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1巻
1-3
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正門や裏門には衛兵がいる。ここを抜けることはほぼ不可能。しかし城壁には外に出られる穴がある。ヒューバート兄さんが勉強をサボる時に使う抜け穴だ。
城の防御力、これで大丈夫なんだろうか。少し心配になってしまう。
穴を隠している木の枝を、息を切らしながらどける。幼児の体では何をするにも大変だ。
何とか撤去を終え、抜け穴にソロリと頭を突っ込む。
「誰もいないな」
向こう側を確認し、ヨイショと城壁を抜けた。服の埃を払い、周囲を見回すと、すぐ横に小高い丘があった。
よし! 気づかれないうちに早く行こう。
丘に向けて走り出す。だが、すぐに立ち止まった。ゼイゼイと肩で息をする。
足が短い……。幼児体型おそろしや。
平地は大丈夫だったが、坂になると頭が重くてバランスを崩す。気を抜いたら、そのまま後ろに転がりそうだ。
あぁ、早く成長してくれないかな。体力もなさすぎるし。トレーニングも兼ねて柔術を活かした朝の体操をやっているのになぁ。すぐに筋力はつかないか。
二の腕をつまむと、ぷにぷにと柔らかい感触がした。先は長い。
体が弱いわけではないみたいなんだけどなぁ……。
ため息をついて歩を進める。ただの小高い丘なのに、上るのにだいぶ時間がかかってしまった。ゼイゼイしながら城を振り返る。
くそー、帰る時は転がったほうがいいのか? つい悔しさで荒んだ発想をしてしまう。
ま、帰りの時のことはいいか。気を取り直して、探索しよう。
丘の頂上は野球グラウンドくらいの広さがあった。俺のお腹辺りまで伸びた草が一面に広がっている。
奥には背の低い木が密集し、茂みもあるみたいだな。
うーん、その茂みに、ちらほら動く何かがいるみたいなんだけど……。
俺が近づくと、パッと隠れてしまう。草でよく見えないし。
「こーんにーちはー」
歌のお兄さんのように明るく呼びかける。
本当は姿を見せた時に一対一で語りかけたかったが、茂みから出てこない以上、どうにもならない。
「僕とお話ししませんかー!」
すると、四方八方から動物の鳴き声が聞こえ出す。何やら様子を窺っているようだ。
【あんな小さな子供がどうしてここにいるの?】
【こんなとこ、普通一人で来ないわよね】
【何か怪しいわ】
【俺達をどうするつもりだ】
小声でざわめいている。
うーわ、めちゃくちゃ怪しまれている。
【時々やってきて何か叫んでいる子の仲間かしら】
【あぁ、「筋肉は正義」とか言ってるやつ?】
【迷惑よね。あれ】
……ヒューバート兄さんのことだ。動物にまで迷惑がられているなんて。何だかかわいそすぎて涙が出そうだな。
これはあれか……踊れってことか。こちらに敵意がないということを示さなければならないのか。
どうする。どうする俺。
トラウマがモグラみたいにひょこひょこ顔を出す。だけど、正直ここまで来て成果もなしには戻れない。
「踊ります!」
仕方なしに盆踊りを始めた。
最後に踊ってから何年も経つのに、不思議と忘れないものだ。
無音で踊っているから、自分の手拍子がやけに辺りに響く。
うぅ……一発芸やって、静まり返った宴会場みたい。
だがしばらくすると、様子を見ていた動物達が少しずつ集まり出した。しかも、俺の後ろについて、真似するように踊り出す。
「おおぉぉ」
か、かかか可愛い!
頭に角のあるウサギや、耳の大きなキツネ、小型犬くらいあるリス、他にも見たことない動物がいっぱいいる。俺と小動物たちが輪になって盆踊り。踊りは渋いが、メルへンなことこの上ない。
嫌々始めたのだが……踊りの力はすごいものだ。一周り二周りと踊るほどに連帯感が生まれる。
いつしか、動物達と笑いながら盆踊りを楽しんでいた。
わはは、めっちゃ楽しいっ! あり得ない状況すぎる。
だが、突然動物達が蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
「え、あれ? どうしたの?」
急にポツンと取り残され、俺は辺りを見回した。そして俺の瞳が、ゆっくりと近づく大きな影を捉える。
【変わった毛並みの者がいるな……】
笑いを含んだ言葉は、どこか値踏みするような響きがあった。
大きな黒い狼だ。子供どころか、大人だって楽々背に乗れそうな大きさをしている。
しかし、それより何より驚いたのは色と毛並みだった。烏の濡れ羽色とはこのことだろう。
黒い艶やかな毛が全身を覆い、二つに分かれたフサフサの尻尾が優雅に揺れている。
「わぁぁぁ、綺麗だ」
思わず感嘆の声が漏れる。すると狼は楽しそうに目を細めた。
【我が怖くないのか?】
問われて、すぐ首を振った。
「何で? こんなに綺麗なのに」
【大方は、そこにいる奴らのような反応を見せるんだがな】
改めて周りをよく見ると、一緒に踊っていた動物達がプルプルと震えて遠くで固まっている。明らかに怖がっていた。
この狼はあの動物達より上位なのかな?
そういえば、時々森から動物がやってくるとアリアが言ってたっけ。だから護衛が必要なんだと。
だが、やはり怖い気持ちにはなれなかった。
犬派か猫派かと言われれば、断然犬派だ。
二つに分かれた尻尾と、巨体以外、この狼に犬との違いを見つけられなかったからだろうか。
怖さよりも、ふわふわした綺麗な毛並みのほうが気になった。
狼は興味ありげに俺の周りを回る。目の前を通りすぎるたび、尻尾がゆらゆらと揺れて俺を誘う。
「めちゃくちゃ触り心地よさそうだね」
俺の言葉を聞くと、狼はクククと噴き出すのをこらえるように笑った。
【さっきの踊りといい、おかしな奴だな】
盆踊りのことは言わないでください。
でも笑ってくれたので、少しくだけた気持ちになる。
「お願いがあるんだけど……」
【何だ?】
「撫でてもいい?」
勇気を出して聞いてみると、狼は触りやすいよう体を寄せてきた。近くで見ると、毛の一本一本が細いことがわかる。
おずおずと触れる。まるで上質な毛布のような柔らかさだった。しかも、毛足が長いからボリュームたっぷり。
我慢できず……思いきってポスンと顔を埋める。
「ふぁぁぁ気持ちいい~」
叶うことならば、ずっとこうしていたい。そのくらいの心地よさだった。
【やはり変わった子供だな】
狼はくっくっくっと笑う。おかげで胴体に乗せていた俺の頭も、笑いとともに揺れた。
動物に変だと言われるとは……。
【お前の名前は?】
「フィル」
伏せをしてくれたので、狼の上にダイブしながら俺は答える。
モフモフすぎてこのまま眠っちゃいそう。
【子供が一人、なぜこのようなところに来た】
「このようなところって……?」
毛並みを堪能していた俺は、顔を上げて首を傾げた。
【この丘には、ある獣がいる。城はその獣を封印するために造られたのだ】
え、何それ。初耳ですよっ!
ガシッと狼にすがりついて聞く。
「ここ、可愛い小動物しかいないんじゃないの?」
【小動物もいるがな。強い動物は、人が来ても姿を見せないだけのこと。弱すぎて相手にならぬからだ】
狼は馬鹿にしたようにふんっと鼻で笑う。俺は驚愕した。
「ええ、そんなの聞いてないよ!」
狼は何を今さらと呆れたように言うが、俺は初耳ですから!
あ、もしかして中断した勉強の中にそんな情報があったのかな?
しまったー。せめて召喚獣の本の最後まで終わらせておけばよかった。
【ちなみにそこらで踊っていたのも、姿形は可愛かろうが能力はそこそこある。大人ならまだしもお前のような子供など、襲われたらひとたまりもなかったろう】
そう言われて、愕然とする。
あんなにメルヘンチックだった踊りの輪。だが見方を変えれば、途端に俺という生け贄を捧げる儀式だ。
あんなに連帯感があったのに。ま、まさか……。
「も、もしかして食べる気だったー?」
慌てて遠巻きに見ている動物達に叫ぶ。すると、動物達はとんでもないと言うようにブルブルと首を振った。
「よかった」
俺達のあの時間は幻じゃなかった。
するとその様子を見て、狼がまた笑う。
【あやつらは踊りを純粋に楽しんでいただけだろう。安心しろ】
焦らせたのは狼なんだけど。だが、盆踊り侮れないな。そんなに好評だったのか。
「じゃあ、この場所って、獣が封印されてるの?」
【いや、封印などされていない。そもそも人間にどうこうできるものでもない】
呆れたように息をつく狼に、再び首を傾げる。
「え、どういうこと? 封印されてないのに大人しくしてるわけ?」
狼はチラリとこちらを振り返った。そしてニヤリと笑う。
【だから言っただろう。人間など、弱すぎて相手にしていないだけだ】
な、なるほど。その気になればどうとでもできると……。
【それでフィル。お前はなぜここに来たのだ?】
「それは……召喚獣にする動物と仲良くしようと思って」
【ほぉ、召喚獣にな】
狼の声のトーンが楽しげなものから、少し低いものに変わる。
ん? なんか地雷踏んじゃった?
