転生王子はダラけたい

朝比奈 和

文字の大きさ
表紙へ
上 下
225 / 330
15巻

15-1

しおりを挟む



 1


 ステア王立学校が長い冬休みに入った。
 だが、グレスハート王国に帰郷ききょうした俺――フィル・グレスハートは、のんびりするひまもなくバタバタと慌ただしく動いている。
 もうすぐグレスハート皇太子であるアルフォンス兄さんと、コルトフィア王国のルーゼリア王女の婚姻式こんいんしきがあるからだ。
 婚姻式の準備や、担当している新規観光事業の確認など、毎日やることがいっぱい。
 大変だけど、なかなか経験できることじゃないからとても楽しい。
 ただ、公務の時は変装しなきゃいけないのが面倒なんだよなぁ。
 まぁ、致し方ないといえば、致し方ないんだけどね。
 だって、そのままの姿で公務をしていたら、グレスハートに来た学校の知り合いが俺を見つけて王子だと気づくかもしれないし、来賓らいひんの人たちも俺の人相にんそうを覚えちゃうかもしれない。
 平民フィル・テイラとして学校に通い続けるためには、バレないようになるべく気をつけないといけないのだ。
 眼鏡をかけて、ヘアセットして、王子様みたいなフリフリ洋服を着て……。
 変装っていうか、もう仮装だよね。毎日これではさすがに疲れるし、ストレスもたまる。
 そこで、父さんの許可を得て、変装を解いて森に遊びに行った。
 観光客も来ない森なら人目を気にする必要がないし、森の動物や妖精に会って気分転換できる――そう思っていたのに、まさか友人のトーマとライラとレイ、後輩のミゼットに会うなんて。
 皆、グレスハートに来る予定がないって言っていたから、すっかり油断していた。
 しかも、ついに王子だって身バレしちゃうし!!
 誤魔化ごまかしのきく状況でもなかったので、俺は覚悟を決めて友人たちだけには話すことにしたんだ。
 鉱石屋の一角を借りて、自分がグレスハートの第三王子で日干ひぼ王子おうじという愛称で呼ばれていることを。
 そんな俺に続き、友達であり臣下のカイルも自らが獣人であることを告白した。
 俺の告白よりも、ずっと怖かったと思う。だって、ルワインド大陸古代戦争で敗北した獣人は、ルワインド大陸でみ嫌われる存在。
 今は擁護ようごする人も増えてきたようだが、それでもルワインド出身のレイやライラに告白するのは、とても勇気がいることだ。
 友だちに存在を否定されたら、カイルはどうなってしまうだろうかと、俺まで怖くなる。
 ……だけど、そんなカイルに、ライラやトーマはあたたかい言葉をかけてくれた。
 レイはカイルに向かって「カイルはカイルだ」って、本気で怒ってくれた。
 カイルには、ありのままを受け入れてくれる友だちが増えたんだ。


 鉱石屋の一角にあるテーブルで、対面しているレイとライラとトーマに向かって、俺とカイルはペコリと頭を下げた。

「レイ、ライラ、トーマ。友だちのままでいてくれて、ありがとう」
「ありがとう、皆」

 すると、レイは照れた顔をする。

「改めて礼なんかするなよ」
「だって正直、絶交される可能性もあるだろうって思っていたんだ。本当に怖かった」

 俺がそう言うと、カイルも視線を落としてうなずく。

「そうですよね。獣人であることもそうですが、隠していたこと自体を裏切りだととらえられてしまうこともあるでしょうし……」
「それを言ったら、俺やライラだって身分を隠していたんだから立場は一緒だろ」

 俺が身バレする直前、レイも身分をいつわって学校に通っていたことがわかった。
 本当の名前はレイ・ザイド。ルワインド大陸バルサ国、ザイド伯爵家当主の令息らしい。
 レイ・クライスと名乗っているが、クライスは母方の家名だそうだ。

