87 / 161
本物の家族
87
しおりを挟む
「これ。」
見せられた封筒の中身。
薄いペラペラの紙に緑の枠。
それは姉の名前が書かれた離婚届だった。
「え、何で?」
今度は私の顔が険しくなる。
離婚届って、どうして?
───離婚して好きな人と結婚します!
あの日の言葉がよみがえるも、そうではないことは姉の態度からして見てとれた。
今柴原さんと離婚して姉に何のメリットがあるだろう。離婚したらますます一人になって、自分を追い込んでいくだけじゃないだろうか。
「有紗と話がしたいから、病院教えてもらえるかな。」
柴原さんは離婚届をそのまま綺麗に折り畳んで封筒にしまった。その手の動きをじっと見てしまう。柴原さんは離婚に応じるのだろうか。
「美咲?」
「あ、うん。でも結構弱ってて、すずにも会わせてあげたほうがいいのかどうかわからない。半年以上も会ってない母親の顔、覚えてる?今ようやくこの生活に慣れたのに、会ったら情緒不安定になったりしない?」
私は姉に対して怒りしか湧かなかった。
だけど同時に、その存在の大きさにも気付かされた。ずっと分かり合えない存在だと思っていたのに、そうではないことに気付いてしまった。でもそれはきっと私が大人になったから故の理解力や妥協点であって、子供の頃は微塵も感じ取ることができなかったものだ。
だから余計に二歳のすずをどうすべきか、私には分からなかった。
黙りこくった私の手に、柴原さんの大きな手が添えられた。驚いて顔を上げると、柴原さんがふわりと微笑む。
「美咲、すずのこと真剣に考えてくれてありがとう。とりあえず明日有紗と話をしてくるから、それから一緒に考えよう。」
「…うん。」
「今は何も心配しなくていい。よく頑張ったね。疲れただろう。さあもうお休み。」
まるで子供のような扱いで頭を撫でられたけれど、まったく嫌な気持ちにはならなかった。
むしろ柴原さんの穏やかな口調と包み込むような優しさに、私の心はかなり落ち着いていた。
一旦考えるのを止めよう。
とりあえず柴原さんに任せよう。
私一人ではきっと心細かった。
どうしていいか分からず沼にはまるところだった。今ここに、柴原さんがいてくれてよかった。頼れる人がいてよかった。
いつの間にか私は柴原さんに対して大きな信頼を持てるようになっていた。
見せられた封筒の中身。
薄いペラペラの紙に緑の枠。
それは姉の名前が書かれた離婚届だった。
「え、何で?」
今度は私の顔が険しくなる。
離婚届って、どうして?
───離婚して好きな人と結婚します!
あの日の言葉がよみがえるも、そうではないことは姉の態度からして見てとれた。
今柴原さんと離婚して姉に何のメリットがあるだろう。離婚したらますます一人になって、自分を追い込んでいくだけじゃないだろうか。
「有紗と話がしたいから、病院教えてもらえるかな。」
柴原さんは離婚届をそのまま綺麗に折り畳んで封筒にしまった。その手の動きをじっと見てしまう。柴原さんは離婚に応じるのだろうか。
「美咲?」
「あ、うん。でも結構弱ってて、すずにも会わせてあげたほうがいいのかどうかわからない。半年以上も会ってない母親の顔、覚えてる?今ようやくこの生活に慣れたのに、会ったら情緒不安定になったりしない?」
私は姉に対して怒りしか湧かなかった。
だけど同時に、その存在の大きさにも気付かされた。ずっと分かり合えない存在だと思っていたのに、そうではないことに気付いてしまった。でもそれはきっと私が大人になったから故の理解力や妥協点であって、子供の頃は微塵も感じ取ることができなかったものだ。
だから余計に二歳のすずをどうすべきか、私には分からなかった。
黙りこくった私の手に、柴原さんの大きな手が添えられた。驚いて顔を上げると、柴原さんがふわりと微笑む。
「美咲、すずのこと真剣に考えてくれてありがとう。とりあえず明日有紗と話をしてくるから、それから一緒に考えよう。」
「…うん。」
「今は何も心配しなくていい。よく頑張ったね。疲れただろう。さあもうお休み。」
まるで子供のような扱いで頭を撫でられたけれど、まったく嫌な気持ちにはならなかった。
むしろ柴原さんの穏やかな口調と包み込むような優しさに、私の心はかなり落ち着いていた。
一旦考えるのを止めよう。
とりあえず柴原さんに任せよう。
私一人ではきっと心細かった。
どうしていいか分からず沼にはまるところだった。今ここに、柴原さんがいてくれてよかった。頼れる人がいてよかった。
いつの間にか私は柴原さんに対して大きな信頼を持てるようになっていた。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
あなたが居なくなった後
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの専業主婦。
まだ生後1か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。
朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。
乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。
会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願う宏樹。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
魔術学院の優秀女子が金持ち坊ちゃんのお守りをして人生が変わった話
猫屋ちゃき
恋愛
奨学金をもらってバイトをしながら魔術学院で学ぶ少女カティは、ある仕事を持ちかけられる。
それは休暇の間、あるお金持ちの家の坊ちゃん・マティアスの世話係をするというもの。
そのマティアスはいろんな意味で手が早く、おバカで、同級生を殴って魔術学院を休学中との噂で……
でも、カティは大金に目がくらんでその仕事を引き受けてしまう。
ところが実際のマティアスは穏やかで人懐っこく、子犬のようにカティに懐いてくる。
噂は本当なのか? マティアスが抱える問題は? 無事にお金を受け取るために、カティは何をすればいいのか…?
信じられるものはお金だけ!
そんな少女が金と恋を掴むサクセスストーリー⁉︎
※旧タイトル「明日花咲くカタリーネ」
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる