52 / 117
この手を離したくないけど?
052
しおりを挟む
「……留学……するなんてすごいよね」
話題を変えてみるも絡まった指は外れそうにない。潤くんの体温が伝わってきて私らしくもなくドクンドクンと心臓が音を立てた。
私たちをまとう空気は妙に甘ったるい。自分の鼓動が体を伝って聞こえてくるようだ。ざわざわと賑やかしい店内の音も、あんなに騒がしかったBGMもまったく耳に入ってこなくなった。
「……俺、迷ってたんだ。実家を継ぐことを両親に期待されてそれが嫌で県外に逃げたけど、別に継ぐことが嫌だったわけじゃない。何て言うのかな、期待されるのが嫌っていうか。それに他にも外の世界を見たかったっていうのもある」
「うん、なんかわかる気がする。自分の知らない世界は魅力的だよね。ワクワクする」
「京都でなぎと過ごしたあの数日間はすごく楽しい時間だった。松風でなぎが見るもの全てに目をキラキラさせて感動してただろ。それを見たときに、そんな空間を作り出すことができる仕事って素敵なんじゃないかと思えるようになったんだ。富田屋の息子だから継ぐんじゃなくて、自分の意思で富田屋を継ぐ。だから留学にも挑戦した。これからは外国のお客さんも見据えていかないとなって」
「うん、すごく立派だと思う。夢に向かって頑張ってるんだね。かっこいいよ、潤くん」
楽しそうに夢を語る潤くんは本当にキラキラしている。のほほんと毎日を過ごしている私とは大違いだ。潤くんだけがどんどん大人になっていく。私はただ潤くんより先に歳をとるだけ。そう考えると何だか惨めに思えてくる。
話題を変えてみるも絡まった指は外れそうにない。潤くんの体温が伝わってきて私らしくもなくドクンドクンと心臓が音を立てた。
私たちをまとう空気は妙に甘ったるい。自分の鼓動が体を伝って聞こえてくるようだ。ざわざわと賑やかしい店内の音も、あんなに騒がしかったBGMもまったく耳に入ってこなくなった。
「……俺、迷ってたんだ。実家を継ぐことを両親に期待されてそれが嫌で県外に逃げたけど、別に継ぐことが嫌だったわけじゃない。何て言うのかな、期待されるのが嫌っていうか。それに他にも外の世界を見たかったっていうのもある」
「うん、なんかわかる気がする。自分の知らない世界は魅力的だよね。ワクワクする」
「京都でなぎと過ごしたあの数日間はすごく楽しい時間だった。松風でなぎが見るもの全てに目をキラキラさせて感動してただろ。それを見たときに、そんな空間を作り出すことができる仕事って素敵なんじゃないかと思えるようになったんだ。富田屋の息子だから継ぐんじゃなくて、自分の意思で富田屋を継ぐ。だから留学にも挑戦した。これからは外国のお客さんも見据えていかないとなって」
「うん、すごく立派だと思う。夢に向かって頑張ってるんだね。かっこいいよ、潤くん」
楽しそうに夢を語る潤くんは本当にキラキラしている。のほほんと毎日を過ごしている私とは大違いだ。潤くんだけがどんどん大人になっていく。私はただ潤くんより先に歳をとるだけ。そう考えると何だか惨めに思えてくる。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~
蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。
職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。
私はこんな人と絶対に関わりたくない!
独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。
それは……『Dの男』
あの男と真逆の、未経験の人。
少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。
私が探しているのはあなたじゃない。
私は誰かの『唯一』になりたいの……。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
弟王子に狙われました
砂月美乃
恋愛
社交界の薔薇、結婚したい女性ナンバーワンのマリレーヌは、今日も求婚をお断りしたばかり。そんな彼女に声をかけたのは、かつて一緒に遊んだ第三王子のクリス。四つ年下で未だ成人前、大好きだけど弟にしか思えない。
ところがクリスは予想外にグイグイ迫ってきて……!?
「ヒミツの恋愛遊戯」シリーズその③、クリス編です。シリーズのキャラクターも登場しますが、本作だけでもお読みいただけます。ムーンライトノベルズさんで完結済です。
遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる
あさの紅茶
恋愛
学生のときにストーカーされたことがトラウマで恋愛に二の足を踏んでいる、橘和花(25)
仕事はできるが恋愛は下手なエリートチーム長、佐伯秀人(32)
職場で気分が悪くなった和花を助けてくれたのは、通りすがりの佐伯だった。
「あの、その、佐伯さんは覚えていらっしゃらないかもしれませんが、その節はお世話になりました」
「……とても驚きましたし心配しましたけど、元気な姿を見ることができてほっとしています」
和花と秀人、恋愛下手な二人の恋はここから始まった。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる