へっぽこ勇者は伝説をつくる

あさの紅茶

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「ママ~お腹すいた~」

「片付けたらそこ座んなさい」

いつの間にかわたしの定位置となったカウンターの特等席。ギギっと椅子を引いて座れば、目の前には大きなお皿が置かれる。

「シチュー?」

「そ、シチュー。でもアンタの知ってるシチューとは味が全然違うと思うわ。異世界人はこれをハヤシライスと呼ぶ」

「ハヤシライス……。この白いつぶつぶは何?」

「お米よ、お米。食べたことないでしょ? 絡ませて食べなさい。あまりの美味しさに腰抜かすから」

「うわぁ、いただきまーす」

わたしはスプーンにご飯とルーをたっぷりとのせる。大口を開けてぱくりとひとくち頬張ると一瞬でコクのあるまろやかな味が口いっぱいに広がった。

「んー! おいひい!」

「食べながらしゃべらないの、行儀悪いわね」

ぺろりと平らげるのと、遠くでドーンと爆発音が聞こえるのは同時だった。
急に外が慌ただしくなる。

「え、なに? どうしたの?」

「大型モンスターでも出たんでしょ?」

ママは悠々と構えているけれど、外の騒ぎは尋常じゃない。わたしは気になって窓から顔を出してみる。石畳の道を、村人たちがわあわあ言いながら走っていき、西の空には火柱と煙が上がった。

「もしかしてファイヤードラゴンが出た?」

火柱が上がった方向は魔物の巣窟である森の方角にあたる。悪いモンスターが多く出現し、モンスター退治の依頼も数多く上がる場所。かくいうわたしも報酬目当てであの森に入っていったけど、やられてノコノコと帰ってきたクチ。

「この世界には勇者や魔法使い、テイマーとか、そういう職業の人ばかりでしょ。なんとかするわよ」

「そう、だよね」

ママの言うことはごもっとも。この世界は魔物と共存していて、生きていくためには自分の身を守っていくしかない。魔物もわたしたち人間に危害を加えないような存在だったらよかったんだけど、残念ながらわたしたちを食い物にする凶悪なものが多い。だから人間たちは生きていくために協力して、魔物を退治する「勇者」や「魔法使い」、魔物を飼い慣らす「テイマー」を生業としている。もちろん、ママみたいに食事を提供するお店とか、防具を売るお店とか、そういうものもあるけれど。


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