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共に歩む未来
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しおりを挟む家の近くに産婦人科がないため、少し離れているが会社近くの総合病院の産婦人科を予約した。ここなら仕事は午前休にして、診察が終わってから出勤できる。朝一番の診察の予約が取れたので、時間的にも余裕だろう。
だがその朝に、トイレで出血が見られた。
「何で……?」
声を上げ取り乱しそうになるのを辛うじて抑えながら、奈々は病院へ急いだ。受付で症状を伝えるとすぐに診てもらえることになり、震えそうになりながら診察室へ入る。
(どうしよう……どうしよう……)
「西村さーん、力抜きますよー」
「は、はい……」
奈々は祈るようにぎゅっと目を閉じた。
診察が終わり医師から伝えられたのは”流産”だった。幸い自然流産だったため特に処置はなく、体へのダメージも少ないとのことだった。
体へのダメージはなくとも、それ以上のダメージが奈々を襲う。青ざめている奈々に、医師は落ち着いた優しい声で告げた。
「こればっかりは何が悪いとかはないからね。それだけ妊娠するということは奇跡なんだよ。大丈夫、きっとまた赤ちゃんきてくれますよ」
そう言われても、ショックが大きすぎて何も考えられなかった。
会計を待っているときもどこか上の空で、どうやってお金を支払ったのか、どうやって電車に乗ったのか、どうやって自宅へ戻ってきたかもわからなかった。
午後から出勤することも忘れ上司から確認の電話が掛かってきた記憶はかろうじてあるが、どう受け答えしたのか全く覚えていない。それほどまでに動揺していた。
奈々はここ数日のことを思い出していた。
風邪だと思って風邪薬を飲んだ。
陽性反応が出たときに素直に喜べなかった。
産むのを躊躇った。
(きっと私が赤ちゃんを大切にしなかったから、だから還ってしまったんだ。ごめんね、ごめんね……)
奈々は一人自分を責め、わあわあと声を上げて泣いた。
祐吾には言えない。
秘密にしようと思った。
言ったらきっと飛んで帰ってくる。
変に心配をかけたくない。
祐吾の仕事の邪魔をしたくない。
これは自分の中だけで留めておく。
(……だから、今だけは泣いてもいいでしょう?)
医師から、行為は一ヶ月後からと淡々と告げられたことがぼんやりと記憶を掠めた。祐吾が帰国するのは一ヶ月半後。
大丈夫、バレない。
大丈夫、大丈夫。
奈々は自分に言い聞かせるように何度も呟いた。
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