26 / 50
三章◆微睡み
26
しおりを挟む
あたたかい微睡みの中にいるととても気分がよくて、ずっとそこに留まりたくなる。
けれどそれは自分の意思とは関係なく突然に現実に引き戻されるのだ。
「あー頭痛い。」
杏奈は無意識に呟いて枕元に手を伸ばす。
枕元にはいつも時計が置いてあるのに、どこを探ってもいつもの感触がない。
おかしいなと思い重たい瞼を開けて、更に重たい体を反転させた。
その瞬間、杏奈は時間が止まったように凍りつく。
「え、ちょっ、えっ?ここどこ?!」
初めての景色に勢いよく飛び起きた。
自分の部屋だと思っていた場所は、まったく知らない場所だ。
「ちょっと待って。昨日どうしたっけ?」
痛む頭を押さえながら、必死に昨日の記憶を手繰り寄せる。
(愛美とやけ酒をした後にコンビニに寄って、吐いて、それを広人さんに見られて、それでどうしたんだっけ?)
広人といろいろ会話をし、自分の醜態を晒したことまでは覚えている。
なのにその後の記憶がまったくない。
お酒で吐くことすら初めてだったのに記憶までないなんて、杏奈は顔面蒼白になった。
「やばっ…。」
まずはここがどこなのか確認しなくてはいけない。
杏奈はベッドからのそりと起き上がると、目の前に見えている扉にそっと手をかけた。
カチャリと小さな音を立て開いた扉の隙間から、用心深く向こう側を覗く。
ダイニングテーブルらしきものに誰かが座っていて、はっと息をのむ。
よくよく目を凝らして見てみるとどうやらそれは広人で、ノートパソコンを開いて何か作業をしていた。
おもむろに目が合い、杏奈はビクリと固まり、広人ははっと顔を上げた。
「…えっと…。」
ゆっくりと扉を開けて広人の方へ歩を進めると、広人は立ち上がって頭を下げた。
「杏奈さんすみません。」
「へ?!」
突然の謝罪に杏奈はますます混乱する。
何かされたのかと、思わず自分の姿を見てみるが、昨日と何ら変わらないノースリーブのワンピース姿だ。
そういえば貸してもらった上着は着ていない。
だがそれが謝罪に繋がるかというと疑問だ。
けれどそれは自分の意思とは関係なく突然に現実に引き戻されるのだ。
「あー頭痛い。」
杏奈は無意識に呟いて枕元に手を伸ばす。
枕元にはいつも時計が置いてあるのに、どこを探ってもいつもの感触がない。
おかしいなと思い重たい瞼を開けて、更に重たい体を反転させた。
その瞬間、杏奈は時間が止まったように凍りつく。
「え、ちょっ、えっ?ここどこ?!」
初めての景色に勢いよく飛び起きた。
自分の部屋だと思っていた場所は、まったく知らない場所だ。
「ちょっと待って。昨日どうしたっけ?」
痛む頭を押さえながら、必死に昨日の記憶を手繰り寄せる。
(愛美とやけ酒をした後にコンビニに寄って、吐いて、それを広人さんに見られて、それでどうしたんだっけ?)
広人といろいろ会話をし、自分の醜態を晒したことまでは覚えている。
なのにその後の記憶がまったくない。
お酒で吐くことすら初めてだったのに記憶までないなんて、杏奈は顔面蒼白になった。
「やばっ…。」
まずはここがどこなのか確認しなくてはいけない。
杏奈はベッドからのそりと起き上がると、目の前に見えている扉にそっと手をかけた。
カチャリと小さな音を立て開いた扉の隙間から、用心深く向こう側を覗く。
ダイニングテーブルらしきものに誰かが座っていて、はっと息をのむ。
よくよく目を凝らして見てみるとどうやらそれは広人で、ノートパソコンを開いて何か作業をしていた。
おもむろに目が合い、杏奈はビクリと固まり、広人ははっと顔を上げた。
「…えっと…。」
ゆっくりと扉を開けて広人の方へ歩を進めると、広人は立ち上がって頭を下げた。
「杏奈さんすみません。」
「へ?!」
突然の謝罪に杏奈はますます混乱する。
何かされたのかと、思わず自分の姿を見てみるが、昨日と何ら変わらないノースリーブのワンピース姿だ。
そういえば貸してもらった上着は着ていない。
だがそれが謝罪に繋がるかというと疑問だ。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
葉月 まい
恋愛
ー大好きな人とは、住む世界が違うー
たとえ好きになっても
気持ちを打ち明けるわけにはいかない
それは相手を想うからこそ…
純粋な二人の恋物語
永遠に続く六日間が、今、はじまる…

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

秘密の恋
美希みなみ
恋愛
番外編更新はじめました(*ノωノ)
笠井瑞穂 25歳 東洋不動産 社長秘書
高倉由幸 31歳 東洋不動産 代表取締役社長
一途に由幸に思いをよせる、どこにでもいそうなOL瑞穂。
瑞穂は諦めるための最後の賭けに出た。
思いが届かなくても一度だけ…。
これで、あなたを諦めるから……。
短編ショートストーリーです。
番外編で由幸のお話を追加予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる