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5.婚姻届

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休んだ分を取り戻すかのようにみっちり仕事をしヘトヘトになった頃、智光さんが事務室に顔を出した。

「そろそろ帰ろうか?」

「えっ?」

帰るって、もしかして一緒に?

そう思って目をぱちくりさせていると「もしかして一人で帰ろうとしていたのか?」と言われて素直に頷いた。

確かに朝は智光さんの車で一緒に出勤したけれど、まさか帰りまで一緒だとは思わない。だって智光さんはいつも遅くまで仕事をしているし、私はほぼ定時だし。

「やえはもう少し自分のことを気遣ったほうがいい」

「気遣う? 元気ですよ」

入院したのがウソのようにもうすっかり体の調子がいい。
家になら一人で帰れるし、私の帰宅時間に合わせてもらう方が申し訳ないと思うのだけど。

そんなことを伝えたらため息一つ。
痛くない強さのゲンコツが飛んできた。

「そうじゃない。まだあの件はすべて解決していないんだ。もし一人でいるときにまた何かあったらどうする」

「あ……」

一瞬でお兄さんのことを思い出して体がぞくりとする。

あの日あんなことがあって、心の糸がぷっつりと切れた。もうどうにでもなれと思ったのに今こうして普段通りの生活ができている。

智光さんが私を助けてくれなかったら私はとっくに死んでいた。
もし生きていたとしても心は完全に死んでいた。
だけど智光さんが心の糸をつなぎ合わせてくれた。

あんなに落ち込んだのがウソみたいに私はとても元気。

「……ありがとうございます」

なんて幸せなんだろう。
なんて贅沢なんだろう。

私の心を満たしてくれるのは紛れもなく智光さん。
優しさに甘えてもいいのだろうか。

「そういうわけで、帰ろうか」

「はい。あ、皆さん、お先に失礼します」

まわりに残っているメンバーに声をかけてから智光さんの後を追う。

「はーい、お疲れ様ー」

「やえちゃん、おつかれー」

智光さんと私が帰る姿を見送る田辺さんと安川さんがニヨニヨしていたのは、知る由もないところだった。
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