何となくピリッとした空気を感じ取った。
あからさまに俺を値踏みするような視線を向けてくる。
【動物を召喚獣にしてどうする】
正直に言うべきなんだろうな。この狼にごまかしは通用しないと思った。
「いっぱい召喚獣と契約して、自分の生活を便利にしたいから」
狼をまっすぐ見据え、しっかりとした口調で答える。
【まぁ、そうだろうな。人が動物を従える理由は、それが大半であろう。だが、獣の立場から見て、お前の召喚獣になれば何かいいことがあるのか?】
チロリと見られて、ハッとする。
「あぁ、確かに。こちらが便利に使うだけ使うのもおかしいね」
従うだけに値するメリットか……。それは他の人じゃなく、俺じゃなきゃいけない理由ってことだろう。俺ができることなんて、たかが知れているよなぁ。
うーんと唸ってしばらく考える。
「あ! 僕の召喚獣になったら、家族になってあげられるかな」
俺が胸を張って言うと、途端に狼は体を大きく震わせて笑い出した。
【召喚獣とは従うもの。自分が犠牲となって主人を護る存在だ。それに小さなお前にはわからぬだろうが、主人と従者は対等ではない。隷属させるものに対して、家族、とは】
そう言われて、俺は狼を見上げる。
「うーん、確かにわからないかもしれないけど。僕にとって、やっぱり召喚獣は家族だよ。家族は絶対の存在だ。家族は護るべきだし、対等に扱いたい。僕には、大事にすることぐらいしかできないからね」
何もない自分を、手を広げて表す。正直な気持ちを言ったからか、俺はスッキリして笑顔になる。
【面白い。自分の力のなさを誇るか】
グルルと喉を鳴らして、狼は立ち上がった。そしてゆっくりと俺に頭を垂れる。
「……え」
あまりの事態に、口を開けたまま固まってしまった。
【さあ、我に名を付けよ】
こ、これは、これは契約してくれるってこと?
【さあ……】
うながされてゴクリと喉を鳴らす。
名前……名前、黒い狼だから……。
見つめていると、艶めいた黒い毛並みが黒曜石のイメージと重なった。
「コクヨウ」
名を付けた途端、俺とコクヨウの間に突風が巻き起こる。細めた目の端で、コクヨウが光っているように見えた。
風が止んで、そーっと目を開けると、コクヨウは俺の前に控えていた。
【ではフィル、我が家族よ。我はお前のために力を使おう】
コクヨウはニヤリと笑った。
3
こうして俺の初めての召喚獣は黒い狼となった。名前はコクヨウ。黒曜石のコクヨウだ。
けどおかしいな。本当は毛玉猫みたいに毒気のない、可愛い動物を召喚獣にする予定だったのに。
俺にとって召喚獣は家族同然。護ってしかるべき存在。その言葉に偽りはない。毛玉猫くらいなら護れるさっ!
だけど……。
コクヨウをチラリと見る。
大きな体。しなやかな肢体。鋭い爪。尖った牙。毛並みの上からもわかる逞しい筋肉。
かたや俺は、ぷにぷにの短い手足。すぐバランスを崩す幼児体型。紅葉のようなちっちゃな手のひら。
明らかにあっちのが強いじゃんっ!
たとえばコクヨウを傷つける相手がいたとして、俺が出てって役に立つ!?
護りたいよ? 護りたいけどっ! コクヨウがかなわない敵に、どうやって俺が対抗できようか。
今さらながら、自分の言葉に重責を感じる。
【フィル。これからどうするのだ?】
そう言われて、ハッと思い出した。
忘れてた。もうそろそろ城に戻らないと。もしかしたら、もう抜け出したことに気づかれているかもしれない。
「召喚獣の呼び出し方は知ってるんだけどさ。召喚獣って、どうやって消えるの?」
毛玉猫ならいざ知らず、いきなりコクヨウ連れて帰ったらビックリされそうだ。
初めは隠れてもらったほうがいいかもしれない。
【知らぬ】
コクヨウはあっさりと返答した。
「え?」
【我は召喚獣になったことがないからな。契約以後のことは、とんとわからぬ】
マジか。
じゃあ、やはり帰って誰かに聞くしかないのか。
もろもろバレそうな勢いだが、コクヨウを隠し通せるわけもないからな。こうしていても埒があかないし。
「とりあえず、城に戻ろう」
【城に?】
「僕、あそこの城の末っ子なんだ」
コクヨウは一瞬目を瞬かせ、カッカッカと笑い出した。
【何と! お前は王子か。この我が、王子の召喚獣とは】
何がおかしいんだか、コクヨウはしばらく笑っていた。俺はため息をついてコクヨウを撫でる。
「ほら、コクヨウ帰るよ」
すると、コクヨウの笑いがピタリと止んだ。それから、シルバーグレーの瞳で俺をジッと見つめ、ポツリと呟く。
【そうか、帰る場所があるのだな】
……?
だから城に帰るって言っているのに。
首を傾げていると、コクヨウはヒョイと俺を咥えて、自分の背に乗せた。
「え?」
【落ちるなよ】
「ええぇぇ!?」
言うやいなや、コクヨウは軽やかに地を蹴った。咄嗟に毛を掴んでなきゃ、振り落とされていたに違いない。
いや、今、現在進行形で落とされそうなんだけどっ!
