気持ちがあるし。
 でも、別にセンスが皆無っていうわけではないんですけど。
 拗ねている俺に気付き、レイは「くくく」と笑う。
 「悪かったよ。言い過ぎたって。それより、早く組み合わせ考えようぜ」
 服好きなレイは、ワクワクした顔で言う。
 すると、トーマがひざ丈のオーバーオールを手に取った。
 色は薄レンガ色。テラコッタとも呼ばれる色だ。
 「鍛冶場にも行くなら、動きやすい服がいいよね。このズボンは?」
 そう言って掲げると、アリスはコクコクと頷く。
 「それ、すごくいいと思う!フィルが着たら絶対に可愛い!」
 かなり力の入った大賛成だな。
 俺が驚いていると、それに気が付いたアリスは頬を染めて小さく咳払いをする。
 「可愛いだけじゃなく、トーマが言ったように作業用の服として、その服は鍛冶場にピッタリだと思うわ。ただ、作業用の服とは別に、お店に出る時用にもう一着考えた方がいいとは思うけれど」
 アリスの意見に、ライラが同意する。
 「あぁ、そうね。鍛冶場は動きやすい服、お店はきちんとした服で分けた方がいいわね。ちなみに、私もその服は作業用の服として賛成よ」
 二人の話を聞いて、トーマは小首を傾げる。
 「鍛冶場とお店、同じ服じゃダメなの?」
 ライラは微笑みながら、コックリと頷いた。
 「別の服がいいと思うわ。いくら体験学習とはいえ、店員は店の顔だもの。きちんとした格好じゃないと」
 その説明に、カイルがふと思い出した顔で言う。
 「そう言えば、ライラは以前、ニコさんにも似たようなことを言っていたもんな」
 あ~、そうだった。
 ライラをニコさんのお店に連れて行って、何度目の時のことだっただろうか。
 俺が出会った当初、ニコさんはお店の接客の時も作業服だったんだよね。
 そんな作業服姿のニコさんに向かって、ライラは言ったのだ。
 『ニコさん!お店に来る度に思っていましたが、どうして毎回作業着なんですか?店の人間は、店の顔ですよ?印象も大事なんです。衛生面を考えても、鍛冶場と販売店は服装を分けたほうがいいです!』って。
 あの時のニコさん、ライラの勢いに気圧されて、たじたじだったっけ。
 だけど、そのアドバイスは、効果抜群だったんだよね。
 「あの後、ライラの言われた通りに作業着をやめたら、お客さんの入りが良くなったし、売り上げも上がったって言っていたよね」
 俺が笑いながら言うと、ライラは大きく頷く。
 「よく知っているお店や店主さんなら、どんな格好でも関係ないと思うんだけどね。初めて来るお客様の場合は、店員の服装とかお店の内装って、入店や購入の判断基準になったりするのよ。だから、店主も従業員も清潔感があってきちんとした服装でなくてはならないわけ」
 その言葉を聞いたレイは、呆れた顔で言う。
 「きちんとって……、フィルに女の子の格好をさせようとしていたじゃねぇか」
 すると、ライラは目をクワッと見開いて言う。
 「フィル君なら女の子の格好をしても、きちんとした格好になるわよ!バレないくらいの美少女っぷりだし!」
 それは、褒め言葉……なのだろうか。
 口ぶりからするとそうなんだろうが、微妙な気持ちである。
 「とりあえず、あまり人前に出ないから、作業用の服はそのズボンと半袖でいいかな?」
 俺が皆の顔を見回して聞くと、全員コクリと頷いた。
 「では、店のきちんとした服を選ばないとですね」
 カイルの呟きに、皆は再びテーブルに並べられている服に視線を戻す。
 すると、レイがいい物を見つけたらしく、パァッと顔を綻ばせた。
 「なぁ、この組み合わせは?濃い緑の短いズボンに、ワイン色の半袖シャツ。ここに、緑の蝶ネクタイと、サスペンダーをつけたら完璧じゃね?」
 レイはテーブルの上に、選んだ服を組み合わせて並べる。
 組み合わせは、とても素敵だと思う。
 赤と緑は反対色で、お互いを引き立たせる色だ。
 色合いも落ち着いているから、派手さは全くない。
 アイテムの組み合わせも、お洒落なレイらしいチョイスだと思う。
 だけど、これって……クリスマスカラーだ。
 蝶ネクタイに星の刺繍がされているから、余計にクリスマスツリーを連想させる。
 いや、別にダメなわけではないんだよ。
 こちらの世界にクリスマスは存在しないから、当然クリスマスカラーだと思うの俺だけだし。
 でも、何となくお店の中で、自分一人だけ浮かれているような気がしちゃうんだよなぁ。
 うぅ~ん、ただ単に俺の気持ちの問題だから、気にしなかったらそれでいいんだけど……。
 服を見つめて唸る俺に、自信満々だったレイが拗ねる。
 「何だよ。気に入らないのか?」
 その言葉に、俺は慌てて首を横に振る。
 「あ、いや、違う!すごく素敵だと思うよ。でも、その……できれば上下は同じ系統の色がいいかな。この組み合わせって、お洒落すぎで目立っちゃう気がするんだ」
 俺がそう言い訳すると、レイは途端に機嫌がなおった。
 「そっか!俺にしてみたら、地味な組み合わせなんだけどなぁ。俺のお洒落さが、隠しきれなかったかぁ。あははははは」
 満更でもなさそうに笑って、頭を掻く。
 良かった。どうにかクリスマスカラーを回避できた。
 ホッとしていると、今度はライラが俺に向かって「ねぇねぇ」と手招きする。
 「同系色がいいなら、これならどう?茶色の短いズボンに、同じ色のベスト。シャツは薄い黄土色のシャツと、エンジ色のネクタイ」
 ライラは選んだ服を、重ねて並べる。
 「茶系でまとめたのかぁ」
 「店員さんぽくていいかもね」
 俺とトーマが頷いていると、レイが渋い顔をする。
 「フィルは何でも似合うと思うけどさぁ。地味すぎだろ」
 「地味な組み合わせなのは当然よ。今回は目立たないことが第一なんだから」
 言い返すライラに、レイはため息を吐く。
 「だけど、ニコさんの店の内装って、床も壁もこの茶色に似た色の木材を使っているだろ?背景に同化しちゃうじゃん」
 俺は同化という言葉に反応して、身を乗り出す。
 「同化したい!」
 先日まで、目立ちたくないあまり、透明になる方法を模索していた俺である。
 同化して、目立たなくなってみたい!
 レイは前のめりになる俺の肩を押して、元の姿勢に戻す。
 「キラキラした目をするな。店員が店に同化したら、ダメだろうが」
 「突然、店員さん現れたら驚くかもしれないよぉ」
 レイやトーマの言葉に、俺は我に返る。
 「あ……そうか」
 目立ちたくはないが、お客さまにはちゃんと見えていなくちゃいけないよな。
 忍者みたいでいいなと思ったんだけど。
 刃物のあるお店で、驚かしたらダメな気がする。
 ライラはシュンとする俺をチラッと見て、小さく肩を竦める。
 「フィル君の場合、同化するくらいがちょうどよくない?何をしても、どんな格好でも、フィル君は目立つもの」
 ……俺、同化しても目立つの?
 ショックである。
 
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