俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい

穏やかなる時間

046

ホワイトデーの贈り物にまさかの焼肉をねだられ拍子抜けしてしまった倉瀬だが、奈々は行きたい焼肉屋も食べに行く日付もしっかりと指定した。

「絶対出歩かない土日の前の金曜日がいいです！あと、スーツはダメです。臭いがついちゃいます」

まるで母親のように説教くさく言う奈々に倉瀬は苦笑いしながらも従い、仕事終わりに一度自宅に戻ってきた。

別に臭いがついてもクリーニングに出せばいいと言ったのだが、「倉瀬さんのスーツは高そうだからダメ」と奈々は譲らない。なので渋々着替えに戻った訳なのだが、倉瀬はぼんやりと先程のやり取りを思い出していた。

「あと、カードは使えませんからね。倉瀬さん何でもカードで払っちゃうイメージだもん」

奈々が真剣な顔で言うので、その勢いに圧されてコクリと頷いた。確かにカード払いが多いが、ちゃんと現金だって持ち合わせている。

(奈々の思い込みには困ったもんだな)

そのことを思い出して倉瀬は自然と頬が緩んだ。

ささっと支度をして玄関を出る。
エントランスで奈々を待たせているのだ。
入ってこいと言ったのに、頑なに「ここで待ってます」とまたしても譲らなかった。

奈々の意外と頑固な一面を見ても可愛いと思ってしまう倉瀬は、あれこれ思い出してはまた頬が緩んだ。

奈々が好きでたまらない。
会う度に新しい表情を見せてくる。

仕事ではしっかりしている印象なのに、プライベートでは案外おっちょこちょいだ。
それは最近気付いたことでもある。

すぐに頬を染めて照れるし、すぐに頬を膨らませてむくれるし、そしてすぐに笑顔になる。倉瀬の前では奈々は百面相だ。それを可愛らしく思い奈々のことばかり考えている倉瀬も、実は百面相になっていたりする。

倉瀬は声もなく笑うと、ひとつ咳払いをしてエレベーターを降りた。