俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい

あさの紅茶

文字の大きさ
上 下
38 / 111
通じ合う心

038

しおりを挟む


(んー……何だか温かい)

 とても、優しい温もりに私の身体が包まれている───幸せ!

(これが……本当の幸せ)

 ───ずっとずっと私の心はどこか満たされないままだった。
 お母さんの顔色と機嫌だけを窺って生きていたあの頃。
 伯爵家に引き取られてからは「使えない」「ダメな子」「役立たず」散々、罵られた。
 少しでも褒めて貰えるようにと頑張ったけど、なかなか思うようにはいかなかった。

 全ての記憶が繋がってから、私にとっての幸せだった時を思い出そうとすると、そこにはあの男の子───カイザルがいる。

(初めてのお友達……)

 愛とか恋とかはよく分からなかった。
 それでも、私はカイザルと会っていたあの短い日々が楽しくて大好きだった。

(ありがとう、カイザル───)

「……眩し…………朝?」

 そんな幸せな気持ちで私は目を開ける。
 陽の光がかなり眩しい。
 もしかしてこれは結構いい時間なのでは?
  
(今、何時かしら?  どうして誰も起こしてくれな───)

「ん?」

 そこで自分の身体に巻きついている腕が目に入った。

「ひっ!  腕……人間の腕、よね?」

 最初に私は自分の腕の確認をした。間違いなく私の腕──はここにある。

「これは…………ハッ!」

 そこで、ようやく昨夜のことを思い出した。
 初夜が延期になったはずなのに、カイザルは部屋に戻らず私をベッドに押し倒して──

(たくさんキスをされた気がする!  それで、私……頭の中がトロンとして……)

「え……まさかの寝落ち?」

 そうとしか思えなかった。だってそこから先の記憶が無い。
 そうなるとこの腕、それとこの温もりは───

(一晩中、抱きしめてくれていたのかしら?)

 私を包むカイザルの温もりが、とにかく“私のことを大好き”と言ってくれているみたいで幸せな気持ちになれた。

「うっ……ん…………」
「は!  カイザルもお目覚めかしら?」

 私は慌てて後ろを振り向きカイザルの顔を見ようとした。

「…………コ、レット…………シェイ、ラ……」
「…………」

 すごいわ。ベッドの上で私を抱きしめながら、二人の女性の名前を寝言で呼んでいる。
 とっても不誠実な発言のはずなのに、ただの一途になっているという……

 私はそっとカイザルの頬に手を触れる。
 そしてそこに自分の顔を近づけてチュッと彼の頬にキスをした。

「カイザル───ありがとう」

 シェイラを強く想ってくれて。
 そして、コレットを見つけてくれて───


 ────


「……ん?  コレット?」
「───おはよう、カイザル」

 どうやらカイザルの目も覚めたらしい。
 だけど、少し寝ぼけているのかどこか焦点の合わない目で私をじっと見る。

「可愛い可愛い俺のコレットがいる……」
「カイザル?」
「夢の中でもコレットが俺の腕の中にいたのに、目が覚めてもコレット……」
「……コレットです」

 私がそう答えると、カイザルがへにゃっと笑った。

「──!?」

 これまで見たことのないその笑顔?  に私は大きく戸惑った。

(……もう!  本当にカイザルがわけ分からないわ!)

 小説では、愛してもいない私を娶りお飾りの妻として冷遇するはずのカイザル……
 今はこんなにヘニャヘニャの笑顔を見せている。
 小説と現実は違うのだと、すでにたくさん実感させられてきたけれど……

(……あの妙に無口な日々はなんだったの?)

 そのことも聞きたいと思っていたのに、まだ聞けていなかったことを思い出した。

「ねぇ、カイザル!」
「ん~?  コレット?」
「……っ」

 カイザルがへにゃっとした笑顔のまま私の名前を呼ぶ。
 ちょっと今聞いても大丈夫かな?  と思ったけれどやはり忘れないうちに聞いておこうと思った。

「……どうしてあなたずっと無愛想で無口だったの?」
「……無口?」
「私の記憶の中のカイザルも、それに昨夜のあなたもよく喋る人だったわ」
「……よく喋る?」
「なのに、結婚してから……いいえ、顔合わせの時もね?  あなたはびっくりするくらい無口だった。どうして!?」

 私が勢いよく訊ねると、カイザルはしばらく考え込んでから、ボンっと顔を赤くした。

「え……」

 何故ここで顔が赤くなる?

「そ、そ、そそそれは……」
「それは?」

 躊躇うカイザルに私はグイッと迫る。

「……」
「カイザル!」
「う!  ………………から」

 ようやくカイザルは観念したのか、ポソッと言った。

「シェイラが……」
「シェイラ?  どうして私?」
「────シェイラが言ったじゃないか!」
「ん?」

 私は首を傾げてカイザルの次の言葉を待った。

「しつこい男や口うるさい人は嫌われる……」
「え!」
「男の人は少し無口でミステリアスな人がカッコイイと!」
「…………あ!」

 そう言われてカイザルとの会話を思い出した。
 あの頃は“ミステリアス”がよく分からなかったけど確かにその話をしていた。

 ───よく分からないが、男は無口な方がカッコイイ……というわけか
 ───そうみたい
 ───ふーん……

(も、もしかして、あの時のカイザルの「ふーん……」は……興味のないふーんではなく……)

「え!  そ、それで……?」 
「……」

 私がびっくりしてカイザルの顔を見たら茹でダコになったカイザルが頷く。
 そして必死な顔で私に言った。

「───す、好きな人にはカッコイイと思って貰いたいじゃないか!」
「!」
「シェイラ……いや、コレットに少しでも俺をカッコイイと思って、それで俺を好きになってもらいたかったんだ!!!!」

(────やだ、可愛い!)

 そんなカイザルの言葉に私の胸が盛大にキュンとした。
 カイザルが望んだカッコイイではなく可愛い……でだけれど。

「それであんな態度を?」
「…………ミステリアスだっただろ?」
「……」

 いや、ただのコミュ障だったわよ……とは言えない。
 だけど、なんて不器用な人なの……そんな無理しなくても私は───

「……カイザルのことが好き」
「え?」
「無口だろうとお喋りだろうと関係ないわ?  私はあなたが好きよ」
「コレット……」

 カイザルの目が大きく見開かれる。

「シェイラも…………あなたが好きだったわ、カイザル」
「シェイラ……も?」
「ええ!  毎日毎日あなたに会えるのが楽しみだったわ───」

 と、そこまで言ったらカイザルがギュッと私を抱きしめ、あっという間に唇が塞がれた。

「んっ……」

(カイザルは可愛いけれど、手が早い……)

 なんて思った。


───


 そんな熱いキスをこれでもかとたくさん贈られた後にカイザルは私の耳元で言った。

「いいか、コレット。医者の許可がおりたら覚悟しておいてくれ。俺を煽ったのは君だ!」

 ────と。
 今度は私が茹でダコになって頷く番だった。そして───


「ちょっ……カイザル……擽ったい」
「だめ?」
「んん……ダメじゃない、けどぉ……!」

 何故かとっくに朝のはずなのに誰も部屋に起こしに来ない。
 なので、カイザルからのキス攻撃が止まらない。
 お互いの気持ちを確認しあえたことから、カイザルの中に遠慮という物が無くなった気がする。

(は、話を変えるのよ……)  

 イチャイチャな雰囲気じゃない話に!  そうすれば……
 と、そこで私はもう一つ浮かんだ疑問を訊ねることにした。

「そ、そうよ!  カイザル」
「んー……?」
「あ、あなたがシェイラにくれようとしていた、た、誕生日プレゼントって何!?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

処理中です...