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書籍5巻該当箇所 (第12の3分の2~第14章)
滑り台(改稿2018.3.27)
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学校のあるステア王国に、雪が降った。
グレスハート王国は温暖な気候だったから、この世界に来て初めての雪である。
俺とカイルとレイとトーマが、朝食前に寮の裏の広場で雪遊びをしていると、マクベアー先輩と三年生の運動部の先輩、それから寮長がやってきた。
なんでも裏の広場に、滑り台を作る予定なのだと言う。
生徒総長であるデュラント先輩の案だそうだが、その本人は体が弱いため雪を楽しむ事が出来ないらしい。
誰よりも生徒のことを考えてくれているのに、楽しめないのって悲しいよな。
そこで俺は、大きなかまくらを作ることを提案した。かまくらで暖かくしていたら、デュラント先輩も少しは楽しめるんじゃないかと思ったのだ。
その為には、頑丈で大きなかまくらを作らないと!
こうして、俺たちと先輩方とで気合の入ったかまくら作りが開始された。
かまくらの土台となる雪の山は、二メートルほどの高さのものを作った。
昨日丸一日かけて作ったかいもあり、とても立派なものが出来たと思う。
水をかけて一晩冷やしたので、これで固まっていたら中をくり抜いていく予定だ。
ヒスイが雪の山の周りを飛び回り、表面の硬さを確認していく。
通常だったら精霊であるヒスイを皆の前で召喚することはない。しかし、ここにはヒスイの存在を知っている先輩方しかいなかったし、裏の広場は出来上がるまで関係者以外立ち入り禁止にしたので、効率を上げることを優先した。
でも、やっぱり、ヒスイを召喚したのは失敗だったかなぁ?
俺はヒスイに見惚れる先輩方の様子を見て、腕組みをして唸る。
ヒスイの本日の服装は、若草色のニットワンピースに、白のフード付きロングコート、ロングブーツという格好だった。
ヒスイ本人もお気に入りの『冬のデートで彼女が着て来たら可愛いなコーデ』である。
いつもの薄い服でヒラヒラしていたら先輩方の集中力を欠くだろうと思って、露出を控えた見た目も暖かい冬服に変えてもらったのだが……。
どんな格好でも、結局ヒスイは可憐であるらしい。いつもしっかりしている寮長も、ぼ~っと見惚れている。
せめて、姿を消してやってもらえば良かっただろうか。
「フィル。表面は固まっております。雪を掘り進めても大丈夫そうですわ」
俺の目の前に降りたち、ヒスイがにっこりと微笑む。
先輩方もいるので、ヒスイには人が理解できる言葉で話してもらっていた。
「ありがとう。じゃあマクベアー先輩、カルロスに掘るよう言ってもらってもいいですか?」
マクベアー先輩の命令で、カルロスが嬉しそうに「グア!」と鳴く。
【穴掘り大好き~!】
カルロスは鼻歌交じりに、ガッシュガッシュと雪を掘り始めた。
掘り進めるのは早いのだが、その力強さにハラハラしてしまう。
「カルロス、いつもの穴掘りじゃないからね!そ~っと崩さないようにお願いね」
俺がそう注意すると、カルロスは「はぁーい」と元気に返事をした。
本当にわかっているのかは、はなはだ疑問だ……。
それでも、幾分か掘る勢いが優しくなった気がしないでもないので、もうカルロスを信じるしかない。
「カルロスがある程度掘ったら、細かい作業は人の手でやるとしよう」
マクベアー先輩が言い、寮長が俺に確認するように尋ねた。
「テイラ雪の中に埋めた木の枝が出てきたら、それ以上深く掘らなければいいんだよな?」
俺はにっこりと微笑んで頷く。
「はい。壁の厚みはある程度確保したいので」
俺もかまくら作りの知識はあるが、さすがにこんな大きなかまくら作りの経験はない。
だから最低限必要な壁の厚みの位置に木の枝を刺し、内側から掘った時の目印にした。
これだったら、壁の分厚さを均一に守りつつ掘れるはずだ。
まぁ、カルロスが勢い余って突き破んないかぎり……。
俺がカルロスを不安そうに見ているのに気が付いたのか、マクベアー先輩が笑う。