「だから、フィルたちのこと怒れねぇよ。なぁ? ライラ」

 レイはライラに向かって同意を求める。

「ええ。フィル君やカイル君が隠さなければならなかった理由は、とてもよくわかるもの。そのことを知って、話せなかったアリスの気持ちもね」

 ライラは俺の幼馴染おさななじみであるアリスに微笑ほほえみ、アリスも嬉しそうに微笑み返す。

「ありがとう、ライラ」
「今このメンバーで怒れる人間っていったら……トーマくらいか」

 レイは、親指でトーマを指す。

「なるほど、そうだな」
「トーマ君にだけ隠し事がなかったわけだものね」

 カイルやライラが納得するように言うと、のんびりとお茶を飲んでいたトーマは目を大きく見開く。

「え! 僕? ビックリはしたけど、怒ったりはしないよ。皆のこと好きだもん。今も、学校にいる時みたいだなぁって、ホッとしていたくらいだよ」

 困り顔のトーマに、皆は笑う。ひとしきり笑ったレイは、大きく息を吐いた。

「カイルたちほどではないけどさ。俺も怖かった。俺の身分を明かしたあと、フィルたちとの関係が変わったらどうしようって考えていたから」
「そっか、レイは僕に身分を明かすつもりだったんだよね」

 レイの身分が俺たちにバレた時、そのようなことを言っていた。
 レイは自分の着ている服に視線を落とす。

「婚姻式が終わるまでグレスハートに長期滞在するって聞いたから。こういう服を着て歩いている俺を、フィルたちが目撃するかもしれないだろ。それなら、先に話しておこうかなって」

 レイが着ているのは、貴族の子息が着るような上質な服だ。
 確かに、何も知らないままこの姿のレイを見かけたら、相当おどろいただろうな。
 というか、もし変装していた公務中の俺と、レイが会っていたらどうなっていたんだろ。
 街に出るような公務は大方終わっているけれど、場合によってはキラキラ王子にふんする俺と、伯爵令息として振る舞うレイが顔を合わせていた……なんて可能性があったかも。
 想像するだけで、なんか怖い。
 トーマはお茶のカップを置き、レイに向かっておずおずとたずねる。

「レイの家はバルサ国の伯爵家なんだよね? 僕、ルワインドの貴族家のことあまり知らないんだけど……」

 申し訳なさそうなトーマに、レイは「そういや、詳しく話してなかった」と苦笑する。

「他の大陸の貴族のことなんて、知らないよな。でも、ルワインド大陸内でザイド伯爵家は、わりと有名なほうだと思う。バルサ国建国当初からある古い家門だからな」
「家格で言ったら、ザイド家はバルサ国の伯爵家の中でも一番上なのよ」

 ライラの補足説明に、レイはコクリと頷く。

「俺の父親であるアミル・ザイドは、そのザイド家の当主で、俺はそこの一人息子ってわけ。今は父親がバルサ国にいて、俺と母さんはカレニア国にいる。家名を名乗りたくないから、母方のクライスを名乗っているけど、俺のせきはザイド家にあるんだ」
「名乗りたくないって言うのは、詮索せんさくされたくないから?」

 俺がレイの顔をうかがいつつ尋ねると、レイはまゆひそめる。

「それもあるし、そもそもザイド家の人間が好きじゃないんだ。古い家だから、やたらとプライドが高かったり、陰険だったり、身分を笠に着る奴らが多くてさぁ。サヒルをパワーアップさせた感じ」

 レイは心底嫌そうに、顔をゆがませる。
 サヒルというのは、レイを目のかたきにし、つっかかってきていた少年だ。
 平民を馬鹿にしたり、自分の立場が上であることを自慢したりしていた。
 まぁ、サヒルはレイとよく比較されていたみたいだから、劣等感から虚勢を張っていただけな気がするけどね。
 そんなサヒルをパワーアップさせた親戚たちかぁ。ちょっと嫌だな。
 そういえばサヒルが、現当主は次代のザイド当主の座をサヒルの父親にがせる予定だとか言っていた。

「サヒルは近い親戚なんだよね?」
「そう。父方の従兄弟いとこ。だから、あいつが暴力を振るおうとしたことを、フィルが大事おおごとにしないでいてくれたのは、ザイド家としては助かったんだ。国際問題になっていたら、サヒルと叔父おじがどうなっていたか興味はあるけど」

