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第49話 テストの結果は?
しおりを挟む数日が経過して、三日間で行われるテスト最終日。
テスト期間の全てを終える最後のチャイムが……今、鳴り響いた。
「はい、そこまで。後ろから前に回してください」
解放感からか「はぁ……」「ひぃ……」「ふぅ……」と、教室中から聞こえてくる。
中間テストなだけあって、思ったよりも簡単ではあった。あのレベルなら、麻央さんでも赤点は回避しているだろう。
帰りのHRは速やかに終わって、放課後。
明日からの休みを前にして帰る人が多い中、教室に残っている人もそこそこ居る。
仲間内でテストの答え会わせをしながら、ゆっくりしているみたいだ。
(さて、今日は部活も無いし……帰るか――あれ?)
麻央さんの様子が……変だ。とても変だ。まるで、テストの答え会わせをしているみたいだ。
(ありえるか? いや、ありえない)
思わず国語のテストで出た反語を使ってしまうくらい、衝撃的なシーンだった。
ちょっと……邪魔してみようか。
「麻央さん、麻央さん?」
「何よ?」
「いや、どうしちゃったの? いつもの麻央さんなら、すぐに帰るのに」
「ふふっ……。近江君? 今回の中間テスト、何科目あったか覚えているかしら?」
国語総合、数学Ⅰ、数学A、理科、社会、英語W、英語R、保険、情報……九科目。九〇〇点満点。
自分の予想だと、一科目平均で九六点くらいにはなるはず……なってて欲しいかな。中間テストだし。
「九科目でしょ?」
「そうよ。そして、私は……」
「私は?」
「その内の、英語が特にちんぷんかんぷんだったわ! 数学と理科に力を注ぎ過ぎたのよね……盲点!」
二科目が無事だった事を喜ぶべきか、それとも最低二科目は駄目だった事を嘆くべきか迷うところだ。
明るく盲点とか言ってくれているのだが、ちゃんと英語だってテスト勉強はしていた。
たしかに、麻央さんのスペルミスの多さや雰囲気での文章作りには危機感はあった。間違ったその時に、訂正はしていたけれど……甘かったみたいだ。
「……はぁ。それで、結局のところ今は何を?」
「だいたい何点かの点数を出してたところ。う~ん……近江君、これって平均だと何点になるかしら?」
麻央さんの出した自己採点の点数。その低さ……思ったより低かった事への驚きや悲しみ、虚無感や後悔などは心に閉ざして平均点を出してみる。
自己採点すらかなりの誤差があるかもしれないと思うと、だいぶヤバめな点数になる。
俺の口から伝えるはちょっと嫌なのだが、それでも向き合わなければそれ以上の成長は見込めない。
心を無にして、出た点数を正直に伝えることにした。
「……っ。平均、二三点……ですっ!!」
「そう」
長い髪を手で靡かせ、窓の奥にある青空を眺めて格好付ける麻央さん。
そしてまた長い髪を靡かせ、正面を向き手を机の上に組んで、ゆっくり目を閉じる麻央さん。
最後に、鞄に教科書類を入れ、帰る準備を整える麻央さん。
――全部、駄目である。
残念ながら、格好良い雰囲気で誤魔化される山野近江ではない。
「麻央さん。一緒に勉強しましたよね?」
「……え、えぇ。顔が怖いわよ、近江君」
「いやいや! ホントにホントに!! 中間でこの点数はマジでヤバイですよ」
「そ、そうかしら?」
「これは……はい。留年すら見えてくるレベルで……ヤバイです……」
あと、この結果を知った宇野宮家に呼び出される可能性もあるからヤバイ。
可能性の話だが、部活を退部させられて、文化部が無くなるかもしれないからヤバイ。
麻央さんが下級生とか、なんかもう……他の方々に迷惑が掛かりそうでヤバイ。
麻央さんのテストの点数が、下手すれば俺の学校生活にかなりの影響を及ぼしかねない。
麻央さんの勉強を、一週間前からでも大丈夫と油断していた過去の俺に注意してやりたいが、過去の事を言っても仕方がない。
向き合うのはいつだって今なのだ。まだ失敗しても命拾いする時期だったことを喜んで、むしろこれを糧とし……次の機会に活かせば良いだろう。
(麻央さんが自分から勉強してくれれば……どれほど、どれほど楽だろう……)
とりあえず、出来る事は早めにやっておかないといけない。溜め込んで後に回せば、手が回らなくなるし麻央さんの頭も回らなくなる。
……となると。ダメ元で、彼女に助けを呼んだ方が良いかもしれない。麻央さんは嫌がるかもしれないが、心を鬼にして。
「麻央さん、学校も早く終わった事だし……」
「そうね! どこに遊びに行きましょうか?」
「……こほん。それでは、俺の家か麻央さんの家にしませんか? サボり学生と思われても困りますし」
「じゃあ、近いし近江君の家にしましょう!」
そう決まってから、俺はトイレに行ってくると言ってその場を離れた。
連絡先を知らないが為に、帰っているかどうかは行ってみなければ分からないが……足早に俺は、一組へと向かった。
(居るかな?)