「なんだ、不安か?なぁに、壊れたらまた作ればいいことだ」
おおらかな考えのマクベアー先輩に、寮長が隣でボソリと呟く。
「できれば、また作りたくはないですけどね……」
確かに。ここまで作るの大変だったもんな。
俺と他のかまくらチームの先輩たちは、うんうんと寮長に頷いた。
「そう言えば、さっきベイル先輩の作った雪像を見てきました」
掘り進めるカルロスの後姿を見ていて、ふと思い出す。
広場の奥に、ベイル先輩の雪像スペースが設けられており、そこに一メートルほどの大きさの雪像が何体も並んでいる。
一番初めに作られた作品は、三日月熊のカルロスだ。とてもリアルで、カルロスの表情をうまくとらえていた。
「俺が見に行った時には、クンを作り終えて次に毛玉猫を作っていたな」
マクベアー先輩が思い出すように言って、寮長は頷く。
「俺もそれ見ました。でもその時は毛玉猫を作り終わるところで、次はウォルガーを作るって言っていましたよ」
それは俺も知っている。メアリーとホタルとルリをモデルに作っていたからだ。
雪で出来ているのに、思わず抱きついてモフモフしたい衝動にかられてしまった。他の先輩に止められてなきゃ、やっていたかもしれない。そのくらいリアルな質感だった。
「じゃあ、僕が一番最後ですね。学校の紋章作ってましたから」
「紋章まで?!」
寮長が驚きの為か、口を開けたまま固まる。
紋章は雪像ではなく、傾斜をつけた場所に掘り込んでいたのだが、あの細かさにはとても驚いた。
うちの学校の紋章は、頭が三つの鳥が翼を広げている。首のバランスや細かい羽の表現、その出来栄えはプロの域だった。
これだけクオリティ高いなら、きっと生徒たちも喜ぶだろう。
途中で雪像チームを増やして良かったなぁ。
本来ベイル先輩は滑り台担当の一人だったのだが、休憩中に作った雪像が素晴らしくて、急遽雪像チームを作ることになったのだ。
「あの人……器用すぎますよね」
寮長がしみじみと呟き、先輩方が頷く。
確かに。洋服作れるのは知っていたけど雪像もとは……。
「そのベイル先輩が抜けた滑り台組は、そろそろ出来ていますかね?」
少し不安そうな寮長の言葉に、皆の視線が滑り台の方へと向く。
滑り台は、かまくらのすぐ横に作られていた。
距離十五メートル、幅五メートル。広場にあったもともとの傾斜を利用して作られている。
雪像チームで数人抜けたので、滑り台担当はカイルとレイとトーマ、他の先輩たち十人が行っていた。
滑り台を見ているとちょうど上から、カイルがショートスキーを履いて滑ってくる。こちらの世界で遊ぶときは、この短いスキー板が多いらしい。
雪は初めてだと言うのに、さすが運動神経抜群。俺達の少し前で、かっこよく止まった。
「マクベアー先輩、滑り台が出来ました。今試験的に何人か滑ってみるところです」
「おぉ、出来たか。人数少なかったのに、ご苦労だったな」
マクベアー先輩は笑って、カイルの頭をクシャクシャと撫でた。
カイルは褒められて少し照れたように、「どうも…」と髪を直す。
カイルの口ぶりでは、まだ滑って来るらしい。
俺が少し羨ましく思いながら滑り台を見ていると、ソリにちょこんと座ったコハクとコクヨウがシャーっと音を立てて通り過ぎていった。
「あら、コクヨウもコハクも楽しそうですわね」
ヒスイが口に手をあてて、くすくすと笑う。
「え、コクヨウ達…え、なんで?」
俺がそう聞くと、カイルは言いづらそうに口を開いた。
「コクヨウさんがジッと見ていたんで……乗りたいのかなと思いまして。あ、でも、これからレイとトーマも滑ってくるはずですよ…ホラ」
カイルの言葉に視線を戻すと、レイとトーマが「ヒィィー!」と声をあげながら通り過ぎていくところだった。
あの二人……このくらいのスピードも駄目なのか。ルリに乗せるのは、まだまだ難しいなぁ。
そんなことを考えていると、滑り終えたコクヨウとコハクがこちらにやってくる。
「コクヨウ、コハク、滑り台楽しかった?」
コハクは素直に「もう一回もう一回」と嬉しそうに跳びはねた。だが、コクヨウは、フンと鼻で笑う。
【つまらん。もっと距離を伸ばし傾斜を付けるべきだ】
そう言いつつ、尻尾が楽しげに揺れているのは何なんだ?
