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8.片想い 〜穂高side〜
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「前からわしは、あいつは気に食わないと思っていたよ。一度莉子と一緒に挨拶に来てくれたことがあったけど、どうも薄っぺらいやつでな。でも莉子がいいなら、いいんだと思っていたよ」
「私は素直に嬉しかったですよ。莉子ちゃんが恋人を紹介してくれたのがね。でもお父さんが、何か怪しい何か怪しいってずっと言ってるの。でも莉子ちゃん、そんなこと一言も言わないからね、わからなかったのよ」
「そうですね。莉子さんは努力家で優しい方なので。僕も莉子さんが幸せならそれでいいかと思っていました」
だから見守ってきた。自分の気持ちに蓋をして、彼女の幸せを願ってきた。それがこの結果だ。大雨の中ずぶ濡れで涙に暮れて、今にも消えてなくなりそうだった。
「お前さんは何で莉子と結婚したいんだ?」
「莉子さんのソレイユを守りたいという気持ちに寄り添いたくて……」
「そうじゃない」
「はい」
「穂高の本心を聞かせろって言ってるんだ」
ごくっと息を飲む。病室の空気がピリリとした。
佐倉さんは病人らしからぬ凛とした威厳で、俺を視線で射抜く。背筋がピッと伸び、緊張感に包まれた。
「僕は、莉子さんを好きで……愛しているので、結婚したいです」
それが俺の本心だ。ソレイユを守りたいだとかそんなのは後回しで、何より俺が莉子さんを好きだから。手に入れたいと思ってしまった、この気持ちに嘘はつけない。
「このヘタレが」
佐倉さんはふんっと鼻で笑い、奥さんは「あらまあ」と両手で頬を覆う。
「ほら、出しなさい」
「え?」
「ペンだよ、ペン。証人欄書いてほしくて来たんだろうに。今度は莉子と一緒に高級な手土産を持って来るように」
佐倉さんはテーブルに広げられている婚姻届に目を通す。ジャケットの内ポケットに入れていた万年筆を、佐倉さんに手渡した。「まったく、穂高のヘタレ野郎」と、まだ俺のことをヘタレヘタレと連呼する。
「お父さん、照れてるのよ」
「余計なこと言わんでいい」
奥さんがクスクスと笑い、佐倉さんはふんとそっぽを向いた。
と、トントンと扉をノックする音がする。
「私は素直に嬉しかったですよ。莉子ちゃんが恋人を紹介してくれたのがね。でもお父さんが、何か怪しい何か怪しいってずっと言ってるの。でも莉子ちゃん、そんなこと一言も言わないからね、わからなかったのよ」
「そうですね。莉子さんは努力家で優しい方なので。僕も莉子さんが幸せならそれでいいかと思っていました」
だから見守ってきた。自分の気持ちに蓋をして、彼女の幸せを願ってきた。それがこの結果だ。大雨の中ずぶ濡れで涙に暮れて、今にも消えてなくなりそうだった。
「お前さんは何で莉子と結婚したいんだ?」
「莉子さんのソレイユを守りたいという気持ちに寄り添いたくて……」
「そうじゃない」
「はい」
「穂高の本心を聞かせろって言ってるんだ」
ごくっと息を飲む。病室の空気がピリリとした。
佐倉さんは病人らしからぬ凛とした威厳で、俺を視線で射抜く。背筋がピッと伸び、緊張感に包まれた。
「僕は、莉子さんを好きで……愛しているので、結婚したいです」
それが俺の本心だ。ソレイユを守りたいだとかそんなのは後回しで、何より俺が莉子さんを好きだから。手に入れたいと思ってしまった、この気持ちに嘘はつけない。
「このヘタレが」
佐倉さんはふんっと鼻で笑い、奥さんは「あらまあ」と両手で頬を覆う。
「ほら、出しなさい」
「え?」
「ペンだよ、ペン。証人欄書いてほしくて来たんだろうに。今度は莉子と一緒に高級な手土産を持って来るように」
佐倉さんはテーブルに広げられている婚姻届に目を通す。ジャケットの内ポケットに入れていた万年筆を、佐倉さんに手渡した。「まったく、穂高のヘタレ野郎」と、まだ俺のことをヘタレヘタレと連呼する。
「お父さん、照れてるのよ」
「余計なこと言わんでいい」
奥さんがクスクスと笑い、佐倉さんはふんとそっぽを向いた。
と、トントンと扉をノックする音がする。
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