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第18話 グループトークは難しい

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 四人組の女子が来たということは、相手側もグループ分けで最後になった、出席番号ラストの人達だ。
 当然、クラスで顔を合わせているのだが、名前がパッと出てこない。
 その程度には、全然会話もしていない訳で、ほぼ初対面と言って良いだろう。
 たしか……女子の一番最後が渡辺さんというのは覚えているけど、四人の中で誰が渡辺さんなのか、微妙に自信がない。

「ど、ども……」

 さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、大輝が言葉を尻窄しりすぼみさせながら小さく挨拶をしていた。
 それに釣られる様に、優希も聖二も小さくお辞儀するだけで、緊張している様子である。
 それに比べ、女子はどうしてああも仲良くなるのが早いのだろうか……和気あいあいとした雰囲気だった。
 先程、ハブられかけた俺からすれば、眩しいと思うくらいに、肩を寄せあってお喋りしている姿は印象的だった。
 こういった、早い段階で協力的になれるのは、女の子の方がやはり上手だと感心していた。
 俺達男子側のグダグダ感を見れば、それは一目瞭然というやつだろうしな。

「よろしく~」
「あ、はい……その、よろしくお願いします」

 俺の目の前に座った一人の女子がそう声を掛けてきた。
 それに対する俺の応え方……自分でも情けない程、他の面子を笑えない程に、どうやら緊張しているみたいだ。

「はい、注目! まず最初のテーマは『地球最後の日に食べたい物』!! まだお互いに名前を覚えられてない部分もあると思うので、軽めに自己紹介してからトークしてください……じゃあ、始め!」

 先生の声が響き、教室の後方にいる俺達にもしっかりと聞こえた。
 ローテーションする毎にテーマにそった話題で盛り上がり、距離を縮めようという事だと思うのだが……会話が苦手な俺にとっは、ちょっとハードな内容かもしれない。
 こういうのは一番手に話した人が会話の……いては場の空気を主導する人になりがちだ。
 そんな面倒はごめんである。どちらかと言うと、誰かについて行く方……多勢の方に加わっていたい。
『鶏口となるも牛後となるなかれ』……という故事成語があったと思うが、俺は先頭に立つ人間じゃなく、誰かについて行く、牛後タイプで良いと思っている。

「えー、最後の晩餐ばんさん的な話? 悩むなぁ」
「だなぁ……って、先に自己紹介しとかないとじゃね?」

 優希と聖二、二人が喋りだした事で場が動き始めた。
 特に、聖二の自己紹介発言が良かったのだろう……だが何故か、女子の方が先に名前を言い始めた。
 俺から見て右から松田さん、山田さん、吉田さん、渡辺さんの順で座っていた。

(意外と出席番号順に並んでいたのか……)

 申し訳ない事に、俺の正面に座って声を掛けてくれた女子が、まさかの名前だけ覚えていた渡辺さんだったという……。
 クラスの席順で、名前と人数の端数的に、俺と渡辺さんだけ本当の一番後ろの席になっている。
 男女別に六列六列七列に並ぶ七列の最後。つまり、俺から横の席を見ようとすれば、渡辺さんしか居ないという事になるのだ……。
 それで覚えていないとかバレたら、かなり失礼なんじゃないだろうか? ――内心、とんでもなく焦り始めていた。
 そういう意味では、女子が最初に挨拶してくれた事に、ただ感謝するしかない。

「えー、俺からいくか。どうも! 平嶋優希です。よろしく!」
「前田聖二って言います。苗字でも名前でも気軽に呼んでください」
「三宅大輝です。まぁ……堅苦しいのは苦手なんで、全然タメ語でオッケーっす!」
「山野近江……です。よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げて、無難な挨拶をしておいた。
 やはり同じボッチ席に座っているからだろうか、渡辺さんだけ小さくパチパチと手を叩いてくれていた。
 俺の中で渡辺さんの株が急上昇だ。まぁ……今の俺はバーゲンセール並みに『好印象』を格安で売り捌いているのだが。
 何故か不思議と……確実に宇野宮さんの影響なのだが、普通の子は軒並みイイ人という印象になっていく。

「どうする? 先にみんなの最後の日に食べたい物を聞いていく?」
「おっ、なら優希から時計回りに行くか?」
「女子のみんなは? 決めたら先に言ってもいいんだぜ?」

 自己紹介の流れから調子を上げてきた三人が、場を仕切りながら会話を回そうとしている。
 ソロ活動をしてきた俺にグループトークのノウハウは無いし、話を振って貰わなければ、どのタイミングで発言して良いかも分からない。
 女子側も俺と同じであまり自分から喋るのが得意ではないのか、さっきから相槌を打つばかりだった。
 それで結局わ男子から話していく事となった。

(最後に食べたい物か。シンプルに好きな食べ物にするか、思い出の味を選ぶか迷うな……)

 思い出の味というか、懐かしい味で選ぶなら、もっと小さい頃に祖母に作って貰った『お汁粉』だ。
 でも、一番好きな食べ物で決めるなら、かなり悩んで『餃子』だろうか。
 肉も魚も好きだし、野菜は少し苦手な物もあるが基本的には大丈夫。そんな俺が辿り着いた答えは、勝手に思っているのだが万能食である餃子だ。
 焼き餃子、水餃子、変わり種……いろんな餃子があって、よく「どの餃子が好きなの?」なんて聞かれるが愚問ナンセンスだ。

