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穏やかなる時間
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しおりを挟むまさかの墓穴を掘ってしまい倉瀬のマンションに泊まることになった奈々は、緊張で地に足がつかない状態だった。
焼肉屋の帰り道も、行きと同じように手を繋いで歩いた。嬉しくて幸せなのに”泊まり”というワードだけで動揺してしまう自分が恥ずかしく、奈々は何度も胸を押さえる。
何度も足を運んだマンション。
別に何があるわけでもない。
お泊まりするだけ。
(何を……何を考えているの、私は……!)
玄関に入る前、奈々はこっそりと大きく深呼吸した。
リビングに入ると、やはり服に付いた臭いが気になる。髪の毛にもしっかりと臭いが付いている。
「奈々。一緒にシャワーするか?」
「ひっ!」
倉瀬が軽く聞いただけなのに、奈々は思いっきりひきつった顔をした。
「……冗談だよ」
奈々の反応に倉瀬は少々がっかりしながら苦笑いする。
「じゃあ先にシャワー使えよ」
奈々にバスタオルと厚手のバスローブを渡すと、奈々は首を横に振る。
「私は後でいいです」
「先に入らないなら俺と一緒に入れ」
遠慮する奈々に倉瀬は意地悪そうに言う。奈々はバスタオルを握りしめると、遠慮がちに、
「お借りします」
とペコリと頭を下げてバスルームへ入っていった。
奈々の後ろ姿を見送ってから倉瀬はソファにどかりと腰を下ろす。一人になると、やれやれと笑みがこぼれた。
奈々はいつも遠慮深い。自分のことは後回しだ。倉瀬のことばかり気を遣って、自分の主張はほとんどしない。モノをねだることもない。それが別に我慢している風でもない。いつも倉瀬の側にいてニコニコしている。
可愛くて愛しくて、倉瀬にとって初めて大切にしたいと思える女性だった。奈々といる倉瀬は、日々の喧騒を忘れるくらい心穏やかになる。
そう考えて、倉瀬は可笑しくなって一人笑う。まさか自分がそんなことを思う日が来るとは思ってもみなかったからだ。
誰かを好きになるとはそういうことなのかと、この歳になってようやく気づいた。
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