教室のドアから中を覗くと、端の方に目的の人物――月見川さんを見付けた。
入っても良いのか、出てくるのかを悩んで……他のクラスに入るのは躊躇うのだが、仕方がないと恐る恐る入っていく。
そして、当然の様に何人かからの視線はあるけど、座って月見川さんの元へと真っ直ぐ歩いて行った。
「……あら、近江。わざわざ何の用?」
「トゲのある言葉ですね……まぁ、良いんですけど。問題が発生しました」
「問題?」
「です。麻央さんのテストに関して……」
俺がそう告げた瞬間、驚きの表情を浮かべながら勢いよく立ち上がった。
流石は幼馴染と言っても良い付き合いの長さ、テストと聞いただけで理解してくれたのだろう。話が早くて助かるな。
「勉強はした筈なんですがね……」
「お~う~みぃぃ~!!」
「す、すみません? いや、勉強はちゃんと教えたつもりなんですよ? 本当に!」
「そんな事はどうでも良いの!!」
(良いの!?)
「あんた、いつの間に麻央を下の名前で呼んでんのよ!? 誰の許可を得て! 呼んでんのよっ!」
「そこっ!? いや、そこはどうでもよ……」
「良くない!!」
「しっ、しぃーーっ! ほら、クラスでのイメージがあるんでしょ?」
月見川さんをどうにか落ち着かせようとしてみたが、既にあたかも俺が月見川さんを怒らせたみたいな構図が完成しており、視線は集まっていた。
「くっ……面倒なんで離脱しますけど、麻央さんにテストの復習をさせたいので暇なら我が家に集合でお願いします」
「あ、ちょっと!! ……なんなのよ」
小さい声で用件を先に伝える。そして、月見川さんの止める声を無視して教室を後にした。
来れるかどうかの返事は欲しかったのだが……不本意な流れで言い逃げの形になってしまったのは、やや残念だ。
あまりにも遅いと、麻央さんにあらぬ誤解をされるかもしれないし、あのまま教室に居ても居心地は悪かったし。
「はぁ……。とりあえず、母さんに飲み物があるか聞いておくか」
自分の教室に戻ってから、赤点顔をしている麻央さんを連れて学校を後にする。
月見川さんの事を教えると帰りそうだし、内緒にしたままスーパーへ寄って二人分以上のお菓子とジュースを買ってから、山野家へと帰って来た。
こんなに短期間で友達を連れてくるなんて、俺も驚いているし母さんはもっと驚いている。まぁ、母さんに関しては喜んでいるのかもしれないけど……。
「麻央さん。先に部屋に行っといてください」
「分かったわ」
今度は本当にトイレに寄って、母さんに一言「この前来た子がもう一人来るかも」とだけ伝えて、自分の部屋へ向かった。
「ねぇ、近江君? そう言えば……何して遊ぶの?」
「遊びませんよ。今からするのは……中間テストの復習です!!」
「なっ……騙したわね!? 騙したでしょ! だーまーさーれーたぁ~」
「はぁ……あの点数で遊ぶ訳ないでしょう? 本当に留年しますよ?」
駄々っ子モードに入った麻央さんは、ベッドの上でバタバタし始め、最終的に必殺技『駄々巻モード』へ突入していた。
(来るなら早く来てくれ……月見川さん)
――ピンポーン。
俺の願いが天に届いたのか、タイミング良くインターホンが鳴った。
ぐるぐる布団でいろんな物を防御している麻央さんを少し放っておき、俺は玄関まで来客者を迎えに行った。
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