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15巻
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ステア王立学校が長い冬休みに入った。
だが、グレスハート王国に帰郷した俺――フィル・グレスハートは、のんびりする暇もなくバタバタと慌ただしく動いている。
もうすぐグレスハート皇太子であるアルフォンス兄さんと、コルトフィア王国のルーゼリア王女の婚姻式があるからだ。
婚姻式の準備や、担当している新規観光事業の確認など、毎日やることがいっぱい。
大変だけど、なかなか経験できることじゃないからとても楽しい。
ただ、公務の時は変装しなきゃいけないのが面倒なんだよなぁ。
まぁ、致し方ないといえば、致し方ないんだけどね。
だって、そのままの姿で公務をしていたら、グレスハートに来た学校の知り合いが俺を見つけて王子だと気づくかもしれないし、来賓の人たちも俺の人相を覚えちゃうかもしれない。
平民フィル・テイラとして学校に通い続けるためには、バレないようになるべく気をつけないといけないのだ。
眼鏡をかけて、ヘアセットして、王子様みたいなフリフリ洋服を着て……。
変装っていうか、もう仮装だよね。毎日これではさすがに疲れるし、ストレスもたまる。
そこで、父さんの許可を得て、変装を解いて森に遊びに行った。
観光客も来ない森なら人目を気にする必要がないし、森の動物や妖精に会って気分転換できる――そう思っていたのに、まさか友人のトーマとライラとレイ、後輩のミゼットに会うなんて。
皆、グレスハートに来る予定がないって言っていたから、すっかり油断していた。
しかも、ついに王子だって身バレしちゃうし!!
誤魔化しのきく状況でもなかったので、俺は覚悟を決めて友人たちだけには話すことにしたんだ。
鉱石屋の一角を借りて、自分がグレスハートの第三王子で日干し王子という愛称で呼ばれていることを。
そんな俺に続き、友達であり臣下のカイルも自らが獣人であることを告白した。
俺の告白よりも、ずっと怖かったと思う。だって、ルワインド大陸古代戦争で敗北した獣人は、ルワインド大陸で忌み嫌われる存在。
今は擁護する人も増えてきたようだが、それでもルワインド出身のレイやライラに告白するのは、とても勇気がいることだ。
友だちに存在を否定されたら、カイルはどうなってしまうだろうかと、俺まで怖くなる。
……だけど、そんなカイルに、ライラやトーマはあたたかい言葉をかけてくれた。
レイはカイルに向かって「カイルはカイルだ」って、本気で怒ってくれた。
カイルには、ありのままを受け入れてくれる友だちが増えたんだ。
鉱石屋の一角にあるテーブルで、対面しているレイとライラとトーマに向かって、俺とカイルはペコリと頭を下げた。
「レイ、ライラ、トーマ。友だちのままでいてくれて、ありがとう」
「ありがとう、皆」
すると、レイは照れた顔をする。
「改めて礼なんかするなよ」
「だって正直、絶交される可能性もあるだろうって思っていたんだ。本当に怖かった」
俺がそう言うと、カイルも視線を落として頷く。
「そうですよね。獣人であることもそうですが、隠していたこと自体を裏切りだと捉えられてしまうこともあるでしょうし……」
「それを言ったら、俺やライラだって身分を隠していたんだから立場は一緒だろ」
俺が身バレする直前、レイも身分を偽って学校に通っていたことがわかった。
本当の名前はレイ・ザイド。ルワインド大陸バルサ国、ザイド伯爵家当主の令息らしい。
レイ・クライスと名乗っているが、クライスは母方の家名だそうだ。
「だから、フィルたちのこと怒れねぇよ。なぁ? ライラ」
レイはライラに向かって同意を求める。
「ええ。フィル君やカイル君が隠さなければならなかった理由は、とてもよくわかるもの。そのことを知って、話せなかったアリスの気持ちもね」
ライラは俺の幼馴染であるアリスに微笑み、アリスも嬉しそうに微笑み返す。
「ありがとう、ライラ」
「今このメンバーで怒れる人間っていったら……トーマくらいか」
レイは、親指でトーマを指す。
「なるほど、そうだな」
「トーマ君にだけ隠し事がなかったわけだものね」
カイルやライラが納得するように言うと、のんびりとお茶を飲んでいたトーマは目を大きく見開く。
「え! 僕? ビックリはしたけど、怒ったりはしないよ。皆のこと好きだもん。今も、学校にいる時みたいだなぁって、ホッとしていたくらいだよ」
困り顔のトーマに、皆は笑う。ひとしきり笑ったレイは、大きく息を吐いた。
「カイルたちほどではないけどさ。俺も怖かった。俺の身分を明かしたあと、フィルたちとの関係が変わったらどうしようって考えていたから」
「そっか、レイは僕に身分を明かすつもりだったんだよね」
レイの身分が俺たちにバレた時、そのようなことを言っていた。
レイは自分の着ている服に視線を落とす。
「婚姻式が終わるまでグレスハートに長期滞在するって聞いたから。こういう服を着て歩いている俺を、フィルたちが目撃するかもしれないだろ。それなら、先に話しておこうかなって」
レイが着ているのは、貴族の子息が着るような上質な服だ。
確かに、何も知らないままこの姿のレイを見かけたら、相当驚いただろうな。
というか、もし変装していた公務中の俺と、レイが会っていたらどうなっていたんだろ。
街に出るような公務は大方終わっているけれど、場合によってはキラキラ王子に扮する俺と、伯爵令息として振る舞うレイが顔を合わせていた……なんて可能性があったかも。
想像するだけで、なんか怖い。
トーマはお茶のカップを置き、レイに向かっておずおずと尋ねる。
「レイの家はバルサ国の伯爵家なんだよね? 僕、ルワインドの貴族家のことあまり知らないんだけど……」
申し訳なさそうなトーマに、レイは「そういや、詳しく話してなかった」と苦笑する。
「他の大陸の貴族のことなんて、知らないよな。でも、ルワインド大陸内でザイド伯爵家は、わりと有名なほうだと思う。バルサ国建国当初からある古い家門だからな」
「家格で言ったら、ザイド家はバルサ国の伯爵家の中でも一番上なのよ」
ライラの補足説明に、レイはコクリと頷く。
「俺の父親であるアミル・ザイドは、そのザイド家の当主で、俺はそこの一人息子ってわけ。今は父親がバルサ国にいて、俺と母さんはカレニア国にいる。家名を名乗りたくないから、母方のクライスを名乗っているけど、俺の籍はザイド家にあるんだ」
「名乗りたくないって言うのは、詮索されたくないから?」
俺がレイの顔を窺いつつ尋ねると、レイは眉を顰める。
「それもあるし、そもそもザイド家の人間が好きじゃないんだ。古い家だから、やたらとプライドが高かったり、陰険だったり、身分を笠に着る奴らが多くてさぁ。サヒルをパワーアップさせた感じ」
レイは心底嫌そうに、顔を歪ませる。
サヒルというのは、レイを目の敵にし、つっかかってきていた少年だ。
平民を馬鹿にしたり、自分の立場が上であることを自慢したりしていた。
まぁ、サヒルはレイとよく比較されていたみたいだから、劣等感から虚勢を張っていただけな気がするけどね。
そんなサヒルをパワーアップさせた親戚たちかぁ。ちょっと嫌だな。
そういえばサヒルが、現当主は次代のザイド当主の座をサヒルの父親に継がせる予定だとか言っていた。
「サヒルは近い親戚なんだよね?」
「そう。父方の従兄弟。だから、あいつが暴力を振るおうとしたことを、フィルが大事にしないでいてくれたのは、ザイド家としては助かったんだ。国際問題になっていたら、サヒルと叔父がどうなっていたか興味はあるけど」
レイはちょっと悪そうな顔で、片方の頬を上げて笑う。
