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本物の家族

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「何か飲む?」

面談コーナーに設置されている自販機にカードをかざして、柴原さんがコーヒーのボタンを押す。私はそれをぼんやりと眺めながら、私もコーヒーをお願いした。

「何かそういうとこだけ、社長っぽいよね。」

「コーヒーおごるとこ?」

「違う。カードで買っちゃうとこ。」

嫌みっぽく言ったのに、柴原さんはぷはっと吹き出した。

「ただのICカードだよ。美咲だって持ってるでしょ。」

見せてくれたカードは普段通勤で使っている定期券だった。定期券がICカードと一体型で、お金もチャージできるらしい。

「最近電車乗ってないからICカードなんて持ってないよ。それでコーヒーが買えるなんて知らなかった。」

「美咲って本当に可愛いよね。」

「っっっ!か、からかわないで。」

思わず熱を帯びてしまった頬を慌てて両手で隠し、私はそっぽを向いた。
そういう意味じゃないって分かっているのに“可愛い”に反応してしまった自分が憎らしい。

「社長っぽいとこ見せようか?」

「え?」

「今度の休みに旅行しよう。軽井沢の別荘。」

「別荘なんて持ってるの?」

驚く私に、柴原さんはまたぷはっと吹き出した。

「冗談だよ。美咲は素直でいい子だね。」

「~~~っっっ!」

楽しげに笑う柴原さんにむかついて、私は年甲斐もなくポカポカと叩いた。それを柴原さんは上手に受け止める。

「でも、軽井沢に別荘なんて、社長っぽいでしょ?」

「何ていうか、古いよ。あーもうこれ、ジェネレーションギャップだわー。年の差感じるわー。」

「あ、くそう、そうきたか!」

すごくくだらないやり取りなのに、柴原さんが楽しそうに笑っているのを見ていたら何だか私まで楽しい気持ちになってきた。
思えば柴原さんとこんな風に話すのは初めてかもしれない。いつもはすずが側にいる。すずを介しての会話やすずのことについての話ならたくさんしてきた。
冗談を言って笑い合えるなんて思ってもみなかった。
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