 レイはちょっと悪そうな顔で、片方の頬を上げて笑う。

「そうなったら、ご当主のレイのお父様にも影響あるのがわかってて言ってるでしょ」

 眉を顰めるライラに、レイは肩をすくめる。
 そうなんだよね。子供とはいえ、一族の人間が問題を起こせば、親だけじゃなく当主や一族に影響が及ぶこともある。

「サヒル、反省してくれるかな?」

 トーマの言葉に、レイは腕組みして低くうなった。

「どうかなぁ。さっきも言ったけど、サヒルだけじゃなく、周りにいる親戚もあんな感じだから。俺の母さんが商家の出だってだけで、俺も母さんもルワインドにいた時はそりゃあ嫌味を言われてたよ」

 ライラもレイの言葉に、深く頷く。

「ザイド家には、うちのアブド男爵家を貴族として認めないって人が多かったわねぇ。サヒルみたいに表立って嫌味を言うことはなかったけど、裏では結構いろいろあったみたい。周りの貴族もザイド家ににらまれたくないから、同じような感じだったし」

 ライラは当時のことを思い出したのか、目がわっている。

「そうなのか? アブド家はルワインドで手広く商売をやっていたんだから、世話になっている人が多かったはずじゃ?」

 カイルの問いに、ライラはクワッと目を見開き、テーブルを叩いた。

「そう! うちが商売をやめたら、自分たちが困るくせにね! 歴史が浅いことと、商売をやっていることを馬鹿にするのよ。おそらく商売をやめさせて、財力をぐつもりだったんだわ。そもそもうちが爵位をもらえたのは、ご先祖様が商売で国に貢献したからよ。やめるわけないでしょ!」

 そう言って、再びテーブルを叩く。
 結構大きい音を立てているけど、痛くないのかな。
 怒り心頭のライラに、レイは落ち着けというジェスチャーをする。

「俺の両親が知り合ったきっかけが、ライラのお母上だったせいもあるんだろ?」
「え! そうなの?」

 興味津々きょうみしんしんで尋ねるアリスに、叩いた手をさすりながらライラは頷いた。

「私の母とレイのお母様が親友だって、前に話したことあるでしょ。レイのお母様はアブド家にとついだ私の母を訪ねて、よくバルサ国へ遊びにいらしていたそうなの。その時に知り合いになったみたい」
「その頃、俺の父親は当主になったばかりだったんだけど、バルサ国公爵家の令嬢と婚約する話が出ていたらしい。だから、母さんとの婚姻は、親族連中から猛反対されたって聞いた。ザイド家のアブド家への当たりが強かったのは、それを根に持ってるからだぜ、絶対」

 レイはそう言って、フンと鼻を鳴らす。

「だけど、反対されても婚姻なさったのね。ミゼットさんも、レイのお父様はレイと奥様のことを大事に思ってらっしゃるって言っていたわ」

 微笑むアリスに、レイはふと真顔になって視線を下げる。

「……それは、ミゼットちゃんに聞いた。俺と母さんをザイド家の連中から逃がすために、カレニアにやったって。だけど、その時も説明なしだったんだぜ! 俺はともかく、少なくとも母さんはルワインドに残りたがっていた。辛かったとしても、父さんのそばにいて支えたいと思っていた。俺にバレないように、父さんを思って泣いていたんだ。せめて、ちゃんと話して、納得させるべきだろ」

 いら立ちを抑えようとしているのか、レイは大きく息を吐く。
 レイがお父さんに対してかたくななのは、お母さんを悲しませたお父さんが許せないのかも。
 今朝、城で会ったレイの両親たちを思い出す。
 うーん。確かにレイのお父さんは、話すのが上手じゃなさそうだったっけ。
 二人が互いに思ったことを話せれば、状況は変わりそうな気はするんだけど。

「ねぇ、レイ。一回ちゃんと、おじ様とお話ししてみたほうがいいんじゃないの? 跡取りのことにしろ、おじ様にも何かしらの事情やお考えがあると思うの」

 ライラが真面目な顔でそう言うと、アリスはそれに頷く。

「そうね。ザイド家の人から守ろうとしたこともそうだし、ミゼットさんを引き取った経緯からみても、非情な方だとは思えないわ」

 トーマもライラたちの意見に賛同する。

「うん。僕も話したほうがいいと思う。レイに心配かけたくなくて、話せないでいるのかもしれないよ」

 レイは乗り気じゃないようで、難しい顔で皆を見回した。
 ちょうど俺と目が合ったので、俺は言う。

「レイに複雑な気持ちがあるのはわかっているよ。でも、事情を知りたいと思っているなら、まず話をしてみないと」

 俺の言葉に、レイは深いため息をいた。

「俺だって……そう思うけどさぁ。あの無表情を前にして、話ができる気がしないんだよ。何考えてんのか読めねぇんだもん」

 そう言って、ガシガシと頭をく。
 レイは見た目に気をつかうタイプで、いつも綺麗きれいに髪をセットしている。
 乱暴に頭を掻いたせいで髪形がくずれてしまったが、それを気にする余裕もないようだ。

