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9.暴く
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「彼とは、久保雄一のことではなくて――。三隅新太のことです」
「三隅新太?」
桃香ちゃんは「誰?」と不思議そうに首を傾げた。三隅新太といえば、雄一の友人だ。もうすぐ結婚するから雄一が幹事を頼まれたって言っていた。その彼のことだろうか?
「すみません。こちらの名前の方がよかったですか? 桐谷《キリヤ》ルイならわかりますよね?」
まったく意味がわからない中、雄一と桃香ちゃんだけが目を見開き、顔色が青ざめた。
「おい、桃香。新太とつるんでやがったのか」
「知らないわ。そんな人。誰のこと?」
「しらばっくれんなよ、おい!」
雄一がダンッと激しくテーブルを叩く。ビクッと肩が揺れたところ、穂高さんが私と千景さんを自分の背に隠すように後ろに下がらせた。
「ソレイユの評判を落として売上を下げようとしていたのもあなたですよね?」
「どうして私が? 何のために? だって私、真面目に働いていましたよね? そうでしょ? 莉子さん、千景さん!」
「そうね――」
それまでずっと黙って話を聞いていた千景さんは、おもむろにトートバッグから眼鏡とスマホを取り出した。眼鏡をカチャリとかけると、慣れた手つきでスマホをするすると操作する。とあるSNSのページを開き、桃香ちゃんに見せるように画面をこちらに向けた。
「接客が老害すぎる。これって私のことかしら? それから、店が古くて汚い。掃除が行き届いていない。美味しくない」
「な、なに……?」
「何って、桃香ちゃんのSNSだけど」
「は? な、なんで……!」
「ふふっ、年寄りはSNSとかわからないと思った? オババネットワークを舐めてもらっちゃ困るわ、間瀬不動産のお嬢さん。他にも飲食店サイトのソレイユの口コミに低評価付けまくってるわよね。知ってるのよ」
眼鏡をキラリと輝かせた千景さんは、まるで探偵のように桃香ちゃんのことを暴いていく。
飲食店サイトにソレイユの低評価や悪い口コミが書かれているのは、友人から教えてもらって知っていたけれど、千景さんも把握していただなんて思わなかった。しかもそれを桃香ちゃんが書き込んでいただなんて。
「嘘よ、そんなの! 私が書き込んだ証拠でもあるわけ?」
「ソレイユの店員でしか知り得ないことや、あなたのその可愛らしいネイルが写真に写り込んでいたら、そりゃわかるわよ」
「そんなの証拠にならないわ!」
バカじゃないのと吐き捨てる桃香ちゃんに、穂高さんが落ち着いた声音で淡々と告げる。
「そのあたりは開示請求をしているので、しばらくすれば連絡がいくと思いますよ」
「か、開示請求……?」
桃香ちゃんがその場に崩れ落ちる。
「さて、裁判といきますか、示談としますか。どちらでも構いませんよ」
ニコリと微笑む穂高さんとは対照的に、雄一と桃香ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で目を伏せた。そこに彼らの威厳はこれっぽっちもなかった。
だけど――
「三隅新太?」
桃香ちゃんは「誰?」と不思議そうに首を傾げた。三隅新太といえば、雄一の友人だ。もうすぐ結婚するから雄一が幹事を頼まれたって言っていた。その彼のことだろうか?
「すみません。こちらの名前の方がよかったですか? 桐谷《キリヤ》ルイならわかりますよね?」
まったく意味がわからない中、雄一と桃香ちゃんだけが目を見開き、顔色が青ざめた。
「おい、桃香。新太とつるんでやがったのか」
「知らないわ。そんな人。誰のこと?」
「しらばっくれんなよ、おい!」
雄一がダンッと激しくテーブルを叩く。ビクッと肩が揺れたところ、穂高さんが私と千景さんを自分の背に隠すように後ろに下がらせた。
「ソレイユの評判を落として売上を下げようとしていたのもあなたですよね?」
「どうして私が? 何のために? だって私、真面目に働いていましたよね? そうでしょ? 莉子さん、千景さん!」
「そうね――」
それまでずっと黙って話を聞いていた千景さんは、おもむろにトートバッグから眼鏡とスマホを取り出した。眼鏡をカチャリとかけると、慣れた手つきでスマホをするすると操作する。とあるSNSのページを開き、桃香ちゃんに見せるように画面をこちらに向けた。
「接客が老害すぎる。これって私のことかしら? それから、店が古くて汚い。掃除が行き届いていない。美味しくない」
「な、なに……?」
「何って、桃香ちゃんのSNSだけど」
「は? な、なんで……!」
「ふふっ、年寄りはSNSとかわからないと思った? オババネットワークを舐めてもらっちゃ困るわ、間瀬不動産のお嬢さん。他にも飲食店サイトのソレイユの口コミに低評価付けまくってるわよね。知ってるのよ」
眼鏡をキラリと輝かせた千景さんは、まるで探偵のように桃香ちゃんのことを暴いていく。
飲食店サイトにソレイユの低評価や悪い口コミが書かれているのは、友人から教えてもらって知っていたけれど、千景さんも把握していただなんて思わなかった。しかもそれを桃香ちゃんが書き込んでいただなんて。
「嘘よ、そんなの! 私が書き込んだ証拠でもあるわけ?」
「ソレイユの店員でしか知り得ないことや、あなたのその可愛らしいネイルが写真に写り込んでいたら、そりゃわかるわよ」
「そんなの証拠にならないわ!」
バカじゃないのと吐き捨てる桃香ちゃんに、穂高さんが落ち着いた声音で淡々と告げる。
「そのあたりは開示請求をしているので、しばらくすれば連絡がいくと思いますよ」
「か、開示請求……?」
桃香ちゃんがその場に崩れ落ちる。
「さて、裁判といきますか、示談としますか。どちらでも構いませんよ」
ニコリと微笑む穂高さんとは対照的に、雄一と桃香ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔で目を伏せた。そこに彼らの威厳はこれっぽっちもなかった。
だけど――
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