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穏やかなる時間
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しおりを挟む奈々が倉瀬を連れて行った焼肉屋は大層古い作りの長屋で、黄ばんだ暖簾が掛かっていた。昔ながらの換気扇からは煙がモクモク出ていて、周囲は肉の焼ける美味しそうなにおいが充満している。少し開いた窓からは、客たちの楽しげな笑い声が漏れていた。
暖簾をくぐると、更に煙とにおいが体を包んだ。煙に至っては店内が少し白く煙っているほどだ。あの昔ながらの小さな換気扇ではまるで換気が追いついていない。
「倉瀬さん、こういう庶民的なお店入ったことあります?」
「……ないな」
少し呆気に取られている倉瀬を、奈々はちょっと心配そうに見ていたが、
「確かに、臭いは付きそうだし、カードは使えなさそうだ」
倉瀬が真面目な顔をして言うので、奈々は可笑しくなってクスクスと笑った。
「実は私も過去に1回しか来たことなくて。でもその時食べたお肉がすっごくすっごく美味しくて忘れられなかったんです!だからもう一回食べたかったのと、倉瀬さんにも食べてほしかったので」
「へぇ」
「美味しいものは共有したいですよね」
ガッツポーズをしながら倉瀬に満面の笑みを向ける奈々に、倉瀬は優しく目を細めた。
このお店は各席にメニュー表はなく、壁にメニューが貼られているタイプだ。一通り見渡せば、どれも一皿二五十円と安い。
安すぎるため肉の産地が気になった倉瀬だが、目の前の奈々がずっとニコニコしているので野暮なことを言うのはやめた。
「私のおすすめ適当に頼んでいいですか?」
「奈々に任せるよ」
張り切る奈々が微笑ましく、倉瀬は奈々に任せてその姿を見守る。メニューを選んでいる時も店員に注文を告げている時も倉瀬に話し掛ける時も、全てにおいてにこやかに楽しそうな奈々。
それを見ているだけで倉瀬は十分お腹いっぱいだった。奈々と一緒にいるだけで心が満たされる。そんな気持ちになるなんて、倉瀬は不思議な気分だった。
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