「バルサ国の上流階級の方々は表情を隠すのが上手いけど、おじ様の仮面は特に完璧かんぺきだものね」

 苦笑するライラに、俺とカイルはうなる。

「確かに、あれほど何を考えているのか読めない人は、僕も初めてだったよ」
「俺もあれほど表情が変わらない人は、ルワインドでも会ったことがありません」
「え、会ったのか!?」

 驚愕きょうがくするレイに、俺たちは頷く。

「実は今朝、僕とカイルとアリスでお城の廊下を歩いていた時、偶然レイのご両親に会ったんだ」
「すごい鉄面皮てつめんぴだったろ。俺、母さん似だから、息子って言うと驚かれるんだ」

 肩をすくめるレイに、アリスは微笑む。

「確かにレイの雰囲気や顔はお母様似ね。でも、髪や瞳の色はお父様譲りだと思うわ。色合いが同じ」

 言われたレイは少し複雑な表情で、自分の髪をつまんで「そうかな?」とつぶやく。
 そんなレイを見つめ、カイルが少し寂しそうな顔で言う。

「レイ、後悔しないようにしろよ。俺の両親は……ある日を境に家に帰ってこなくなった。生死もわからない。話したくても話せないんだ」

 それを聞いて、レイたちの表情が硬くなる。

「今でもたまに、話したいなって思うことがある。フィル様のこととか。獣人でもいいっていう、友だちができたこととか……」

 言葉が出ないレイに、カイルは小さく笑った。

「レイも、今のままじゃ中途半端な気持ちのままだろ。ちゃんと話し合って、それで本当に相容あいいれないというなら、それは仕方ないと思う。どんな結論をつけても、俺たちはレイの味方だから」

 その言葉に、俺たちは強く頷いた。

「そうだね。僕たちも応援するから、頑張ってみよう。せっかくミゼットちゃんが機会を作ってくれたんだから、話し合ってみなよ。婚姻式までうちの国に滞在する予定なんでしょ?」

 俺が微笑むと、レイはコクリと頷いた。

「うん……わかった。なんとか話せるよう努力するよ」

 レイの大きな決断に、俺たちは安堵あんどの息を吐く。
 すると、トーマが少ししょんぼりする。

「その努力、見届けられないのが残念」
「あ、そうか。レイとライラは婚姻式まで滞在する予定だけど、トーマはお父さんと一緒に帰っちゃうんだっけ?」

 確認する俺に、トーマは悲しそうな顔で頷く。

「そう。明日お父さんと帰るんだ。レイのことは気になるけど……」

 そう言って、チラッとレイを見る。その眼差しを受けて、レイは慌てた。

「そ、そんな目で見られても、今日話すのは無理だからな。しばらくは仕事で忙しいみたいだから、多分俺と落ち着いて話をする時間もないと思うし、俺だって心の準備が……」

 わたわたとするレイに、トーマは肩を落とす。

「わかってるよ。はぁ~、僕も皆と一緒に婚姻式まで滞在したかった」

 トーマはそう言って、深く長いため息を吐く。

「あぁ、そうだよな。せっかくこうして会えたわけだし……」
「皆で一緒に観光できたら、きっと楽しいわよね」

 レイやアリスが気の毒そうに言う。
 俺もそう思う。身分もバレてお互いの事情もわかったことだし、公務の合間を見て皆にグレスハートを案内してあげたいよなぁ。
 俺は腕組みをして、考える。

