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穏やかなる時間
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しおりを挟むお腹いっぱい食べ大満足したのに、会計が五千円でお釣りが出たことに倉瀬が呆気に取られた顔をしていたので、奈々は可笑しくてまたクスクス笑った。
「ごちそうさまでした」
ホワイトデーのリクエストだったので会計はすべて倉瀬が出した。
奈々は店の外に出てから倉瀬にお礼を言うと、倉瀬は奈々の頭をくしゃくしゃっと撫でる。それが何だか嬉しくてくすぐったくて、奈々は少し恥ずかしげに頬を染めた。
「確かに、服に臭いが付いたな」
倉瀬が袖の臭いをクンクンと嗅ぐ。
「すごいでしょ。あとね……」
「?」
「息がニンニク臭になっちゃいます。あのタレ、ニンニクたっぷり使ってるみたいで」
奈々は口に手をあてて、はぁーと息を確認した。
全身焼肉臭くなっているので、息が臭いのか服が臭いのか手が臭いのか、何が何だかわからない。
だからどこにも出掛けない休みの前日がいいと言ったのかと、倉瀬はようやく合点がいった。このニンニク臭ではさすがに出歩けない。
「倉瀬さんと二人でニンニク臭なら、罪悪感薄いですよね」
「お前なぁ」
「でも一応対策は持ってきました」
奈々は鞄から携帯用消臭スプレーと、息スッキリタブレットを取り出す。気休め程度の消臭剤を身にまとい、タブレットを何個か口に放り込んだ。これで薄れたかどうかは、全くもってわからない。
「二人でニンニク臭ってことは、今日は俺の家に泊まりだな」
「……えっ?……えええっっっ!」
思い付いたように倉瀬が言うと、奈々は顔を赤くして仰け反って驚く。
「どうせ何も予定がない土日だしな。当然奈々もだろ?」
「そう、ですけど。でも……」
渋る奈々に、そういえば実家暮らしだったなと思い出す。母親は亡くなっているので、父親と弟と三人で暮らしていると前に聞いた。
「泊まりはマズいか?」
一応家族に気を遣って訊ねてみるが、奈々の反応は微妙だ。
「いえ、大丈夫……。いや、でも、着替えないし」
「うちの超高性能なドラム式乾燥機付き洗濯機がある」
「えっ、ええっ……。歯ブラシとか……」
「コンビニで買ってやるよ」
「ニンニク臭いし……」
「だから泊まれって言ってんだろーが。お前それで電車乗って帰るつもりかよ」
「帰るつもりでした……」
なかなか首を縦に振らない奈々に痺れを切らし、家族との制約も無さそうだと判断した倉瀬は強引に奈々を自宅まで引きずり込んだ。
途中、コンビニで歯ブラシを買うのも忘れなかった。
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