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一章◆お見合い
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杏奈が配属されたのは新規立ち上げプロジェクトで、リノベーションを取り扱う部署だ。
以前の設計事務所で働いていたことと一級建築士の資格を持っていることで、リーダーとしての拝命だった。
もちろんやる気は十分ある。
新しいことを手掛けるのだから困難は承知の上だ。だが、杏奈の思惑とは裏腹に、うまくチームを纏め上げられないでいた。
前職ではあんなに和気あいあいに生き生きと仕事をしていたのに、職場環境が変わるだけでこんなにも違うものなのかと頭を悩ませていた。
そんな負のスパイラルに陥っているときに、母から電話が掛かってきた。
「もしもし?」
「あなた、今度お見合いするわよ。」
挨拶もそこそこにいきなりである。
「は?何それ?」
「おばあちゃんのお知り合いから紹介いただいたのよ。あなたもいい歳なんだから、ちゃんと結婚を考えなさい。」
結婚とか、今の杏奈には考える余地はない。
ただでさえ大失恋をしてまだ傷心中で、更に仕事にも悩んでいて、恋なんてする気など毛頭ない。
「嫌よ。お断りして。」
冷たく一蹴すると、母はそれを上回るくらい冷たい口調で告げた。
「あなた、おばあちゃんの顔を潰す気?」
それは脅しにも取れる文句で、杏奈は言い返すことができない。
三浦建設は杏奈の祖父が立ち上げた会社で、祖母と二人三脚で大きくしてきた会社だ。特に祖母の愛想の良さと営業トークでこれまでかなり幅広い人脈を得てきた。
三浦建設が二代でここまで大きくなったのは、縁の下の力持ち存在である祖母の偉業に他ならない。
その祖母からの紹介を蔑ろにするなど、三浦家ではありえない。
祖母からの紹介であるお見合いを受けもせずに門前払いなど、もってのほかである。
「上手くいくいかないの問題じゃないの。お見合いを受けることが重要なのよ。」
「うーん、、、。」
それでも渋る杏奈に、母は畳み掛けるように言った。
「来週の土曜、おばあちゃん家へ行ってちょうだい。着物用意して待ってるそうよ。」
「ちょっと、お母さんっ!」
抗議の声を上げようにも、そこに杏奈の意見はなかった。
そうして、ただ決定事項を告げるだけの電話は杏奈の叫び声だけを残して切れた。
以前の設計事務所で働いていたことと一級建築士の資格を持っていることで、リーダーとしての拝命だった。
もちろんやる気は十分ある。
新しいことを手掛けるのだから困難は承知の上だ。だが、杏奈の思惑とは裏腹に、うまくチームを纏め上げられないでいた。
前職ではあんなに和気あいあいに生き生きと仕事をしていたのに、職場環境が変わるだけでこんなにも違うものなのかと頭を悩ませていた。
そんな負のスパイラルに陥っているときに、母から電話が掛かってきた。
「もしもし?」
「あなた、今度お見合いするわよ。」
挨拶もそこそこにいきなりである。
「は?何それ?」
「おばあちゃんのお知り合いから紹介いただいたのよ。あなたもいい歳なんだから、ちゃんと結婚を考えなさい。」
結婚とか、今の杏奈には考える余地はない。
ただでさえ大失恋をしてまだ傷心中で、更に仕事にも悩んでいて、恋なんてする気など毛頭ない。
「嫌よ。お断りして。」
冷たく一蹴すると、母はそれを上回るくらい冷たい口調で告げた。
「あなた、おばあちゃんの顔を潰す気?」
それは脅しにも取れる文句で、杏奈は言い返すことができない。
三浦建設は杏奈の祖父が立ち上げた会社で、祖母と二人三脚で大きくしてきた会社だ。特に祖母の愛想の良さと営業トークでこれまでかなり幅広い人脈を得てきた。
三浦建設が二代でここまで大きくなったのは、縁の下の力持ち存在である祖母の偉業に他ならない。
その祖母からの紹介を蔑ろにするなど、三浦家ではありえない。
祖母からの紹介であるお見合いを受けもせずに門前払いなど、もってのほかである。
「上手くいくいかないの問題じゃないの。お見合いを受けることが重要なのよ。」
「うーん、、、。」
それでも渋る杏奈に、母は畳み掛けるように言った。
「来週の土曜、おばあちゃん家へ行ってちょうだい。着物用意して待ってるそうよ。」
「ちょっと、お母さんっ!」
抗議の声を上げようにも、そこに杏奈の意見はなかった。
そうして、ただ決定事項を告げるだけの電話は杏奈の叫び声だけを残して切れた。
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