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この手を離したくないけど?

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初夏の日差しは意外と暑い。祖母の家もスーパーも歩いていける距離だが、しっとりと汗が滲む気候だ。

「あー、自転車で来ればよかった~。おばあちゃーん、お土産持ってきたー」

ぶつぶつと文句を言いながら祖母にお土産を渡し、渡したお土産以上のお土産を両手いっぱい持たされる。きゅうりにカボチャにさやえんどう。どれも祖母の家庭菜園の賜物だ。

「……ありがたいんだけど、重いんだよなぁ」

これを持ってスーパーに行くとか、何かの試練だろうか。頼まれたものが卵だけでよかったと、ひとまず胸を撫で下ろす。

と、試練はこんなものではなかった。スーパーの入口で潤くんのお母さんにばったり出会ってしまったからだ。

「なぎさちゃんじゃない、お久しぶりねぇ」

「こんにちは、ご無沙汰してます」

潤くんのお母さんは地元で有名な高級老舗旅館「富田屋」の女将だ。人前に出る仕事をしているからだろうか、いつも綺麗でしゃんとしている。その立ち振る舞いは松風で配膳をしていた潤くんの所作を彷彿とさせた。

「そうそう、京都で潤に会ったんですって?」

「あー、そうなんですよ。京都案内してもらいました」

「そうなの。潤は何も教えてくれないから。ちゃんと案内できてたかしら?」

「潤くんから聞いたんじゃないんですか?」

「まさか?なぎさちゃんのお母さんから聞いたのよ」

「あー……」

母の口が軽いことは知っていた。まあ、もとはといえば私がポロポロしゃべったんだけど。うん、私も母に似て口が軽いことは認める。

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