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女将一日体験
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しおりを挟む外が薄暗くなるにしたがい館内のあかりがひとつふたつと淡く灯り始めた。夜の富田屋は昼間とはまた違った厳かな雰囲気になり、視覚でも楽しませてくれる。
私と愛莉ちゃんが配置されたのは、会社の忘年会という団体さんの宴会場だった。
大広間にお膳が並べられ、食前酒とお造り、八寸が最初に置かれていった。私は愛莉ちゃんから指示をもらいながら、ひたすら並べる作業に没頭する。着物を着ているので普段よりも動きが制限されていてなかなか重労働だ。
お客さんが入る時間までに準備を完了し、会場の外でお出迎えのために待機しているとインカムに届く潤くんの声。
『天空の間、お客様が入られます』
なんでもない、ただ潤くんが従業員に情報を伝えているだけなのに、その声を聴いただけで心がふわりとあたたかくなった。姿は見えないけれど一緒に働いている、それが感じられるだけで心強い。
「厨房からお料理が上がってきたらワゴンで運んでお出ししていきます。温かいものは温かいうちに、ですが、お客様が乾杯やお話をされているときは様子を伺いながら邪魔にならないように待機をしてください」
「はい」
基本的な指示だけもらって、あとは愛莉ちゃんも他のスタッフさんも大忙しなので自分で考えて行動しなくてはいけない。わからないことはオロオロしないですぐに聞く、お客様には笑顔で失礼のないように対応する。
忙しい、大変だ、などと感じている余裕はなくあっという間に宴会が終わった。
最後のお客様をお見送りしたあと、急にどっと疲れが押し寄せてくる。
「やっと、終わった……」
「何言ってるんですが、なぎささん。まだ片付けが残ってますよ」
お客様が去った後の天空の間は、天空とは程遠いほどに散らかっていて思わずため息がこぼれそうになった。
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