「そうなったら、ご当主のレイのお父様にも影響あるのがわかってて言ってるでしょ」
眉を顰めるライラに、レイは肩をすくめる。
そうなんだよね。子供とはいえ、一族の人間が問題を起こせば、親だけじゃなく当主や一族に影響が及ぶこともある。
「サヒル、反省してくれるかな?」
トーマの言葉に、レイは腕組みして低く唸った。
「どうかなぁ。さっきも言ったけど、サヒルだけじゃなく、周りにいる親戚もあんな感じだから。俺の母さんが商家の出だってだけで、俺も母さんもルワインドにいた時はそりゃあ嫌味を言われてたよ」
ライラもレイの言葉に、深く頷く。
「ザイド家には、うちのアブド男爵家を貴族として認めないって人が多かったわねぇ。サヒルみたいに表立って嫌味を言うことはなかったけど、裏では結構いろいろあったみたい。周りの貴族もザイド家に睨まれたくないから、同じような感じだったし」
ライラは当時のことを思い出したのか、目が据わっている。
「そうなのか? アブド家はルワインドで手広く商売をやっていたんだから、世話になっている人が多かったはずじゃ?」
カイルの問いに、ライラはクワッと目を見開き、テーブルを叩いた。
「そう! うちが商売をやめたら、自分たちが困るくせにね! 歴史が浅いことと、商売をやっていることを馬鹿にするのよ。おそらく商売をやめさせて、財力を削ぐつもりだったんだわ。そもそもうちが爵位をもらえたのは、ご先祖様が商売で国に貢献したからよ。やめるわけないでしょ!」
そう言って、再びテーブルを叩く。
結構大きい音を立てているけど、痛くないのかな。
怒り心頭のライラに、レイは落ち着けというジェスチャーをする。
「俺の両親が知り合ったきっかけが、ライラのお母上だったせいもあるんだろ?」
「え! そうなの?」
興味津々で尋ねるアリスに、叩いた手をさすりながらライラは頷いた。
「私の母とレイのお母様が親友だって、前に話したことあるでしょ。レイのお母様はアブド家に嫁いだ私の母を訪ねて、よくバルサ国へ遊びにいらしていたそうなの。その時に知り合いになったみたい」
「その頃、俺の父親は当主になったばかりだったんだけど、バルサ国公爵家の令嬢と婚約する話が出ていたらしい。だから、母さんとの婚姻は、親族連中から猛反対されたって聞いた。ザイド家のアブド家への当たりが強かったのは、それを根に持ってるからだぜ、絶対」
レイはそう言って、フンと鼻を鳴らす。
「だけど、反対されても婚姻なさったのね。ミゼットさんも、レイのお父様はレイと奥様のことを大事に思ってらっしゃるって言っていたわ」
微笑むアリスに、レイはふと真顔になって視線を下げる。
「……それは、ミゼットちゃんに聞いた。俺と母さんをザイド家の連中から逃がすために、カレニアにやったって。だけど、その時も説明なしだったんだぜ! 俺はともかく、少なくとも母さんはルワインドに残りたがっていた。辛かったとしても、父さんのそばにいて支えたいと思っていた。俺にバレないように、父さんを思って泣いていたんだ。せめて、ちゃんと話して、納得させるべきだろ」
苛立ちを抑えようとしているのか、レイは大きく息を吐く。
レイがお父さんに対して頑ななのは、お母さんを悲しませたお父さんが許せないのかも。
今朝、城で会ったレイの両親たちを思い出す。
うーん。確かにレイのお父さんは、話すのが上手じゃなさそうだったっけ。
二人が互いに思ったことを話せれば、状況は変わりそうな気はするんだけど。
「ねぇ、レイ。一回ちゃんと、おじ様とお話ししてみたほうがいいんじゃないの? 跡取りのことにしろ、おじ様にも何かしらの事情やお考えがあると思うの」
ライラが真面目な顔でそう言うと、アリスはそれに頷く。
「そうね。ザイド家の人から守ろうとしたこともそうだし、ミゼットさんを引き取った経緯からみても、非情な方だとは思えないわ」
