転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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第20章~転生王子と後期授業

GW企画 特別編 カイルの日常

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ー 対抗戦後・卒業式前の時期 ー

 目を開けると、暗い視界に自室の天井が見えた。
 俺が何度か瞬きをしていると、闇妖精のキミーがひょこっと顔を出して、俺の顔をのぞき込む。
 【カイル、目が覚めたぁ?おはよーうっ!】
 毎朝のことだが、キミーはいつも明るくて元気がいい。
 闇の妖精の傾向として、大人しい性格の妖精が多いらしいが、キミーはその枠から外れている。
 【キミー、カイルが驚いちゃうだろ。毎朝言ってるのに】
 そう言ってキミーを嗜めたのは、同じく闇の妖精のキリ。
 しっかり者のキリは、後ろからそっと皆を手助けしてくれるそんな存在だ。
 前に出てくる時は、今のようにキミーを嗜める時だった。
 【いいじゃない。朝は元気に挨拶するものよ!ねぇ、キム】
 同意を求められたのは、無口なキムだ。キムは困った様子で、キミーとキリの顔を交互に見る。
 【まぁまぁ、朝からケンカしちゃ駄目だよぉ】
 のんびり屋のキオは、そのゆったりしたしゃべり方で場を和ませる。
 「キオの言う通りだな」
 俺は小さく笑って、上半身を起こした。
 【カイル、おはよう】
 甘えん坊のキキが、俺の肩にしがみつく。
 【あぁ!キキ、ずるいっ!】
 そう言って、キミーたちも俺の体にくっついた。その無邪気な闇の妖精たちに、小さく笑う。
 「キミー、キキ、キム、キリ、キオ、おはよう」
 
 闇の妖精たちに挨拶を終えた俺は、鍛錬用の服に着替えた。
 朝・夕の鍛錬は俺の日課だ。授業と授業の合間に空き時間があれば、その時も行うことがある。
 フィル様の従者として、いつでも戦えるよう、日々鍛えなくてはならないのだ。
 木刀の素振りが百を過ぎる頃、寝ぼけ眼のフィル様がやってきた。
 「おはようございます」
 「おはよう」
 フィルは微笑むと、小さくあくびをして準備体操を始める。
 「カイルはいつも早く起きるよね。自分で起きるの?」
 「はい。自然と目が覚めます」
 「うわぁ、すごいねぇ」
 素直に感心されて、何だか気恥ずかしくなる。
 「別にすごくないですよ」
 「すごいよ。僕なんかコハクに起こしてもらわないと、早朝鍛錬の時間に全然起きられなくて……」
 そう言って、ため息をつく。
 早朝鍛錬は、俺が個人的に始めたことだ。対抗戦も終わった今、フィル様が参加する必要はない。
 だが、朝の弱いフィル様が早くに起きて、今もこうして鍛錬に付き合ってくれるのは嬉しかった。
 「よし、準備体操終わり。僕、素振りするから、打ち合いの準備できるまで休んでいていいよ」
 木刀を持ったフィル様に、俺は首を振った。
 「いえ、一緒に素振りします」

 早朝鍛錬を終えた俺とフィル様は、沐浴場で汗を流し、寮の食堂でレイやトーマと一緒に朝食を取る。
 それから中等部の校舎に向かって、授業に出る。
 フィル様とは召喚学以外同じ授業を取っているので、ほとんど一緒に行動している。
 本日の授業を終え、俺と並んで歩きながら、フィル様は困ったように俺を見上げる。
 「カイルはもっと自分の時間を大事にしていいんだよ。休み時間くらいは別行動をとってもいいんだからね」
 フィル様の言葉は、俺のためを思ってのことだろう。
 身分の違う俺を、一個人として尊重して大事にしてくれる。それはとてもありがたいし、嬉しい。
 しかし、俺の優先順位は、やはりフィル様なんだよな……。
 俺が小さく唸った時、前方から聞き覚えのある声がした。
 前方とは言っても、今歩いている廊下のずっと先、校舎玄関へと続く曲がり角だ。
 だいぶ先だから、フィル様には聞こえていないだろう。
 俺がその声に意識を集中すると、それはF・Tフィル・テイラファンクラブ会長のメルティー・クロスと、ファンクラブ会員たちだった。
 「会長!フィル君とカイル君が近付いて来ます!」
 「ふふふ。今日こそはフィル君たちを我がファンクラブのお茶会に誘うわ!いつもすげなく断られてるけど、今日この後授業も用事もないことは調査済み。絶対、逃がさないわ!場合によっては、出会い頭にフィル君に抱きついちゃったりして……」
 「まぁ!会長ったら大胆っ!」
 キャイキャイと賑やかな会話が聞こえる。
 また彼女たちか……。
 ファンクラブ自体が悪いというわけではないのだが、あのメルティーに捕まると断るのに時間がかかる。
 これならば、男子生徒が主体の『フィル・テイラ見守り隊』の方がよほど安全だ。
 フィル様が丁寧に対応されることも、メルティーが諦めない要因なのかもしれないが……。
 眉を寄せる俺を、フィル様が少し不安そうに見上げる。
 「カイル、別行動しようって言ったの、誤解してる?カイルを嫌いだからじゃないからね。もっとカイル自身で学校を楽しんで欲しくってそう言ったんだよ」
 メルティーたちの会話に意識を飛ばして黙っていただけなのだが、俺が傷ついて黙り込んだと思ったらしい。
 フィル様は一生懸命、説明をする。俺は微笑んで、首を振った。
 「誤解していません。フィル様が俺のことを考えてくださっているのは、わかっています」
 そう言うと、フィル様はホッと息を吐いた。
 「そうか。じゃあ、何であんなに難しい顔して……」
 不思議そうに呟いたフィル様に、俺は慌てて言う。
 「あ、あの、フィル様。今日は回り道しませんか?」
 俺の提案に、フィル様は小首を傾げる。
 「回り道?いいけど。……カイルって時々回り道しようって言うよね」
 上目遣いでジッと見つめられ、俺はギクリとした。
 フィル様のファンを避けて、回り道をすることは今日に限ったことではないからだ。
 「そ、そうですか?」
 フィル様が気にされると思って、黙っていたがばれてしまっただろうか。
 俺が耐えきれずに視線をそらすと、フィル様はくすっと笑った。
 「ま、いいか。カイル。回り道ついでに、どっか寄っていこう」
 「はい」
 そうして俺とフィル様は、くるりと踵を返して来た道を戻ることにした。
 
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