捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される

あさの紅茶

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5.俺の好きな人 ~穂高side~

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それから数年。マスターから店を継いだ莉子さんはとても大変そうだった。昔からよく手伝っていたとはいえ、手伝いと経営とでは勝手が違うのだろう。

応援の気持ちも兼ねて、月に何度かソレイユで食事をしたし、同僚に紹介したりもした。仕事で疲れたときは莉子さんの笑顔を見るのが癒しでもあった。

あるとき、弁護士としてのキャリアを着実に積んでいた俺は初めて挫折を味わった。上手くいっていると思っていた案件で、思いもよらず依頼人を危険に晒してしまったのだ。それは弁護士としてあるまじき行為で、自信を喪失させるには十分すぎるほどの出来事だった。

だからといってそれを投げ出すほど無責任ではないし、どんなことがあってもやり遂げる強い意志はあった。

根を詰めたときにふと足を運んだソレイユ。無意識に癒しを求めていたのだろうか。目の前に出された日替わりランチを見て、久しぶりに食欲がわいた。

「穂高さん、今日元気がなさそうですけど、大丈夫ですか?」

「え?」

視線を上げるとコテンと首を傾げる莉子さん。
その姿を見て、俺はずいぶんと下を向いていたんだなと思った。

「ごめんなさい。余計なことでしたよね」

「あ、いえ。ちょっと仕事で失敗してしまって。情けないことに落ち込んでいました」

少し恥ずかしく、頬を掻く。
けれど莉子さんは真剣な表情でぐっと握りこぶしをつくる。

「誰だって失敗はあります。落ち込んだっていいです。ここで傷を癒していってください」

ね、と柔らかく微笑んだ莉子さんから目が離せなかった。
いつだって陽だまりのようにあたたかく照らしてくれる、彼女のこの言葉にどれだけ勇気づけられ癒されたかわからない。

ふいに目頭が熱くなった。
その日のランチはいつも以上に美味しく感じられ、心が満たされた気分になった。
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