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それぞれの想い
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しおりを挟む案内された奈々の家は言うほど古くもないし汚くもない、昔の日本家屋という造りだった。引き戸の玄関を開けて中へ入る。
「お父さん、ただいまー……」
奈々が呼び掛けると、奥から奈々の父親がのっそりと現れた。
祐吾の姿を確認すると、
「おかえり。まあ、上がりなさい」
と、応接間へ二人を促した。
祐吾はきちんと「お邪魔します」と挨拶をし家へ上がる。それを見て慌てて奈々も靴を脱いだ。
祐吾の袖をそっと掴むと、「大丈夫だ」と目配せをしてくれる。自分の家なのに、たぶん祐吾より緊張しているのだろう。祐吾が頼もしくて自分が情けなくて、奈々は鼻の奥がつんとした。
応接間で奈々の父親の対面に座ると、祐吾は頭を下げた。
「奈々さんとお付き合いをさせていただいています、倉瀬祐吾と申します。ご挨拶が遅くなって申し訳ございません」
堂々としっかり丁寧に挨拶をする祐吾に、奈々は心が震え出す。心臓がドキドキと早くなるのと同時にきゅんと締め付けられる。
父親を見れば無愛想な表情で祐吾を見ており、奈々はまた別の意味でドキドキと鼓動が速くなった。
「お仕事は何をされているのかね?」
「奈々さんと同じKURAコーポレーションにて総合職をしております。奈々さんとはそこで知り合いました」
祐吾が戸惑うことなく答える姿に、奈々は仕事中の祐吾を思い出す。
本当に、普段の口調や態度とは裏腹に祐吾は真面目でしっかりしていた。こんなのが次期社長で大丈夫か、なんて思っていた頃が懐かしいくらいに、今となっては口が避けてもそんなことは言えない。
チラリと祐吾を見やれば、気付いて優しい視線を送ってくる。それだけで胸がいっぱいで、奈々は頬をピンクに染めた。
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