転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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第20章~転生王子と後期授業

8巻発売日記念 特別編 ハニーベアとお礼

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 ある日の放課後。俺はカイルとコクヨウ、ヒスイとランドウと一緒に、ステアの南の森を訪れた。
 この森には、ハニーベアが棲んでいる。
 ハニーベアにもらったマームはちみつのおかげで、商学の販売が大好評だったので、そのお礼にやって来たのだ。
 巣が見えてくると、はちみつを食べているハニーベアの姿があった。
 相変わらず、その姿は小熊のぬいぐるみみたいに可愛い。
 すると、はちみつに目がないランドウが、ハニーベア目がけて嬉しそうに走り出した。
 【わぁい!俺にもはっちみつくれーっ!】
 「あ、ランドウちょっと!」
 慌てた俺の横をカイルとコクヨウが駆け抜け、素早い動きでランドウを押さえつける。
 「その突撃癖は直らないのか」
 カイルが呆れた口調で言い、コクヨウは鼻を鳴らす。
 【我より先にはちみつを食そうなど、百年早いわ】
 【あとちょっとだったのにぃ】
 ジタバタするランドウを、ヒスイが困り顔で見下ろしてクスクスと笑う。
 【ランドウったら。毎回コクヨウたちに阻止されるのに、全然懲りませんのね】
 【次は成功させる!】
 押さえつけられた状態で、地面をタンタンと前足で叩く。
 「うーん。突撃訪問でなければ、そのチャレンジ精神は大いに褒めたいんだけどな」
 俺はカイルからランドウを受け取って、体の土を払う。
 ハニーベアはそんな俺たちを見て、体を揺らして笑った。
 【ふふふ。相変わらず君たちは賑やかだねぇ。それにしても……、今日ってはちみつを取りに来る日だったっけ?もう足りなくなっちゃったの?】
 小首を傾げて尋ねられた俺は、首をゆるく振った。
 「違うよ。今日は商学に使うはちみつを貰いに来たんじゃないんだ。君のおかげで商学が大成功だったから、そのお礼に来たんだよ」
 そう説明すると、ハニーベアは目をパチクリとさせる。
 【お礼?お礼はもらってるよ。来るたびに、巣の周りをお掃除してもらってるもの】
 確かに夏になって鬱蒼とし始めた巣の周りを整えてあげ、過ごしやすいようにしてあげてはいた。
 「でも、美味しいマームはちみつの対価としては、全然足りない気がするんだ」
 ハニーベアのブレンドするマームはちみつは、最高級品だ。草むしり程度では、お返しとして申し訳ない。
 「ヒスイ、お願い」
 俺が合図すると、ヒスイは頷いて蔦を操る。蔦はクネクネと生き物のように動き、それが止まると一つの籠が編み上がった。
 俺は肩掛けバッグから、クッションを取り出し、その籠に取り付ける。
 【これなぁに?】
 「君の寝床だよ」
 ハニーベアは巣穴の中に、植物のふわふわした穂を敷いて寝床にする。だが、穂はすぐへたってしまうので、定期的に交換する必要があった。
 さらに、雪の降る季節にはその植物から穂が取れなくなってしまうので、春までぺしゃんこの寝床で寝なくてはならないそうだ。
 「汚れにくくて丈夫な繊維を編んでクッションを作ったから、土で汚れても払えばいいよ」
 俺が微笑んで地面に籠を置くと、ハニーベアはさっそくそこに寝転んで目を煌めかせる。
 【ふわふわだ!すごーい】
 ゴロゴロと寝返りを打って、寝心地を存分に楽しむと、勢いをつけてムクッと起き上がった。
【本当にありがとう!こんなにいい物もらっていいのかなぁ】
 前足を口に当てて、ハニーベアは唸る。
 「君のはちみつの対価としては、全然足りないくらいだよ」
 俺がそう言っても、ハニーベアはまだ唸ったままだ。
 だがふと何かを思いついたのか、嬉しそうな顔で俺たちを見上げた。
 【そうだ!籠のお礼にはちみつ持って行ってよ】
 名案だとばかりに、巣の近くにおいてあったはちみつの容器を掲げる。
 「えぇ!?いやいや、これはお礼なんだから、お礼のお礼はいらないよ。足りないくらいだって言ったでしょ。貰っちゃったんじゃ、物々交換になっちゃう」
 「フィル様の言う通りだ。気を遣わずに受け取ってくれ」
 俺とカイルはそう言ったが、ハニーベアはそれでも俺たちにはちみつ容器を渡そうとする。
 【くれるというのだから、遠慮なくもらえばいい。お礼という気持ちなら尚更な】
 【そうだ。遠慮したら失礼だぞ】
 コクヨウとランドウは、真面目な口調で頷く。
 尻尾が揺れている時点で、その内心はバレバレなんだけど……。
 コクヨウもランドウも、マームはちみつ好きだもんな。
 こういう時だけ意見が合うんだから、困ったものだ。
 【僕ももらってくれた方が嬉しいよ】
 ハニーベアにも強くそう言われ、俺は躊躇いながらも受け取ることにした。
 「じゃ、これのお礼を持って、また遊びに来るね」
 俺が微笑むと、ハニーベアは嬉しそうに大きく頷いた。
 【待ってるね!】
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