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5.俺の好きな人 ~穂高side~
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翌日まで待てなくて、電話をかけてみる。かけたはいいが、心配だからという理由では変に思われてしまうし、そうだな、なんて理由をつけようか。
そんなことを考えながら無機質なコール音を聞く。莉子さんが元気であればそれでいい。それさえ確認できればいいと思っていた。
それなのに、出ない。
よくわからない胸騒ぎに襲われ、もう一度かける。
三度目の正直でかけたとき、ようやく繋がった。
「もしもし、莉子さん?」
室内ではない、どこか外にいるようなそんな音が聞こえる。そして――
『……穂高さん』
ひどく震えた、蚊の鳴くような声が耳に届いた。
もしかして泣いている……?
「今、どこにいますか?」
『うっ、ううっ……』
嗚咽が聞こえる。やはり泣いているようだ。
嫌な予感は当たった。電話してよかったと思う。
「そこを動かないで。すぐに行きますから」
なんとか莉子さんから場所を聞き出した俺は、すぐに事務所を飛び出した。
雨が傘を打つ。足下の水たまりが障害となって、莉子さんのいる場所まで邪魔しているように感じる。こんな雨の中、彼女はどうして泣いているんだ……!
降りしきる雨の中、ずぶ濡れで佇んでいる莉子さんを発見した。彼女は歩道橋の上で、ぼんやりと下の道路を眺めている。一瞬、彼女が死んでしまうのではないかと焦ったけれど、俺と目が合うと「穂高さん」と小さく名前を呼んでくれた。目にはいっぱい涙をためて、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
差していた傘で、莉子さんに降りそそぐ雨をしのぐ。もう傘なんて意味がないほどに、莉子さんの髪の毛からは雫が垂れた。
「家まで送ります」
莉子さんは必死に首を横に振った。
帰りたくないということか。とはいえ、このままというわけにもいかない。
「このままじゃ風邪をひくから」
「……帰るところが、ありません」
その言葉に一瞬で怒りが湧いた。
彼氏と何かがあったのだろう。
だったら――
「うち、来ますか?」
俺の提案に小さく頷く、莉子さんの右手を取る。
初めて触れた手は、小さくて柔らかくて、そしてとても心もとなかった。
そんなことを考えながら無機質なコール音を聞く。莉子さんが元気であればそれでいい。それさえ確認できればいいと思っていた。
それなのに、出ない。
よくわからない胸騒ぎに襲われ、もう一度かける。
三度目の正直でかけたとき、ようやく繋がった。
「もしもし、莉子さん?」
室内ではない、どこか外にいるようなそんな音が聞こえる。そして――
『……穂高さん』
ひどく震えた、蚊の鳴くような声が耳に届いた。
もしかして泣いている……?
「今、どこにいますか?」
『うっ、ううっ……』
嗚咽が聞こえる。やはり泣いているようだ。
嫌な予感は当たった。電話してよかったと思う。
「そこを動かないで。すぐに行きますから」
なんとか莉子さんから場所を聞き出した俺は、すぐに事務所を飛び出した。
雨が傘を打つ。足下の水たまりが障害となって、莉子さんのいる場所まで邪魔しているように感じる。こんな雨の中、彼女はどうして泣いているんだ……!
降りしきる雨の中、ずぶ濡れで佇んでいる莉子さんを発見した。彼女は歩道橋の上で、ぼんやりと下の道路を眺めている。一瞬、彼女が死んでしまうのではないかと焦ったけれど、俺と目が合うと「穂高さん」と小さく名前を呼んでくれた。目にはいっぱい涙をためて、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
差していた傘で、莉子さんに降りそそぐ雨をしのぐ。もう傘なんて意味がないほどに、莉子さんの髪の毛からは雫が垂れた。
「家まで送ります」
莉子さんは必死に首を横に振った。
帰りたくないということか。とはいえ、このままというわけにもいかない。
「このままじゃ風邪をひくから」
「……帰るところが、ありません」
その言葉に一瞬で怒りが湧いた。
彼氏と何かがあったのだろう。
だったら――
「うち、来ますか?」
俺の提案に小さく頷く、莉子さんの右手を取る。
初めて触れた手は、小さくて柔らかくて、そしてとても心もとなかった。
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