小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶

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四章◆それは誇り◆

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「確かに経営状況は悪いです。だからと言ってそんなお金目当てで早瀬さんに近付くだなんて、ありえません。あれは不慮の事故です。早瀬設計事務所が元請けだということも知っています。だからって、それと早瀬さんは別です。これからだって一人でパン屋を頑張ります。誰にも頼りません。」

琴葉は負けないようにと拳を握り、一気に反論する。
だが杏奈は更にたたみかけるように言った。

「だったら、雄大と別れて。雄大はこれからもっと世界に出ていく人間なのよ。それに早瀬設計事務所を継ぐ大事な人。彼があなたに近付いたのはあの事故が申し訳ないと思ったから。あなたが可哀想だと思ったからよ。それ以外の何物でもないわ。彼の優しさを勘違いしないことね。わかったらもう彼に近付かないで。」

ものすごい剣幕で言われ、琴葉は唇を咬んだ。
黙りこくった琴葉をひと睨みすると、杏奈は踵を返す。

しばらく茫然としていた琴葉だったが、はぁと肩で息をすると頭を抱えた。

杏奈に指摘された通り、minamiの経営は悪く行き詰まっている。
その事実は、他人から見たら金目当てと思われても仕方がなのかもしれない。
それくらい、琴葉と雄大は身分が違うのだ。

高級そうなスーツを身に纏う雄大。
粉まみれの琴葉。
どう考えても不釣り合いだ。
そんなこと、最初からわかっていたはずだった。

それなのに、雄大が来てくれること、雄大と笑い合うこと、そんな日々が穏やかで楽しくて、いつしかそれが当たり前のことだと思うようになっていた。

「バカだな私。」

勝手に勘違いして浮かれていたのではと、琴葉はまた、大きなため息をついた。

「大丈夫、今までだってできていたんだから。これからもできるよ。簡単なことじゃない。」

一人に戻ること。
それはきっと簡単なことだろう。
雄大はただの客だ。
そう、それだけのこと。

琴葉は一人空を仰いだ。

───琴葉、俺の言うことだけを信じて。

頭の片隅でぼんやりと、雄大に言われたあの言葉が過ったが、それはすぐに消え去っていった。
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