 だって――餃子はどれも等しく餃子なのだから。

「俺はステーキかなぁ~、最後ならやっぱり、ガッツリ肉を食いたいし」
「わかる。でも俺は唐揚げ派だな! 大輝は?」
「俺は……最後なら量より質で、最高級の何かだな。近江は?」
「あっ、えー……餃子?」

 俺の言い方が良く無かったのか、俺が次の女子に話を流さなかったのがいけなかったのか、誰かの言った「へー」という相槌で、ちょっとした沈黙が生まれてしまった。
 視線で男子三人に助けを求めるも、それに応じてくれた奴は居なかった。
 だが、薄情者とは思わない。俺だって同じ状況になれば、周りに合わせて沈黙を貫いている自信がある。
 だから仕方ない事とはいえ、申し訳ないと思う事がひとつ……。

(餃子という答えでこんな空気にしちゃったら、餃子さんに顔向けできねぇ……)

 カツ丼、ハンバーグ、唐揚げ、ステーキ……華々しい料理の方が話題的には盛り上がれると、さすがに俺でも分かっている。
 でも、餃子が好きという気持ちに嘘はけない……いや、吐きたくはなかった。

「お、お汁粉と迷ったけどね?」

 だから何だ……という視線が男子から届く。
 自分で発言しておいてなんだが、それには俺自身も心の中で完全に同意していた。
 俺もどうしてそんな事を口走ってしまったのか、よく分からない。ただ、沈黙に耐えられなかったのは確かだ。
 結果として――お汁粉さんにも失礼な事をしてしまったのだが……。

「じゃあ、次は……どうぞ」

 更に絞り出した感じのある言葉で、女子サイドにバトンを放り投げた。
 もう限界に近かった。
 会話は、流れを読んで然るべきタイミングで、然るべき言葉を入れる事で成り立つ。
 それは人が増えれば増える程難しく、俺のコミュニケーション能力が低いと認めたく無いが為に、八人なんてそもそも無理があったのだと思いたかった……のだが。

(……普通に会話が進んでいるんだよな)

 女子グループの番になって、男子側で決めていた『女子を褒める』というルールもあってか、会話にテンポとリズムが出始めていた。
 ついに、会話には相槌だけの参加になってしまった俺。
 ただ……だからと言って、何もしてない訳ではない。
 ボッチの特技でもある『観察』。失敗した事を頭に入れていたからこそ、俺はここにいるメンバーの会話を観察をしていた。

「あぁ~、確かにそれも良いかもね! 大輝はどう思う?」
「俺もアリだと思うな。山田さん、肉とか好きな割りに、見た目細いんだな」
「えー、そんな事ないよー」

 慣れない同士の会話は、みんなが協力して、みんなで盛り上げようとするから盛り上がる。
 みんなで盛り上げている会話の内容や流れを、少し遠くから見ている感覚で観察して、そう思った。
 今は話が少し脱線して、各自の好きな食べ物の話しになっているが、それもまた自然な流れなのかもしれない。
 自然で、それが普通だと言うのなら……今の俺はそれを受け入れていかなければならない。

 ――これも、普通を目指す良い機会と言えるのだから。

 周りは普通の人達で、普通に会話をしている。むしろ、あれくらいで失敗した俺の方がおかしい状態みたいだ。
 だから、最初の失敗くらいでへこんではられない……俺の目指す『普通どう』は、まだ始まったばかりなのだからな。

 ◇◇

「――はいっ! そろそろ交換の時間です。女子のみんなは悪いけど、移動してね」

 最後まで上手く会話に入れずに終わり、女子が去っていった。

「おい、ちょっと集合」

 女子が移動してすぐに、大輝が小声で俺達を集めた。
 何やら真剣な顔付きの大輝……何を言うのかと、俺達は次の言葉を待った。

「今の女子メンバー……どうだった?」

 もしかしたら俺は怒られるかも……と思っていた矢先、大輝から出た言葉にちょっと安心していた。

「最初は緊張したが……結構、話しはできたよな?」
「だな。……あのよ、吉田さんって、意外と……意外とじゃなかったか?」
「聖二!」
「いや、分かってる! 俺もどうかと思うけど……」
「大輝、聖二を叱るなら俺も同罪だ。つい視線が、な。チラチラ見てたと思う。ああいうのって、女子は普通に気付いてるって……よく聞くよな?」

 三人の会話を聞いて、話題の吉田さんを思い出す。
 あまり口数が多くはなかったが、とある『部分』の主張が他の女子メンバーよりあったと思う。
 今はその事について話しているのだろうが……残念な事に、それがどれくらいだったのかを、俺はハッキリと覚えていない。
 失礼ながら、俺も最初に目を奪われたが、その後すぐに、それどころじゃ無くなかった。
 今になって、こういう会話がされるならもっと相手の事を見ておけば……と少し後悔し始めていた。

「いや、俺はお前らを注意出来ない……むしろ俺から話そうと思ってたくらいだ! そういう会話があってこそだ!」
「だ、だよな! やっぱり見ちゃうよな!」
「たぶん、他の奴等も似た考えだぜ? とりあえず顔と名前と特徴くらいは覚えておかないと」

 女子の近付いてくる気配を感じ取った三人は、ピタッと会話を止めて、次へと切り替えていた。
 次からの女子は三人グループ。優希が最後に言っていた、顔と名前と特徴……それを覚える事と、今度はさっきよりも上手く話す事を目標に、俺も三人同様に女子を迎え入れる姿勢を取った。

「さ、次のテーマは『特技、又は趣味』です! という事で、さっきと同じ感じで進めてください」

 ――ハハッ。特技まほう趣味コスプレも過去に置いてきて、今は何も思い付かないって感じなんですがっ!!

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