トーマもライラたちの意見に賛同する。
「うん。僕も話したほうがいいと思う。レイに心配かけたくなくて、話せないでいるのかもしれないよ」
レイは乗り気じゃないようで、難しい顔で皆を見回した。
ちょうど俺と目が合ったので、俺は言う。
「レイに複雑な気持ちがあるのはわかっているよ。でも、事情を知りたいと思っているなら、まず話をしてみないと」
俺の言葉に、レイは深いため息を吐いた。
「俺だって……そう思うけどさぁ。あの無表情を前にして、話ができる気がしないんだよ。何考えてんのか読めねぇんだもん」
そう言って、ガシガシと頭を掻く。
レイは見た目に気を遣うタイプで、いつも綺麗に髪をセットしている。
乱暴に頭を掻いたせいで髪形が崩れてしまったが、それを気にする余裕もないようだ。
「バルサ国の上流階級の方々は表情を隠すのが上手いけど、おじ様の仮面は特に完璧だものね」
苦笑するライラに、俺とカイルは唸る。
「確かに、あれほど何を考えているのか読めない人は、僕も初めてだったよ」
「俺もあれほど表情が変わらない人は、ルワインドでも会ったことがありません」
「え、会ったのか!?」
驚愕するレイに、俺たちは頷く。
「実は今朝、僕とカイルとアリスでお城の廊下を歩いていた時、偶然レイのご両親に会ったんだ」
「すごい鉄面皮だったろ。俺、母さん似だから、息子って言うと驚かれるんだ」
肩を竦めるレイに、アリスは微笑む。
「確かにレイの雰囲気や顔はお母様似ね。でも、髪や瞳の色はお父様譲りだと思うわ。色合いが同じ」
言われたレイは少し複雑な表情で、自分の髪を摘んで「そうかな?」と呟く。
そんなレイを見つめ、カイルが少し寂しそうな顔で言う。
「レイ、後悔しないようにしろよ。俺の両親は……ある日を境に家に帰ってこなくなった。生死もわからない。話したくても話せないんだ」
それを聞いて、レイたちの表情が硬くなる。
「今でもたまに、話したいなって思うことがある。フィル様のこととか。獣人でもいいっていう、友だちができたこととか……」
言葉が出ないレイに、カイルは小さく笑った。
「レイも、今のままじゃ中途半端な気持ちのままだろ。ちゃんと話し合って、それで本当に相容れないというなら、それは仕方ないと思う。どんな結論をつけても、俺たちはレイの味方だから」
その言葉に、俺たちは強く頷いた。
「そうだね。僕たちも応援するから、頑張ってみよう。せっかくミゼットちゃんが機会を作ってくれたんだから、話し合ってみなよ。婚姻式までうちの国に滞在する予定なんでしょ?」
俺が微笑むと、レイはコクリと頷いた。
「うん……わかった。なんとか話せるよう努力するよ」
レイの大きな決断に、俺たちは安堵の息を吐く。
すると、トーマが少ししょんぼりする。
「その努力、見届けられないのが残念」
「あ、そうか。レイとライラは婚姻式まで滞在する予定だけど、トーマはお父さんと一緒に帰っちゃうんだっけ?」
確認する俺に、トーマは悲しそうな顔で頷く。
「そう。明日お父さんと帰るんだ。レイのことは気になるけど……」
そう言って、チラッとレイを見る。その眼差しを受けて、レイは慌てた。
「そ、そんな目で見られても、今日話すのは無理だからな。しばらくは仕事で忙しいみたいだから、多分俺と落ち着いて話をする時間もないと思うし、俺だって心の準備が……」
わたわたとするレイに、トーマは肩を落とす。
「わかってるよ。はぁ~、僕も皆と一緒に婚姻式まで滞在したかった」
トーマはそう言って、深く長いため息を吐く。
「あぁ、そうだよな。せっかくこうして会えたわけだし……」
「皆で一緒に観光できたら、きっと楽しいわよね」
レイやアリスが気の毒そうに言う。
俺もそう思う。身分もバレてお互いの事情もわかったことだし、公務の合間を見て皆にグレスハートを案内してあげたいよなぁ。
俺は腕組みをして、考える。