まぁ、確かに距離と傾斜がもう少しあったら、さらに楽しいかもしれない。だけど寮の広場に作った滑り台だし、大人たちの手を借りずに作ったんだからこんなものではないだろうか。
「いやぁ、怖かったけど楽しかったなぁ」
「うん。速かったね。ルリに乗ってる時のこと思い出しちゃった」
レイとトーマが笑いながらやって来る。その様子を見て、マクベアー先輩が笑った。
「滑り台は問題なさそうだな。じゃあ、あとは俺達が作業やるから、フィル達はもう遊んでいてもいいぞ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
完成披露を終えて広場が開放されたら、生徒達で溢れかえって思い切り遊ぶ事が出来ないだろう。
ここは甘えさせてもらおう。
「フィル、滑り台行こうぜ!」
ソリの紐を持って先を歩くレイに、俺は頷いた。
【フィル~滑り台!滑り台!】
せがむコハクをポケットに入れ、コクヨウを抱き上げて滑り台へと歩きはじめる。
【我が一緒に乗って、ソリの乗り方と言うものを教えてやろう】
いや、乗り方くらい知ってるし。
すると、ヒスイが俺にピタリと寄り添いながら、コクヨウをからかうように微笑んだ。
「あら、コクヨウはソリつまらないのでしょう?フィル、私とソリに乗りましょ」
コクヨウはムッとしたように、俺に抱かれたままの状態で首にしがみついてきた。
【フィルには直々に、ソリの乗り方を教えねばならんのだ】
ポケットではコハクが顔を出して、ペシペシと羽で服を叩く。
【コハクと滑り台!】
え…ちょ……何この状況。
腕にしがみつくヒスイと、首にしがみつくコクヨウ、ペシペシと叩くコハクに、俺は困って眉を下げた。
「順番に滑るから、それでいい?」
そう言うと、コハクはコックリと頷き、コクヨウはフンと鼻息で応え、ヒスイはコクヨウをからかって満足したのか「はい」と微笑む。
そんな俺の様子を見ていたトーマは、くすくすと笑った。
俺やヒスイの言動と、コクヨウ達の動きからおおよそのことが分かったらしい。
「フィル、人気者だね」
人気と……言うのでしょうか?
俺がため息をついて前を見ると、レイが立ち止まり俺を半眼で見下ろしていた。
「フィル……羨ましいぞ。とくにヒスイさんとソリ!」
そんなこと言われましても…。
グレスハート王国は温暖な気候だったから、この世界に来て初めての雪である。
俺とカイルとレイとトーマが、朝食前に寮の裏の広場で雪遊びをしていると、マクベアー先輩と三年生の運動部の先輩、それから寮長がやってきた。
なんでも裏の広場に、滑り台を作る予定なのだと言う。
生徒総長であるデュラント先輩の案だそうだが、その本人は体が弱いため雪を楽しむ事が出来ないらしい。
誰よりも生徒のことを考えてくれているのに、楽しめないのって悲しいよな。
そこで俺は、大きなかまくらを作ることを提案した。かまくらで暖かくしていたら、デュラント先輩も少しは楽しめるんじゃないかと思ったのだ。
その為には、頑丈で大きなかまくらを作らないと!
こうして、俺たちと先輩方とで気合の入ったかまくら作りが開始された。
かまくらの土台となる雪の山は、二メートルほどの高さのものを作った。
昨日丸一日かけて作ったかいもあり、とても立派なものが出来たと思う。
水をかけて一晩冷やしたので、これで固まっていたら中をくり抜いていく予定だ。
ヒスイが雪の山の周りを飛び回り、表面の硬さを確認していく。
通常だったら精霊であるヒスイを皆の前で召喚することはない。しかし、ここにはヒスイの存在を知っている先輩方しかいなかったし、裏の広場は出来上がるまで関係者以外立ち入り禁止にしたので、効率を上げることを優先した。
でも、やっぱり、ヒスイを召喚したのは失敗だったかなぁ?
