上 下
55 / 62
一生離さない

55

しおりを挟む
「先輩?」

「ん?」

「お腹すきません?」

「ペッコペコ! デートの続きしよーぜ。何食べる?」

ショッピングカートを戻しながら、二人はもう一度店内へ戻る。
歩きながらふと手が触れた。

「あっ」と思った瞬間に、航太はリカの手を自然と握る。繋がれた手から航太の体温が伝わってきてあったかい気持ちになった。

リカは航太を見る。
視線に気づいた航太もリカを見る。

「どうした? 何か食べたいものあった?」

「……先輩ってかっこいいですね」

「――っだぁっ、もうっ、リカちゃん! 嬉しいんだけど、嬉しいんだけど……いや、ほんとに、照れるからここでは止めて」

「ふふっ、小野先輩って照れ屋だったんだ。おもしろい」

「おもしろいって……このままかっこいい俺でいさせてくれよぅ」

航太は右手で顔を覆い、天を仰ぐ。手の隙間から覗く頬は心なしか赤くなっているようで、そんな反応が珍しくリカはクスクスと笑った。

「先輩、私、オムライスが食べたいな」

くいくいっと手を引っ張れば「ん、いいよ」と航太は微笑む。

「先輩は食べたいものないの?」

「オムライス大好きだから問題ないよ。さ、行こうぜ」

“航太はオムライス好き”という情報がリカの頭にインプットされる。いつか作ってあげたい……などと考えて、こんな気持ちになる自分を不思議に思った。

店内は混んでいて少し待つことになってしまったが、航太とは話が途切れず少しも苦ではない。店内に通された後もオムライスが運ばれてくるまで結構な時間が経ったというのに、この時間が楽しくて仕方なかった。

「リカちゃん、一口食べる?」

牛タンシチューオムライスを頼んだ航太がスプーンで器用に一口分切ってリカの皿にのせた。三枚ある厚切り牛タンも、惜しみなく一枚リカの皿へのせる。

「え、いいの?」

「いいよ。めっちゃ柔らかいから食べてみな」

「あ、じゃあ私も――」

とリカは自分の皿を見るが、航太にあげられるようなおかずはのっていない。どうしようかと迷っていると、「じゃあ一口ちょうだい」と航太はあーんと口を開けた。

リカは自分が注文したほうれん草とチキンのクリームオムライスをスプーンですくうと航太の口に運ぶ。パクリと食べる航太がゴクンと飲み込むまで目が離せないでいると「うん、美味い」とニカッと笑った。

胸がいっぱいになってそれだけでお腹が満たされていくようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...