へっぽこ勇者は伝説をつくる

あさの紅茶

文字の大きさ
上 下
10 / 26

10

しおりを挟む
「んで、何? まさか包丁で手を切って痛くてアタシを追ってきたとか言わないわよね?」

「ぐっ……そ、そのまさかです……」

「とんでもない甘ちゃんね」

「返す言葉もありません……」

オレンジ色の明かりにゆったりとした音楽が流れる中、わたしはそこに似つかわしくなくママから説教されている。

よく見ればここはさっきまでわたしがいたキッチンとよく似ていて、カウンターやテーブルなどお店の造りもそっくりな空間だ。まるでもうひとつのお店のよう。カラランと、扉が開く音までそっくり。違うことといえばお店の雰囲気……?

「あれー? ママ、アルバイト雇ったの?」

「あら、いらっしゃい。この子? 今日だけ臨時よ、臨時の手伝い」

「何か若そうだね、労働基準法に引っかからない?」

「この子、こう見えて十六だから、バリバリ働いて貰わないとね」

「いえ、わたしはじゅうさ――ぐえっ」

年齢を正そうとしたのに突然ママに足を踏まれて変な悲鳴が出た。

「へぇー。君、名前なんて言うの? あ、いつものちょーだい」

「あ、えと、わたしはマリエットで……ぐふっ」

今度は脇腹にママの肘鉄が突き刺さる。あまりの痛さに身をよじってうずくまったわたしに、ママは余計なこと言うなとばかりに目で威嚇してくる。

「マリちゃんよ、マリちゃん。セクハラ禁止だからねー。ほらマリちゃん、お客様におしぼりお出しして」

「え、ええっ? おしぼり?」

「いいから言われたとおり接客なさい。こっちにはこっちのルールがあるのよ」

こっちって何ー? と思いつつも、言われたとおりに接客を始めてみた。昨日も散々お客さんにビールときゅうりを出したんだもん。その要領でやればきっと大丈夫なはず!

「おしぼりです、どうぞ」

「おっ、ありがとう」

「えっと、お通し? です」

「今日は枝豆か、いいねえ」

包丁で手を切って痛くてママを捜していただけなのに、気づけばわたしはママにみっちり働かされていた。「二十二時だからもうあっちに帰りなさい」と言われるまで、休む間も与えられなかった。ママは鬼か。

なんで二十二時で帰らされたのかわからないし、今は昼間だとも思ったけど、とにかく二十二時ありがとう。わたしはやっと解放されたよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おじいちゃんの汚名を払拭、最強姉妹の冒険記録~長所がなかったはずの私の長所は膨大な魔力量?!~

荒井竜馬
児童書・童話
 ある日、十歳の女の子の柊楓(ひいらぎかえで)はトラックに轢かれそうになる子供を庇って、死にそうになってしまう。  しかし、寸でのところで別世界に転移させられて、カエデの命は助かることになる。  そして、カエデは突然、自分を世界に転移させたオラルというおじいちゃんに、孫になってくれとお願いされる。  似ている境遇にいたアリスという女の子と共に、オラルのもとで孫として生活をしていく中で、カエデは自分に膨大な魔力があることを知る。  少しずつ魔法をアリスから習っていく中で、カエデとアリスはある決意をすることになる。  チートみたいな能力のある二人は、とある事情から力を隠して冒険者をすることになる。  しかし、力を隠して冒険者をするというのも難しく、徐々にバレていき……  果たして、二人は異世界で目立ちすぎずに、冒険者として生活をしていくことができるのか。  これは、冒険者を目指すことになった、姉妹のような二人の女の子のお話。  冒険をしたり、少しまったりしたり、そんな少女たちの冒険記録。  ※10話で一区切りになっているので、とりあえず、そこまでだけでもご一読ください!

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

処理中です...