俺はヒスイに見惚れる先輩方の様子を見て、腕組みをして唸る。
ヒスイの本日の服装は、若草色のニットワンピースに、白のフード付きロングコート、ロングブーツという格好だった。
ヒスイ本人もお気に入りの『冬のデートで彼女が着て来たら可愛いなコーデ』である。
いつもの薄い服でヒラヒラしていたら先輩方の集中力を欠くだろうと思って、露出を控えた見た目も暖かい冬服に変えてもらったのだが……。
どんな格好でも、結局ヒスイは可憐であるらしい。いつもしっかりしている寮長も、ぼ~っと見惚れている。
せめて、姿を消してやってもらえば良かっただろうか。
「フィル。表面は固まっております。雪を掘り進めても大丈夫そうですわ」
俺の目の前に降りたち、ヒスイがにっこりと微笑む。
先輩方もいるので、ヒスイには人が理解できる言葉で話してもらっていた。
「ありがとう。じゃあマクベアー先輩、カルロスに掘るよう言ってもらってもいいですか?」
マクベアー先輩の命令で、カルロスが嬉しそうに「グア!」と鳴く。
【穴掘り大好き~!】
カルロスは鼻歌交じりに、ガッシュガッシュと雪を掘り始めた。
掘り進めるのは早いのだが、その力強さにハラハラしてしまう。
「カルロス、いつもの穴掘りじゃないからね!そ~っと崩さないようにお願いね」
俺がそう注意すると、カルロスは「はぁーい」と元気に返事をした。
本当にわかっているのかは、はなはだ疑問だ……。
それでも、幾分か掘る勢いが優しくなった気がしないでもないので、もうカルロスを信じるしかない。
「カルロスがある程度掘ったら、細かい作業は人の手でやるとしよう」
マクベアー先輩が言い、寮長が俺に確認するように尋ねた。
「テイラ雪の中に埋めた木の枝が出てきたら、それ以上深く掘らなければいいんだよな?」
俺はにっこりと微笑んで頷く。
「はい。壁の厚みはある程度確保したいので」
俺もかまくら作りの知識はあるが、さすがにこんな大きなかまくら作りの経験はない。
だから最低限必要な壁の厚みの位置に木の枝を刺し、内側から掘った時の目印にした。
これだったら、壁の分厚さを均一に守りつつ掘れるはずだ。
まぁ、カルロスが勢い余って突き破んないかぎり……。
俺がカルロスを不安そうに見ているのに気が付いたのか、マクベアー先輩が笑う。
「なんだ、不安か?なぁに、壊れたらまた作ればいいことだ」
おおらかな考えのマクベアー先輩に、寮長が隣でボソリと呟く。
「できれば、また作りたくはないですけどね……」
確かに。ここまで作るの大変だったもんな。
俺と他のかまくらチームの先輩たちは、うんうんと寮長に頷いた。
「そう言えば、さっきベイル先輩の作った雪像を見てきました」
掘り進めるカルロスの後姿を見ていて、ふと思い出す。
広場の奥に、ベイル先輩の雪像スペースが設けられており、そこに一メートルほどの大きさの雪像が何体も並んでいる。
一番初めに作られた作品は、三日月熊のカルロスだ。とてもリアルで、カルロスの表情をうまくとらえていた。
「俺が見に行った時には、クンを作り終えて次に毛玉猫を作っていたな」
マクベアー先輩が思い出すように言って、寮長は頷く。
「俺もそれ見ました。でもその時は毛玉猫を作り終わるところで、次はウォルガーを作るって言っていましたよ」
それは俺も知っている。メアリーとホタルとルリをモデルに作っていたからだ。
雪で出来ているのに、思わず抱きついてモフモフしたい衝動にかられてしまった。他の先輩に止められてなきゃ、やっていたかもしれない。そのくらいリアルな質感だった。
「じゃあ、僕が一番最後ですね。学校の紋章作ってましたから」
「紋章まで?!」
寮長が驚きの為か、口を開けたまま固まる。
紋章は雪像ではなく、傾斜をつけた場所に掘り込んでいたのだが、あの細かさにはとても驚いた。
うちの学校の紋章は、頭が三つの鳥が翼を広げている。首のバランスや細かい羽の表現、その出来栄えはプロの域だった。
これだけクオリティ高いなら、きっと生徒たちも喜ぶだろう。
途中で雪像チームを増やして良かったなぁ。
本来ベイル先輩は滑り台担当の一人だったのだが、休憩中に作った雪像が素晴らしくて、急遽雪像チームを作ることになったのだ。
「あの人……器用すぎますよね」
寮長がしみじみと呟き、先輩方が頷く。
確かに。洋服作れるのは知っていたけど雪像もとは……。
「そのベイル先輩が抜けた滑り台組は、そろそろ出来ていますかね?」
少し不安そうな寮長の言葉に、皆の視線が滑り台の方へと向く。
