転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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第26章~転生王子と学校見学

番外編たんぽぽホタル

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 毛玉猫のホタルはかぶっていた布団から顔だけを出すと、大きなあくびをした。
 それに気がついた袋鼠のテンガが、ベッドにピョンと飛び乗る。
 【ホタルおはよっす!】
 顔を覗き込んで、元気な声で挨拶をする。テンガはいつもテンションが高い。
 そんなテンガの頭の上には、光鶏のコハクとウォルガーのルリが乗っていた。
 【オハヨーッ!】
 【おはようございます】
 コハクは翼をバタつかせ、ルリは前足を振って挨拶する。
 【みんな、おはよぉです】
 ホタルは目をとろんとさせたまま挨拶を返した。
 毛玉猫は本来、夜行性だ。フィルに朝の挨拶をしたいので頑張って起きているが、朝はとても弱いのである。
 ちゃんと目が覚めるには、しばし時間がかかった。
 【おはよう、ホタル。よく寝ていたわね】
 精霊のヒスイがふわりと飛んできて、優しく微笑む。
 枕元にいた氷亀のザクロが、ゆっくりと歩いてホタルの前にやってきた。
 【フィル様は朝ごはんを召し上がって、もう学校に行く準備なさってるぜ】
 その言葉通り、フィルはクローゼットの前で制服に着替えているところだった。
 寝坊したせいで一緒にいられる時間が減ってしまったと、ホタルはしょんぼりする。
 「あ、ホタル起きたの?おはよう」
 着替えを終えたフィルがベッドまでやってきて、布団をかぶったままのホタルを覗き込む。
 「食堂に行く前に、一度起こしたんだよ」
 【……覚えてないです】
 ホタルには起こされた記憶が全くなかった。
 「学校行く前に挨拶ができて良かった」
 フィルはにっこりと笑って、布団の上からホタルの頭をポンポンと叩く。
 それだけで、先ほどまでのしょんぼりしていた気持ちが和らぐ。
 布団からもぞもぞと出てきて、フィルに向かって元気よく「ナ~ウ」と鳴いた。
 【フィルさま、おはようです】
 挨拶をしたホタルに、フィルは一瞬だけ目を丸くして、それからくすくすと笑い始めた。
 ホタルはキョトンとして尋ねる。
 【どうかしたです?】
 「ふっ、ふふふ。ごめん。ホタルの毛が綿毛みたいになってるから……」
 自分の喩えがピッタリだと思ったのか、フィルは再び笑い始める。
 ベッドの端で丸まって寝ていたコクヨウが、頭を持ち上げてホタルに視線を向ける。
 【……いつもにも増して膨らんでるな】
 【丸くてぽわぽわして可愛いですわね】
 口元を押えてヒスイが笑い、コハクとテンガとルリは「おぉ、すごい」と感嘆している。
 【ボクの毛どうなってるです?】
 注目を浴びて不安になったホタルに、ザクロはくるりと背を向けた。
 【オイラの甲羅で見てみな】
 ピカピカに磨かれたザクロの甲羅は、鏡のように物を反射する。
 そこには、毛が逆立ってボリュームアップしたホタルが映っていた。
 【何だ?ホタルがどうしたんだ?】
 遅れてベッドによじ登ってきたランドウは、ホタルを見て目を丸くする。
 【すげぇ!毛がボワッとしてるぞ!ホタルこれどうやってんだ?】
 【わからないです】
 あえて答えるなら、寝て起きたらこうなっていたとしか言えない。
 不思議がっているホタルたちに、フィルは笑いをこらえつつ教える。
 「これは静電気だよ。空気が乾燥してると、摩擦でこうなっちゃうことがあるんだ。多分、布団から出てくる時に、摩擦がおきちゃったんじゃないかな」
 フィルの説明を聞いても、ホタルたちは口をポカンと開けて目を瞬かせるだけだ。
 「……わからないよね。まぁ、簡単に言うと布団でこすれて、毛と毛に雷がたまったってこと。今のホタルに触ると危ないから、直すまで……」
 そう話している最中に、ランドウがホタルの毛を前足で触った。
 パチッとはじけた静電気に、ランドウはベッドの上を転がる。
 【イターッ!】 
 「前足見せて。大丈夫?」
 焦ったフィルが、ランドウの前足を観察する。
 【……もう痛くない。けど、さっきは痛かった】
 すっかりテンションが下がったランドウに、フィルは苦笑する。
 「だから言ったでしょ。毛に雷がたまってるから、触ったら危ないんだってば」
 【フィル様、な、何が起こったっすか?ホタルどうしちゃったっすか!】
 ビビったテンガは、コクヨウの後ろに隠れながら尋ねる。
 【我を盾にするな】
 【アニキでもやられちゃうっすか!?】
 【違う。あれしきのこと、逃げるまでもないだろうが】
 【でも怖いっす!】
 堂々と言うテンガに、コクヨウに嘆息する。
 「子狼姿のコクヨウの後ろに隠れても、半分くらいはみ出してるけどねぇ」
 苦笑するフィルに、ホタルは不安げに尋ねる。
 【フィルさま、ボクずっとこのままです?】
 「大丈夫。直してあげるよ」
 そう言って、机の引き出しを開け、布と液体の入ったボトル、動物用のブラシを持ってきた。
 布に液体をしみこませ、膨張したホタルを優しく撫でる。
 逆立った毛が落ち着いて、幾分かしっとりとした。
 【草の優しい香りがするです】
 スンスンと鼻を鳴らすホタルに、フィルは微笑む。
 「気に入ってくれて良かった。ロロナから抽出した液体なんだ」
 【とろみのある植物ですわよね】
 「そうそう。薬草の一種でもあってね。保湿にいいんだよ。これを付けてブラッシングしたら、静電気が起きにくくなるよ」
 そう言って、優しくブラシを入れる。
 しばらくすると、ふわふわの毛並みになった。
 そんなホタルを見ながら、ランドウがため息を吐く。
 【さっきのもかっこよかったけど、パチパチは痛いもんなぁ】
 「タンポポの綿毛みたいで、可愛かったけどね」
 くすくすと笑うフィルに、ホタルが尋ねる。
 【タンポポって何です?】
 「元は黄色いお花でね。花が終わるとさっきのホタルみたいな姿になるんだよ。種一つ一つにふわふわの白い綿毛がついていて、風が吹いたら飛んでいくんだ」
 実際にその花を見たことがないホタルは、膨らんだ自分が風に飛ばされる姿を想像してプルッと震える。
 【タンポポじゃなくなって、ボク良かったです】
 ホッと息を吐くホタルに、フィルは微笑んで優しく頭を撫でた。
  
 
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