絶叫アトラクションもいいとこだ。幼児の体は軽いから、余計に飛んでいきそうになる。小猿みたいにしがみついているけど、俺の握力はもう限界だった。
ヤバイ。落ちる。
そう思った瞬間、コクヨウはピタリと止まった。
そっと目を開け、しがみついていた体勢から頭を上げた。そして次の瞬間、ビックリして口を開ける。いつの間に城壁を乗り越えたんだろうか。俺達は城の中庭にいた。
よかった、落ちるかと思ったー。ほーっと深い息をつく。
「フィル……?」
声をかけられて、そちらに顔を向ける。
「え……」
そこには父さんと母さん、アルフォンス兄さんと城の兵士達が勢ぞろいしていた。皆、驚愕の表情で固まっている。
「あ……の……えと……」
頭が真っ白になった。
いや、そりゃコクヨウを連れ帰ったら、一人で出かけたこととか、召喚獣を捕獲しようとしていたこととか、いろいろバレちゃうとは思っていた。思っていたが、何もこんな状況じゃなくたってっ!
「フィ、フィル……」
ほら、さすがの父さんも母さんもアルフォンス兄さんも、顔が青ざめちゃっている。
「フィル……こっちにおいで」
アルフォンス兄さんはコクヨウを警戒しながら、俺に呼びかけた。
怒られるんだろうか?
確かに今回は俺が浅はかだった。丘は安全な場所だと思っていたが、実際は違ったわけだし。場所のリサーチや、召喚獣に関しての知識も足りていなかった。
あーもー観念します。正直に話して謝ろう。
「父さま、母さま、アルフォンス兄さま、ただいま帰りました」
コクヨウから降り、近寄っていって頭を下げ、丁寧に挨拶をする。
「無事なのか……?」
父さんは俺を抱き上げ、怪我がないか確かめる。だが、無事を確認した後も、まだ信じられない様子だ。
「よかった、もうダメかと……」
母さんは震える指先で頬を撫でた。美しいその瞳には涙がたまっている。
そんなに心配させてしまったのかと自分の行動を反省した。
「心配かけてごめんなさい」
そう呟いてシュンと俯く。
「へ、へ、陛下っ! ディアロスはどういたしましょうっ!」
金切り声が聞こえてそちらを見ると、兵士達が槍や剣を構えてコクヨウと対峙していた。
コクヨウは欠伸をして耳の後ろをかいているのだが、兵士達はその動作にさえも悲鳴を上げてプチパニックを起こしている。
「陛下っ! ご指示を!」
側で控えていたヴィンス・グランドール将軍は、頭を下げて指示をあおぐ。父さんはそれに頷くと、俺をアルフォンス兄さんに預けた。
「アルフォンス、フィリス。フィルを連れて城に入れ。兵はディアロスの周りを固め、腕に覚えがある者だけ前に出よっ!」
威厳のある声を響かせ、辺りの者に指示を出す。
「陛下っ! 私めにお任せをっ!」
グランドール将軍はそう言うと、大剣を鞘から抜き、コクヨウに向かって剣を構えた。
ええぇっ!! ちょちょちょ! 何、この状況っ!
よくわからないけど、切羽詰まった状況なのはわかった。
ジタバタしてアルフォンス兄さんの腕から抜け出し、地へ降りる。
「フィルっ!」
制止を振り切り、コクヨウのもとに走って行った。わしっとコクヨウにすがりつく。
「父さま、傷つけてはダメです!」
「フィルっ! それは危険な獣だっ!」
父さんが目配せして、グランドール将軍に合図を送る。グランドール将軍は大剣を構え直した。それに合わせ、兵は腰が引けながらも、俺を奪還しようと槍や剣を構えジリジリと近づいてくる。
ああ、もう! 何で止まらないんだよ。
息を吸い込んで、目いっぱい大きな声で叫んだ。
「コクヨウは僕の召喚獣ですっ!!」
声が辺りに響き渡る。
ジリジリ近づいていた兵がピタリと止まる。
グランドール将軍も、父さんや母さんやアルフォンス兄さんも、驚愕したまま固まった。
ようやく止まってくれたかと、俺はフゥと鼻で息をつく。
その固まった一団から、いち早く回復したのはアルフォンス兄さんだった。
「フィル……それはどこで召喚獣にしたんだい?」
「城の裏の丘です」
怒られるかなぁと思いつつもそう答えると、辺りが一気にざわめいた。怒るよりも、驚きのほうが勝ったようだ。アルフォンス兄さんはさらに質問を重ねる。
「じゃあ、やはりそれはディアロスなのかい?」
そういやさっきから皆、コクヨウをそう呼んでいるな。コクヨウを見上げて聞いてみる。
「ディアロスって呼ばれているの?」
さして興味なさそうだが、コクヨウはゆったりとした様子で頷く。
【コクヨウとなる前、人からの呼称はそうだったかもしれん】
へー、そうなんだ。
「そうみたいです」
あまりにあっさり言うからか、父さんは脱力して言った。
「フィル……それは我が国の封印せし、伝承の獣だ」
◇ ◇ ◇
