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結婚の条件

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「客室に案内するよ」

わずかな手荷物を持ち、潤くんの後に続く。すぐに荷物が腕から抜き取られ「お荷物お運びしますよ、お客様」と冗談めいた口調で言われ、何だかくすぐったい気持ちになった。

私の歩く速度に合わせて館内を歩く潤くんはもう立派な富田屋の顔で、頼もしさすら感じられる。

松風で働いていたときも生き生きとしていた。きっとこの職業が向いているんだろう。

だからこそ潤くんには富田屋を辞めてほしくないし、これからも輝いていてほしい。そして願わくばその隣には私がいたい。

そう、それくらいのことで結婚をやめるなんて言わない。簡単に手放せる恋ではないのだから。

日に日に増していく潤くんへの想い。潤くんは子供の頃からずっと私を好きでいてくれた。そんな物語の世界みたいな話があるだろうか。

そっと手に触れると潤くんはとんでもなく驚いた顔をした。

「手、繋ぎたいなぁって思って。ダメ?」

ここは富田屋の館内で、潤くんのご両親も働いていて、いつ誰に見られるかわからない状況。けれど潤くんは臆することなく、ぐっと私の手を握った。

「ダメなわけないだろ」

力強く甘い笑みを称えて。
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