「トーマのお父さんが許してくれるなら、滞在してもらいたいけど……。宿屋は埋まっているよね?」

 確認すると、カイルは眉を寄せて頷く。

「そう聞いています」

 新しい宿屋は五日後にオープンするけど、そこもすでに予約はいっぱいなんだよね。
 オープンしたらそちらに宿を変える予定の人もいるそうだけど、空いた部屋もこれから来る予定のお客様で予約が埋まってしまっているしなぁ。
 第一、部屋が空いていたとしても、トーマだけ残ることになったら、子供一人で宿屋に泊まらせることになる。それは、かなり不安だ。

「俺のとこは、ザイド家の連中も出入りするからなぁ。嫌な目にあわせたくないし……」
「私の住むメイドたちの宿舎は、パーティーのためにメイドを増やしたからいっぱいなのよね」

 レイはしぶい顔で唸り、アリスは頬に手を当てて息を吐いた。

「俺の部屋なら滞在できますよ。グレスハート城内ですから、陛下の許可が必要になりますが……」

 カイルの申し出を受け、俺はトーマに視線を向けながら言う。

「父さまは許可してくれると思うよ」

 だが、トーマはブルブルと顔を横に振っていた。

「お城に滞在なんて無理だよぉぉ」

 レイはわかるぞといった顔で、震えるトーマの肩を叩く。

「フィル、俺でも長期でお城に泊まるのはさすがに無理だ」
「……そうか」

 フレンドリーなグレスハート王家だけど、やはり宿泊するとなるとハードルが高いか。
 そもそも、お城も準備でバタバタしているから、落ち着かないかな。
 ん~どうしたものかな。
 俺が悩んでいると、ライラが笑顔で手を挙げた。

「泊まるところなら、なんとかなるかも。商人たちのために、トリスタン家で宿を一棟確保してるのよ。調整すれば、多分二人くらい泊められると思うわ」
「えぇ! 本当に!?」

 席を立ったトーマに、ライラはにこっと笑った。

「友人たちを招くこともよくあるから、お父様も許可してくださるわ。まぁ、その前にトーマのお父様が滞在を許可してくださったらの話だけどね」
「宿に帰ったら、お父さんにお願いしてみる!」

 トーマは笑顔で言った。
 すると、ちょうどその時、裏口のほうから足音とともに俺の護衛であるマイク・スケルスとカーク・キナス、通称スケさんとカクさんがやって来た。
 サヒルやミゼットをそれぞれの宿に送って、戻ってきたらしい。

「フィル様、ただいま戻りました」
「途中で、トーマ君のお父さんのいる宿に寄ってきましたよ。再注文を受け、一旦帰国したあと、品物を持ってまたグレスハートに戻ってくるらしいです。なので、トーマ君が残りたいなら、その間もグレスハートに滞在してもいいそうです」
「「え!」」

 タイムリーな報告に、俺たちは声を揃えて驚く。

「すごい。どうして?」

 許可を取ってきてほしいなんてお願いしていなかったのに。
 俺が聞くと、スケさんは得意げに胸を張る。

「俺がトーマ君なら、滞在したいだろうなぁと思いまして。なかなかお友だち全員が、こうして休み中に集まる時はないでしょうから」
「宿泊先は我々近衛兵このえへいの住む宿舎を予定していましたが、先ほど耳にしたお友だちと一緒の宿屋のほうがいいかもしれませんね」

 カクさんはそう言って、ニコッと笑う。
 近衛兵の宿舎は、城の敷地内にある建物だ。
 その選択肢もあったな。まぁ、それも父さんの許可が必要だったわけだけど。

「ありがとう、スケさんカクさん」

 俺がお礼を言うと、続いてトーマもペコリと頭を下げてお礼を言う。

「ありがとうございます!」

 婚姻式まで数週間。グレスハートに滞在する皆とどうやって過ごそうか、考えるだけでわくわくする。
 その気持ちは皆も一緒らしく、お互い顔を見合わせて笑顔になった。


しおりを挟む
表紙へ

あなたにおすすめの小説

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

突然現れた妹に全部奪われたけど、新しく兄ができて幸せです

富士とまと
恋愛
領地から王都に戻ったら、妹を名乗る知らない少女がいて、私のすべては奪われていた。 お気に入りのドレスも、大切なぬいぐるみも、生活していた部屋も、大好きなお母様も。 領地に逃げ帰ったら、兄を名乗る知らない少年がいて、私はすべてを取り返した。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。