城の防御力、これで大丈夫なんだろうか。少し心配になってしまう。
穴を隠している木の枝を、息を切らしながらどける。幼児の体では何をするにも大変だ。
何とか撤去を終え、抜け穴にソロリと頭を突っ込む。
「誰もいないな」
向こう側を確認し、ヨイショと城壁を抜けた。服の埃を払い、周囲を見回すと、すぐ横に小高い丘があった。
よし! 気づかれないうちに早く行こう。
丘に向けて走り出す。だが、すぐに立ち止まった。ゼイゼイと肩で息をする。
足が短い……。幼児体型おそろしや。
平地は大丈夫だったが、坂になると頭が重くてバランスを崩す。気を抜いたら、そのまま後ろに転がりそうだ。
あぁ、早く成長してくれないかな。体力もなさすぎるし。トレーニングも兼ねて柔術を活かした朝の体操をやっているのになぁ。すぐに筋力はつかないか。
二の腕をつまむと、ぷにぷにと柔らかい感触がした。先は長い。
体が弱いわけではないみたいなんだけどなぁ……。
ため息をついて歩を進める。ただの小高い丘なのに、上るのにだいぶ時間がかかってしまった。ゼイゼイしながら城を振り返る。
くそー、帰る時は転がったほうがいいのか? つい悔しさで荒んだ発想をしてしまう。
ま、帰りの時のことはいいか。気を取り直して、探索しよう。
丘の頂上は野球グラウンドくらいの広さがあった。俺のお腹辺りまで伸びた草が一面に広がっている。
奥には背の低い木が密集し、茂みもあるみたいだな。
うーん、その茂みに、ちらほら動く何かがいるみたいなんだけど……。
俺が近づくと、パッと隠れてしまう。草でよく見えないし。
「こーんにーちはー」
歌のお兄さんのように明るく呼びかける。
本当は姿を見せた時に一対一で語りかけたかったが、茂みから出てこない以上、どうにもならない。
「僕とお話ししませんかー!」
すると、四方八方から動物の鳴き声が聞こえ出す。何やら様子を窺っているようだ。
【あんな小さな子供がどうしてここにいるの?】
【こんなとこ、普通一人で来ないわよね】
【何か怪しいわ】
【俺達をどうするつもりだ】
小声でざわめいている。
うーわ、めちゃくちゃ怪しまれている。
【時々やってきて何か叫んでいる子の仲間かしら】
【あぁ、「筋肉は正義」とか言ってるやつ?】
【迷惑よね。あれ】
……ヒューバート兄さんのことだ。動物にまで迷惑がられているなんて。何だかかわいそすぎて涙が出そうだな。
これはあれか……踊れってことか。こちらに敵意がないということを示さなければならないのか。
どうする。どうする俺。
トラウマがモグラみたいにひょこひょこ顔を出す。だけど、正直ここまで来て成果もなしには戻れない。
「踊ります!」
仕方なしに盆踊りを始めた。
最後に踊ってから何年も経つのに、不思議と忘れないものだ。
無音で踊っているから、自分の手拍子がやけに辺りに響く。
うぅ……一発芸やって、静まり返った宴会場みたい。
だがしばらくすると、様子を見ていた動物達が少しずつ集まり出した。しかも、俺の後ろについて、真似するように踊り出す。
「おおぉぉ」
か、かかか可愛い!
頭に角のあるウサギや、耳の大きなキツネ、小型犬くらいあるリス、他にも見たことない動物がいっぱいいる。俺と小動物たちが輪になって盆踊り。踊りは渋いが、メルへンなことこの上ない。
嫌々始めたのだが……踊りの力はすごいものだ。一周り二周りと踊るほどに連帯感が生まれる。
いつしか、動物達と笑いながら盆踊りを楽しんでいた。
わはは、めっちゃ楽しいっ! あり得ない状況すぎる。
だが、突然動物達が蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
「え、あれ? どうしたの?」
急にポツンと取り残され、俺は辺りを見回した。そして俺の瞳が、ゆっくりと近づく大きな影を捉える。
【変わった毛並みの者がいるな……】
笑いを含んだ言葉は、どこか値踏みするような響きがあった。
大きな黒い狼だ。子供どころか、大人だって楽々背に乗れそうな大きさをしている。
しかし、それより何より驚いたのは色と毛並みだった。烏の濡れ羽色とはこのことだろう。
黒い艶やかな毛が全身を覆い、二つに分かれたフサフサの尻尾が優雅に揺れている。
「わぁぁぁ、綺麗だ」
思わず感嘆の声が漏れる。すると狼は楽しそうに目を細めた。
【我が怖くないのか?】
問われて、すぐ首を振った。
「何で? こんなに綺麗なのに」
【大方は、そこにいる奴らのような反応を見せるんだがな】
改めて周りをよく見ると、一緒に踊っていた動物達がプルプルと震えて遠くで固まっている。明らかに怖がっていた。
この狼はあの動物達より上位なのかな?
