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8.あふれる想い

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先ほどまで外にいたのに、どういうわけか室内に切り替わっている。

「……ここは?」

見覚えがある。小さな畳の部屋に大きな学習机。隅には布団が畳んで置いてある。
机には突っ伏して泣いている高校生くらいの女の子が一人。

「やえ……」

そうだ、これはやえだ。
ここはやえの引き取られた先の家で間違いない。泣いているのは悲しいからか、寂しいからか、はたまた辛いからか。

「やえ」

声をかけても顔を上げることはない。そっと肩に触れてみるも、どういうわけかすっとすり抜けてしまった。

なんだろうこれは。
俺は幻覚でも見ているのだろうか。

「智光くん」

ふいに呼ばれて振り向く。
先ほどの桜の木の下で見た夫婦がそこにいた。とても悲しそうな顔でやえを見ている。

「……やえさんのご両親ですか?」

聞けば、コクリと頷く。やえの両親も、やえに触れることも声が届くこともないようだ。

「やえを君に任せてもいいだろうか」

「私たちはもうやえを守ることができないから。智光くんにお願いしたいの」

「任せる……」

どういうわけか頭がしっかり働かない。

「えっと……俺は……」

俺はどうしたんだっけ?

「やえと結婚してくれてありがとう」

「結婚……」

ふと視線を下げる。と、左手の薬指にはまるプラチナの指輪。じわりじわりと頭に情報が入ってくる。

そうだった、俺は死のうとしていたやえと無理やり結婚して、助けたことをいいことに俺のものにしようとして――。
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