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通じ合う心
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「奈々、今日はお弁当?」
「ううん。今日は作る暇なかったから」
「じゃあ食堂行こ」
「うん」
お弁当を持ってきた日は自席で食べ、ない日は朋子たち同僚と社員食堂へ行くのがいつものランチスタイルだった。社員食堂は派遣社員にも開放されているので、毎日大勢の人で賑わっている。
奈々たちは角の席を見つけ、今日のおすすめ定食を頬張った。
「ね、ね、聞いた?倉瀬さんの話」
朋子が声を潜めて言う。奈々は倉瀬という言葉に異常に心臓がドキリと跳ねた。
そんな奈々などお構いなしに、同僚たちは「何なに~?」と興味津々だ。奈々は気持ちを落ち着けようと静かに深呼吸をする。
「バレンタインのチョコをね、個人的に渡そうとした人がいたんだって」
「マジで?誰?めっちゃ気になる!」
同僚たちが盛り上がる中、奈々は動揺が顔に出ないように箸をぎゅっと握りしめる。自分以外にも倉瀬にチョコレートを渡そうとした人がいただなんて思わなかったため緊張が走る。だがよく考えてみれば、なんだかんだ倉瀬は女性の間で人気があるのだ。チョコレートの一つや二つ、貰ってもおかしくないだろう。
「総務課の原さんって知ってる?」
「知ってる!美人の受付嬢って噂の人だよね?」
奈々の記憶の片隅に、総務課の美人受付嬢である原さんがぼんやりと浮かび上がった。一時、男性陣が騒いでいたことがある。若くて美人でスタイルもいい、原さんとお近づきになりたいだなんて話もよく聞いたものだ。
奈々は訳もなくご飯を一口、口にほおりこんだ。味なんてわからない。けれど、食べていないと気が遠くなりそうだった。
「まだ続きがあってさ」
朋子は勿体ぶるように言うと、更に声を潜めて言った。
「倉瀬さん、断ったらしいんだよね」
『え~!』
「なんでも、倉瀬さんの彼女が嫉妬するからもらえない、とか」
『きゃー!』
同僚たちの騒ぐ声が遠くで聞こえるようだった。一緒に話を聞いていたはずなのに、心ここにあらずといった奈々は込み上げてくるものを抑えるのに必死だった。
「ううん。今日は作る暇なかったから」
「じゃあ食堂行こ」
「うん」
お弁当を持ってきた日は自席で食べ、ない日は朋子たち同僚と社員食堂へ行くのがいつものランチスタイルだった。社員食堂は派遣社員にも開放されているので、毎日大勢の人で賑わっている。
奈々たちは角の席を見つけ、今日のおすすめ定食を頬張った。
「ね、ね、聞いた?倉瀬さんの話」
朋子が声を潜めて言う。奈々は倉瀬という言葉に異常に心臓がドキリと跳ねた。
そんな奈々などお構いなしに、同僚たちは「何なに~?」と興味津々だ。奈々は気持ちを落ち着けようと静かに深呼吸をする。
「バレンタインのチョコをね、個人的に渡そうとした人がいたんだって」
「マジで?誰?めっちゃ気になる!」
同僚たちが盛り上がる中、奈々は動揺が顔に出ないように箸をぎゅっと握りしめる。自分以外にも倉瀬にチョコレートを渡そうとした人がいただなんて思わなかったため緊張が走る。だがよく考えてみれば、なんだかんだ倉瀬は女性の間で人気があるのだ。チョコレートの一つや二つ、貰ってもおかしくないだろう。
「総務課の原さんって知ってる?」
「知ってる!美人の受付嬢って噂の人だよね?」
奈々の記憶の片隅に、総務課の美人受付嬢である原さんがぼんやりと浮かび上がった。一時、男性陣が騒いでいたことがある。若くて美人でスタイルもいい、原さんとお近づきになりたいだなんて話もよく聞いたものだ。
奈々は訳もなくご飯を一口、口にほおりこんだ。味なんてわからない。けれど、食べていないと気が遠くなりそうだった。
「まだ続きがあってさ」
朋子は勿体ぶるように言うと、更に声を潜めて言った。
「倉瀬さん、断ったらしいんだよね」
『え~!』
「なんでも、倉瀬さんの彼女が嫉妬するからもらえない、とか」
『きゃー!』
同僚たちの騒ぐ声が遠くで聞こえるようだった。一緒に話を聞いていたはずなのに、心ここにあらずといった奈々は込み上げてくるものを抑えるのに必死だった。
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