そういえば、時々森から動物がやってくるとアリアが言ってたっけ。だから護衛が必要なんだと。
だが、やはり怖い気持ちにはなれなかった。
犬派か猫派かと言われれば、断然犬派だ。
二つに分かれた尻尾と、巨体以外、この狼に犬との違いを見つけられなかったからだろうか。
怖さよりも、ふわふわした綺麗な毛並みのほうが気になった。
狼は興味ありげに俺の周りを回る。目の前を通りすぎるたび、尻尾がゆらゆらと揺れて俺を誘う。
「めちゃくちゃ触り心地よさそうだね」
俺の言葉を聞くと、狼はクククと噴き出すのをこらえるように笑った。
【さっきの踊りといい、おかしな奴だな】
盆踊りのことは言わないでください。
でも笑ってくれたので、少しくだけた気持ちになる。
「お願いがあるんだけど……」
【何だ?】
「撫でてもいい?」
勇気を出して聞いてみると、狼は触りやすいよう体を寄せてきた。近くで見ると、毛の一本一本が細いことがわかる。
おずおずと触れる。まるで上質な毛布のような柔らかさだった。しかも、毛足が長いからボリュームたっぷり。
我慢できず……思いきってポスンと顔を埋める。
「ふぁぁぁ気持ちいい~」
叶うことならば、ずっとこうしていたい。そのくらいの心地よさだった。
【やはり変わった子供だな】
狼はくっくっくっと笑う。おかげで胴体に乗せていた俺の頭も、笑いとともに揺れた。
動物に変だと言われるとは……。
【お前の名前は?】
「フィル」
伏せをしてくれたので、狼の上にダイブしながら俺は答える。
モフモフすぎてこのまま眠っちゃいそう。
【子供が一人、なぜこのようなところに来た】
「このようなところって……?」
毛並みを堪能していた俺は、顔を上げて首を傾げた。
【この丘には、ある獣がいる。城はその獣を封印するために造られたのだ】
え、何それ。初耳ですよっ!
ガシッと狼にすがりついて聞く。
「ここ、可愛い小動物しかいないんじゃないの?」
【小動物もいるがな。強い動物は、人が来ても姿を見せないだけのこと。弱すぎて相手にならぬからだ】
狼は馬鹿にしたようにふんっと鼻で笑う。俺は驚愕した。
「ええ、そんなの聞いてないよ!」
狼は何を今さらと呆れたように言うが、俺は初耳ですから!
あ、もしかして中断した勉強の中にそんな情報があったのかな?
しまったー。せめて召喚獣の本の最後まで終わらせておけばよかった。
【ちなみにそこらで踊っていたのも、姿形は可愛かろうが能力はそこそこある。大人ならまだしもお前のような子供など、襲われたらひとたまりもなかったろう】
そう言われて、愕然とする。
あんなにメルヘンチックだった踊りの輪。だが見方を変えれば、途端に俺という生け贄を捧げる儀式だ。
あんなに連帯感があったのに。ま、まさか……。
「も、もしかして食べる気だったー?」
慌てて遠巻きに見ている動物達に叫ぶ。すると、動物達はとんでもないと言うようにブルブルと首を振った。
「よかった」
俺達のあの時間は幻じゃなかった。
するとその様子を見て、狼がまた笑う。
【あやつらは踊りを純粋に楽しんでいただけだろう。安心しろ】
焦らせたのは狼なんだけど。だが、盆踊り侮れないな。そんなに好評だったのか。
「じゃあ、この場所って、獣が封印されてるの?」
【いや、封印などされていない。そもそも人間にどうこうできるものでもない】
呆れたように息をつく狼に、再び首を傾げる。
「え、どういうこと? 封印されてないのに大人しくしてるわけ?」
狼はチラリとこちらを振り返った。そしてニヤリと笑う。
【だから言っただろう。人間など、弱すぎて相手にしていないだけだ】
な、なるほど。その気になればどうとでもできると……。
【それでフィル。お前はなぜここに来たのだ?】
「それは……召喚獣にする動物と仲良くしようと思って」
【ほぉ、召喚獣にな】
狼の声のトーンが楽しげなものから、少し低いものに変わる。
ん? なんか地雷踏んじゃった?