「トーマのお父さんが許してくれるなら、滞在してもらいたいけど……。宿屋は埋まっているよね?」
確認すると、カイルは眉を寄せて頷く。
「そう聞いています」
新しい宿屋は五日後にオープンするけど、そこもすでに予約はいっぱいなんだよね。
オープンしたらそちらに宿を変える予定の人もいるそうだけど、空いた部屋もこれから来る予定のお客様で予約が埋まってしまっているしなぁ。
第一、部屋が空いていたとしても、トーマだけ残ることになったら、子供一人で宿屋に泊まらせることになる。それは、かなり不安だ。
「俺のとこは、ザイド家の連中も出入りするからなぁ。嫌な目にあわせたくないし……」
「私の住むメイドたちの宿舎は、パーティーのためにメイドを増やしたからいっぱいなのよね」
レイは渋い顔で唸り、アリスは頬に手を当てて息を吐いた。
「俺の部屋なら滞在できますよ。グレスハート城内ですから、陛下の許可が必要になりますが……」
カイルの申し出を受け、俺はトーマに視線を向けながら言う。
「父さまは許可してくれると思うよ」
だが、トーマはブルブルと顔を横に振っていた。
「お城に滞在なんて無理だよぉぉ」
レイはわかるぞといった顔で、震えるトーマの肩を叩く。
「フィル、俺でも長期でお城に泊まるのはさすがに無理だ」
「……そうか」
フレンドリーなグレスハート王家だけど、やはり宿泊するとなるとハードルが高いか。
そもそも、お城も準備でバタバタしているから、落ち着かないかな。
ん~どうしたものかな。
俺が悩んでいると、ライラが笑顔で手を挙げた。
「泊まるところなら、なんとかなるかも。商人たちのために、トリスタン家で宿を一棟確保してるのよ。調整すれば、多分二人くらい泊められると思うわ」
「えぇ! 本当に!?」
席を立ったトーマに、ライラはにこっと笑った。
「友人たちを招くこともよくあるから、お父様も許可してくださるわ。まぁ、その前にトーマのお父様が滞在を許可してくださったらの話だけどね」
「宿に帰ったら、お父さんにお願いしてみる!」
トーマは笑顔で言った。
すると、ちょうどその時、裏口のほうから足音とともに俺の護衛であるマイク・スケルスとカーク・キナス、通称スケさんとカクさんがやって来た。
サヒルやミゼットをそれぞれの宿に送って、戻ってきたらしい。
「フィル様、ただいま戻りました」
「途中で、トーマ君のお父さんのいる宿に寄ってきましたよ。再注文を受け、一旦帰国したあと、品物を持ってまたグレスハートに戻ってくるらしいです。なので、トーマ君が残りたいなら、その間もグレスハートに滞在してもいいそうです」
「「え!」」
タイムリーな報告に、俺たちは声を揃えて驚く。
「すごい。どうして?」
許可を取ってきてほしいなんてお願いしていなかったのに。
俺が聞くと、スケさんは得意げに胸を張る。
「俺がトーマ君なら、滞在したいだろうなぁと思いまして。なかなかお友だち全員が、こうして休み中に集まる時はないでしょうから」
「宿泊先は我々近衛兵の住む宿舎を予定していましたが、先ほど耳にしたお友だちと一緒の宿屋のほうがいいかもしれませんね」
カクさんはそう言って、ニコッと笑う。
近衛兵の宿舎は、城の敷地内にある建物だ。
その選択肢もあったな。まぁ、それも父さんの許可が必要だったわけだけど。
「ありがとう、スケさんカクさん」
俺がお礼を言うと、続いてトーマもペコリと頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございます!」
婚姻式まで数週間。グレスハートに滞在する皆とどうやって過ごそうか、考えるだけでわくわくする。
その気持ちは皆も一緒らしく、お互い顔を見合わせて笑顔になった。
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