滑り台は、かまくらのすぐ横に作られていた。
距離十五メートル、幅五メートル。広場にあったもともとの傾斜を利用して作られている。
雪像チームで数人抜けたので、滑り台担当はカイルとレイとトーマ、他の先輩たち十人が行っていた。
滑り台を見ているとちょうど上から、カイルがショートスキーを履いて滑ってくる。こちらの世界で遊ぶときは、この短いスキー板が多いらしい。
雪は初めてだと言うのに、さすが運動神経抜群。俺達の少し前で、かっこよく止まった。
「マクベアー先輩、滑り台が出来ました。今試験的に何人か滑ってみるところです」
「おぉ、出来たか。人数少なかったのに、ご苦労だったな」
マクベアー先輩は笑って、カイルの頭をクシャクシャと撫でた。
カイルは褒められて少し照れたように、「どうも…」と髪を直す。
カイルの口ぶりでは、まだ滑って来るらしい。
俺が少し羨ましく思いながら滑り台を見ていると、ソリにちょこんと座ったコハクとコクヨウがシャーっと音を立てて通り過ぎていった。
「あら、コクヨウもコハクも楽しそうですわね」
ヒスイが口に手をあてて、くすくすと笑う。
「え、コクヨウ達…え、なんで?」
俺がそう聞くと、カイルは言いづらそうに口を開いた。
「コクヨウさんがジッと見ていたんで……乗りたいのかなと思いまして。あ、でも、これからレイとトーマも滑ってくるはずですよ…ホラ」
カイルの言葉に視線を戻すと、レイとトーマが「ヒィィー!」と声をあげながら通り過ぎていくところだった。
あの二人……このくらいのスピードも駄目なのか。ルリに乗せるのは、まだまだ難しいなぁ。
そんなことを考えていると、滑り終えたコクヨウとコハクがこちらにやってくる。
「コクヨウ、コハク、滑り台楽しかった?」
コハクは素直に「もう一回もう一回」と嬉しそうに跳びはねた。だが、コクヨウは、フンと鼻で笑う。
【つまらん。もっと距離を伸ばし傾斜を付けるべきだ】
そう言いつつ、尻尾が楽しげに揺れているのは何なんだ?
まぁ、確かに距離と傾斜がもう少しあったら、さらに楽しいかもしれない。だけど寮の広場に作った滑り台だし、大人たちの手を借りずに作ったんだからこんなものではないだろうか。
「いやぁ、怖かったけど楽しかったなぁ」
「うん。速かったね。ルリに乗ってる時のこと思い出しちゃった」
レイとトーマが笑いながらやって来る。その様子を見て、マクベアー先輩が笑った。
「滑り台は問題なさそうだな。じゃあ、あとは俺達が作業やるから、フィル達はもう遊んでいてもいいぞ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
完成披露を終えて広場が開放されたら、生徒達で溢れかえって思い切り遊ぶ事が出来ないだろう。
ここは甘えさせてもらおう。
「フィル、滑り台行こうぜ!」
ソリの紐を持って先を歩くレイに、俺は頷いた。
【フィル~滑り台!滑り台!】
せがむコハクをポケットに入れ、コクヨウを抱き上げて滑り台へと歩きはじめる。
【我が一緒に乗って、ソリの乗り方と言うものを教えてやろう】
いや、乗り方くらい知ってるし。
すると、ヒスイが俺にピタリと寄り添いながら、コクヨウをからかうように微笑んだ。
「あら、コクヨウはソリつまらないのでしょう?フィル、私とソリに乗りましょ」
コクヨウはムッとしたように、俺に抱かれたままの状態で首にしがみついてきた。
【フィルには直々に、ソリの乗り方を教えねばならんのだ】
ポケットではコハクが顔を出して、ペシペシと羽で服を叩く。
【コハクと滑り台!】
え…ちょ……何この状況。
腕にしがみつくヒスイと、首にしがみつくコクヨウ、ペシペシと叩くコハクに、俺は困って眉を下げた。
「順番に滑るから、それでいい?」
そう言うと、コハクはコックリと頷き、コクヨウはフンと鼻息で応え、ヒスイはコクヨウをからかって満足したのか「はい」と微笑む。
そんな俺の様子を見ていたトーマは、くすくすと笑った。
俺やヒスイの言動と、コクヨウ達の動きからおおよそのことが分かったらしい。
「フィル、人気者だね」
人気と……言うのでしょうか?
俺がため息をついて前を見ると、レイが立ち止まり俺を半眼で見下ろしていた。
「フィル……羨ましいぞ。とくにヒスイさんとソリ!」
そんなこと言われましても…。
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