何となくピリッとした空気を感じ取った。
あからさまに俺を値踏みするような視線を向けてくる。
【動物を召喚獣にしてどうする】
正直に言うべきなんだろうな。この狼にごまかしは通用しないと思った。
「いっぱい召喚獣と契約して、自分の生活を便利にしたいから」
狼をまっすぐ見据え、しっかりとした口調で答える。
【まぁ、そうだろうな。人が動物を従える理由は、それが大半であろう。だが、獣の立場から見て、お前の召喚獣になれば何かいいことがあるのか?】
チロリと見られて、ハッとする。
「あぁ、確かに。こちらが便利に使うだけ使うのもおかしいね」
従うだけに値するメリットか……。それは他の人じゃなく、俺じゃなきゃいけない理由ってことだろう。俺ができることなんて、たかが知れているよなぁ。
うーんと唸ってしばらく考える。
「あ! 僕の召喚獣になったら、家族になってあげられるかな」
俺が胸を張って言うと、途端に狼は体を大きく震わせて笑い出した。
【召喚獣とは従うもの。自分が犠牲となって主人を護る存在だ。それに小さなお前にはわからぬだろうが、主人と従者は対等ではない。隷属させるものに対して、家族、とは】
そう言われて、俺は狼を見上げる。
「うーん、確かにわからないかもしれないけど。僕にとって、やっぱり召喚獣は家族だよ。家族は絶対の存在だ。家族は護るべきだし、対等に扱いたい。僕には、大事にすることぐらいしかできないからね」
何もない自分を、手を広げて表す。正直な気持ちを言ったからか、俺はスッキリして笑顔になる。
【面白い。自分の力のなさを誇るか】
グルルと喉を鳴らして、狼は立ち上がった。そしてゆっくりと俺に頭を垂れる。
「……え」
あまりの事態に、口を開けたまま固まってしまった。
【さあ、我に名を付けよ】
こ、これは、これは契約してくれるってこと?
【さあ……】
うながされてゴクリと喉を鳴らす。
名前……名前、黒い狼だから……。
見つめていると、艶めいた黒い毛並みが黒曜石のイメージと重なった。
「コクヨウ」
名を付けた途端、俺とコクヨウの間に突風が巻き起こる。細めた目の端で、コクヨウが光っているように見えた。
風が止んで、そーっと目を開けると、コクヨウは俺の前に控えていた。
【ではフィル、我が家族よ。我はお前のために力を使おう】
コクヨウはニヤリと笑った。
3
こうして俺の初めての召喚獣は黒い狼となった。名前はコクヨウ。黒曜石のコクヨウだ。
けどおかしいな。本当は毛玉猫みたいに毒気のない、可愛い動物を召喚獣にする予定だったのに。
俺にとって召喚獣は家族同然。護ってしかるべき存在。その言葉に偽りはない。毛玉猫くらいなら護れるさっ!
だけど……。
コクヨウをチラリと見る。
大きな体。しなやかな肢体。鋭い爪。尖った牙。毛並みの上からもわかる逞しい筋肉。
かたや俺は、ぷにぷにの短い手足。すぐバランスを崩す幼児体型。紅葉のようなちっちゃな手のひら。
明らかにあっちのが強いじゃんっ!
たとえばコクヨウを傷つける相手がいたとして、俺が出てって役に立つ!?
護りたいよ? 護りたいけどっ! コクヨウがかなわない敵に、どうやって俺が対抗できようか。
今さらながら、自分の言葉に重責を感じる。
【フィル。これからどうするのだ?】
そう言われて、ハッと思い出した。
忘れてた。もうそろそろ城に戻らないと。もしかしたら、もう抜け出したことに気づかれているかもしれない。
「召喚獣の呼び出し方は知ってるんだけどさ。召喚獣って、どうやって消えるの?」
毛玉猫ならいざ知らず、いきなりコクヨウ連れて帰ったらビックリされそうだ。
初めは隠れてもらったほうがいいかもしれない。
【知らぬ】
コクヨウはあっさりと返答した。
「え?」
【我は召喚獣になったことがないからな。契約以後のことは、とんとわからぬ】
マジか。
じゃあ、やはり帰って誰かに聞くしかないのか。
もろもろバレそうな勢いだが、コクヨウを隠し通せるわけもないからな。こうしていても埒があかないし。
「とりあえず、城に戻ろう」
【城に?】
「僕、あそこの城の末っ子なんだ」
コクヨウは一瞬目を瞬かせ、カッカッカと笑い出した。
【何と! お前は王子か。この我が、王子の召喚獣とは】
何がおかしいんだか、コクヨウはしばらく笑っていた。俺はため息をついてコクヨウを撫でる。
「ほら、コクヨウ帰るよ」
すると、コクヨウの笑いがピタリと止んだ。それから、シルバーグレーの瞳で俺をジッと見つめ、ポツリと呟く。
【そうか、帰る場所があるのだな】
……?
だから城に帰るって言っているのに。
首を傾げていると、コクヨウはヒョイと俺を咥えて、自分の背に乗せた。
「え?」
【落ちるなよ】
「ええぇぇ!?」
言うやいなや、コクヨウは軽やかに地を蹴った。咄嗟に毛を掴んでなきゃ、振り落とされていたに違いない。
いや、今、現在進行形で落とされそうなんだけどっ!
