そんな恋もありかなって。

あさの紅茶

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四章◆変化

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散々悩みながらもパンをひとつ選んだ百瀬は、大事そうに胸に抱えながら杏奈に聞く。

「minamiって、普通のパン屋さんと違うんですよね?」

「カウンターで選ぶタイプね。」

「何かおしゃれー。よく行くんですか?」

「前はよく行っていたんだけど、今日は久しぶりに行ったわね。」

「そっかー。私にはハードル高いなぁ。」

「まあ、百瀬には似合わないわな。」

二人の会話を聞いていた波多野がすかさず百瀬をからかう。

「むっ、確かに三浦さんはおしゃれだから似合いますけどぉ。」

子供のように唇を尖らせながら、百瀬はプリプリと怒ったような仕草で波多野をバシバシと叩いた。

確かにminamiはおしゃれなパン屋だがハードルが高いような店ではないし、そもそも店員の琴葉は来るもの拒まずの”超いい子”だ。
百瀬のminamiに対するイメージが大きすぎていて、杏奈は思わず吹き出した。

「そんなことないわよ。よかったら今度一緒に行く?」

「えー!いいんですか?」

「じゃあ俺のも買ってきて。」

どさくさに紛れて波多野が手を挙げる。
見ればすっかりパンを平らげていた。

そんな波多野にいちいち相手をする百瀬を可愛らしく思い、二人のやりとりをしばし見つめていた杏奈だったが、ふいに肩を叩かれて振り向く。
チーム発足以来、必要なこと以外は話をしたことがない杏奈よりも一回りも年上の寡黙な柿田が、書類を差し出していた。

「三浦さんこの前の企画書なんだけど今見てもらってもいい?」

「え?あ、はい。」

「あの二人、仲いいねぇ。付き合えばいいのにねぇ?」

「…そうですねぇ。」

微笑ましい二人を見ながらそんなことを言う柿田に、杏奈は少しばかり驚いた。

何だか今日はチーム内の雰囲気がいい。
今までとは違う打ち解けた空気に、杏奈の心は軽くなったようだった。

(minamiのパンのおかげかな?いや、それもこれも、広人さんのおかげだわ。)

───肩の力を抜いたら案外上手くいく。

ふいに広人の言葉がよみがえる。

本当にその通りだと思った。
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