絶叫アトラクションもいいとこだ。幼児の体は軽いから、余計に飛んでいきそうになる。小猿みたいにしがみついているけど、俺の握力はもう限界だった。
ヤバイ。落ちる。
そう思った瞬間、コクヨウはピタリと止まった。
そっと目を開け、しがみついていた体勢から頭を上げた。そして次の瞬間、ビックリして口を開ける。いつの間に城壁を乗り越えたんだろうか。俺達は城の中庭にいた。
よかった、落ちるかと思ったー。ほーっと深い息をつく。
「フィル……?」
声をかけられて、そちらに顔を向ける。
「え……」
そこには父さんと母さん、アルフォンス兄さんと城の兵士達が勢ぞろいしていた。皆、驚愕の表情で固まっている。
「あ……の……えと……」
頭が真っ白になった。
いや、そりゃコクヨウを連れ帰ったら、一人で出かけたこととか、召喚獣を捕獲しようとしていたこととか、いろいろバレちゃうとは思っていた。思っていたが、何もこんな状況じゃなくたってっ!
「フィ、フィル……」
ほら、さすがの父さんも母さんもアルフォンス兄さんも、顔が青ざめちゃっている。
「フィル……こっちにおいで」
アルフォンス兄さんはコクヨウを警戒しながら、俺に呼びかけた。
怒られるんだろうか?
確かに今回は俺が浅はかだった。丘は安全な場所だと思っていたが、実際は違ったわけだし。場所のリサーチや、召喚獣に関しての知識も足りていなかった。
あーもー観念します。正直に話して謝ろう。
「父さま、母さま、アルフォンス兄さま、ただいま帰りました」
コクヨウから降り、近寄っていって頭を下げ、丁寧に挨拶をする。
「無事なのか……?」
父さんは俺を抱き上げ、怪我がないか確かめる。だが、無事を確認した後も、まだ信じられない様子だ。
「よかった、もうダメかと……」
母さんは震える指先で頬を撫でた。美しいその瞳には涙がたまっている。
そんなに心配させてしまったのかと自分の行動を反省した。
「心配かけてごめんなさい」
そう呟いてシュンと俯く。
「へ、へ、陛下っ! ディアロスはどういたしましょうっ!」
金切り声が聞こえてそちらを見ると、兵士達が槍や剣を構えてコクヨウと対峙していた。
コクヨウは欠伸をして耳の後ろをかいているのだが、兵士達はその動作にさえも悲鳴を上げてプチパニックを起こしている。
「陛下っ! ご指示を!」
側で控えていたヴィンス・グランドール将軍は、頭を下げて指示をあおぐ。父さんはそれに頷くと、俺をアルフォンス兄さんに預けた。
「アルフォンス、フィリス。フィルを連れて城に入れ。兵はディアロスの周りを固め、腕に覚えがある者だけ前に出よっ!」
威厳のある声を響かせ、辺りの者に指示を出す。
「陛下っ! 私めにお任せをっ!」
グランドール将軍はそう言うと、大剣を鞘から抜き、コクヨウに向かって剣を構えた。
ええぇっ!! ちょちょちょ! 何、この状況っ!
よくわからないけど、切羽詰まった状況なのはわかった。
ジタバタしてアルフォンス兄さんの腕から抜け出し、地へ降りる。
「フィルっ!」
制止を振り切り、コクヨウのもとに走って行った。わしっとコクヨウにすがりつく。
「父さま、傷つけてはダメです!」
「フィルっ! それは危険な獣だっ!」
父さんが目配せして、グランドール将軍に合図を送る。グランドール将軍は大剣を構え直した。それに合わせ、兵は腰が引けながらも、俺を奪還しようと槍や剣を構えジリジリと近づいてくる。
ああ、もう! 何で止まらないんだよ。
息を吸い込んで、目いっぱい大きな声で叫んだ。
「コクヨウは僕の召喚獣ですっ!!」
声が辺りに響き渡る。
ジリジリ近づいていた兵がピタリと止まる。
グランドール将軍も、父さんや母さんやアルフォンス兄さんも、驚愕したまま固まった。
ようやく止まってくれたかと、俺はフゥと鼻で息をつく。
その固まった一団から、いち早く回復したのはアルフォンス兄さんだった。
「フィル……それはどこで召喚獣にしたんだい?」
「城の裏の丘です」
怒られるかなぁと思いつつもそう答えると、辺りが一気にざわめいた。怒るよりも、驚きのほうが勝ったようだ。アルフォンス兄さんはさらに質問を重ねる。
「じゃあ、やはりそれはディアロスなのかい?」
そういやさっきから皆、コクヨウをそう呼んでいるな。コクヨウを見上げて聞いてみる。
「ディアロスって呼ばれているの?」
さして興味なさそうだが、コクヨウはゆったりとした様子で頷く。
【コクヨウとなる前、人からの呼称はそうだったかもしれん】
へー、そうなんだ。
「そうみたいです」
あまりにあっさり言うからか、父さんは脱力して言った。
「フィル……それは我が国の封印せし、伝承の獣だ」
◇ ◇ ◇
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