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第5部 第5話

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 ハクが防衛相の官僚と連絡を取ってから2時間後、ヒデオとコウイチとヒイロはヒデオが普段トレーニングしている山から移動して陸上競技場のトラックの真ん中にいた。

「あの、本当に来るんですかね、怪物は?」

ヒイロが最終試験の怪物に今から相対する恐怖もあるからか、できれば来ないでほしいという願望を込めてコウイチにするだけ無駄な質問をした。

「来るよ、確実に。俺だって本当は来ないでほしいけど、誰かが倒さなかったら終わらないからね。そして倒せる可能性が一番あるのはヒデオだけで、その次に可能性があるのが今までの実績から言ってヒイロくんになるんだよ。それにヒイロくんも怪物を倒すために今まで特訓していたんだろう?」

「それはそうですけど……作戦うまくいってほしいですね。」

「そうだね。」

もちろん怪物を2時間も待たせたのは、ただヒデオたちの覚悟を決めさせるためだけではなく、怪物を倒す作戦を立て実行に移すための準備をするためだった。

陸上競技場の観客席には怪物に言われた通り、報道カメラマンを数人配置していた。

国も本当は報道したくないし、報道カメラマンの中には本当は来たくない人もいたが、怪物の機嫌を損ねてヒデオと戦う前に街中で暴れられるよりはいいだろうと考えて、自衛隊と普段怪物退治を行っていた「光のぬし」から能力を授かった子たちに警護してもらうことを条件に数人のカメラマンに来てもらったのだった。

「ツヨイ」は周りから見ている人も要望していたみたいだが、それはあまりにも危険だと国が判断して、代わりに人形を何百体か用意して配置していた。

緊張からか口数の多いコウイチとヒイロに比べてヒデオはジッと競技場の出入り口を見ていた。

「おい!2人とも誰か来たぞ!」

ヒデオが誰かが出入り口からやってくるのを確認して、コウイチとヒイロに注意を促した。
その全身真っ黒で顔が般若の面のような怪物はハクから取り上げたスマホの地図アプリを見ながらやってきた。

そしてヒデオたちと数メートルという距離までやってくると「お前らの中でどいつがユウキ・ヒデオなんだ?」と質問してきた。ヒデオは全く臆することなく一歩踏み出し「俺がユウキ・ヒデオだ!お前が『ツヨイ』とかいう奴か?」と名乗ったあと、一目見れば分かるような容姿の相手を本物か確認する質問をした。

「フッ。」

何かがおかしかった「ツヨイ」は軽く吹きだした。それを見たヒデオは苛立ちを覚え、「何がおかしい!」と相手を恫喝するように質問した。

すると「ツヨイ」は「いや、俺の見た目の情報はお前らに伝わっていると考えていたのだが、連絡した奴はそんなことも忘れるほどのバカなんだなと思ってな。いや、それとも伝えられた敵の容姿を忘れてしまうほどお前がバカなのかな。」と答えた。

「ツヨイ」の返答を聞いたヒデオは顔を赤くしながら「分かってたさ!一目見ればお前が『ツヨイ』とかいう怪物だってことは!ただこっちが名乗ったんだからお前にも名乗らせようと思ったから聞いただけだ!」と言い訳ともとれる弁明をした。

「フッ、そうか。それなら俺も名乗ればいいんだな?俺がお前らを倒しに来た『ツヨイ』だ。」

「ツヨイ」の声は特に大きいというわけでもなかったが、それがかえってハッキリとした殺意を3人に感じさせた。

「それで残りの2人のうち1人はエンドウ・コウイチだとして、もう1人は誰なんだ?俺が名乗ったんだから当然名乗ってくれるんだろう?」

「ツヨイ」の質問に対して、ヒイロも臆するところを見せないように「俺はソラ・ヒイロだ!よく覚えとけ!」と答えた。

すると「ツヨイ」はニターっと笑いながら「お前がソラ・ヒイロか!これは手間が省けて良かった!ユウキ・ヒデオを倒した後はお前を倒そうと思っていたからな。」と言った。

「フンッ!お前なんかにヒデオさんが負けるわけないだろ!」

ヒイロは鋭い殺気を放つ力量の分からない相手に恐怖を感じながらもヒデオに負けてほしくないという気持ちを込めて言い切った。

ヒイロの発言を聞いて「ツヨイ」は、さっきよりも増してヒイロたちをあざ笑い始めた。

「フハハハ!威勢だけはいいらしいな!俺の殺気を感じているのにもかかわらず、それだけ吠えら…。」

「ツヨイ」は話している途中で首を右に少し傾けた。

「チッ。くだらないことを。」

競技場の周りにはビルも建っているので屋上から競技場のトラックの中に立っている「ツヨイ」をライフルで狙撃した銃弾が当たったために「ツヨイ」は首を横に傾けたみたいだった。

「ツヨイ」は自分の頭に当たった銃弾を拾うと「当たった角度からするとあのビルか?」と言って拾った銃弾を投げ返した。銃弾はライフルで撃ち返したくらいものすごい勢いで飛んでいった。

「当たるわけないが、でもまあ牽制にはなるか。おい、お前ら!狙撃したって無駄だからやめるように言っとけ!これはお前たちのために言ってるんだからな。」

「俺たちのため?ハッ、そんなわけないだろ!そんなこと言って実はけっこう効いているんじゃないのか?」

コウイチは「ツヨイ」が言ったことははったりだと決めつけて言い返した。すると「ツヨイ」は呆れてため息をつきながら「はぁ~。分からないのか?俺を狙撃すると俺に飛び道具を与えているのと同じなんだよ。俺が投げた銃弾をお前らはかわせる自信があるのか?」と答えた。
「ツヨイ」の返答を聞いたコウイチはすぐに狙撃をやめさせるためにスマホで連絡を取り始めた。

「ハハハハ。そんなことも分からないなんてやっぱりお前ら地球人の知能レベルは低そうだな!ハハハハ!」

「ツヨイ」はコウイチの慌てようを見て高笑いした。

「うるさい!笑ってられるのも今のうちだ!俺たちが遠距離からの狙撃しか対策を取っていないと思ってるのか?」

ヒデオは馬鹿にして笑ってばかりいる「ツヨイ」を少しうろたえさせようと思い、狙撃以外にも対策を立てていることを明かした。しかし「ツヨイ」は全くうろたえることなく「思ってるわけないだろ!バ~カ!お前らが罠を仕掛けていることは予想したうえで、こっちはここに来てるんだよ!お前らを完膚なきまでに叩きのめすところを報道させて日本全国民に絶望を与えてやるよ!もうお互い話すこともないだろう?じゃあ始めようか!」と言ってヒデオに向かってきた。

しかし「ツヨイ」の動きは急に止まった。すると今度はヒデオが高笑いをし始めた。

「ハハハハ。どうだ動けないだろ?人のことさんざんバカにしといて俺たちが『光のぬし』から授かった能力の把握もしてないなんてお前の方がバカだったな!」

実はトラックの中にいないだけで離れた位置にチカラが隠れていて、能力を使って「ツヨイ」の動きを止めたのだった。しかし「ツヨイ」は全く動けない状況にもかかわらず笑い始めた。

ヒデオが「何がおかしい!」と聞くと、「ツヨイ」は「まさか俺がすでに本気を出しているとでも思っているお前がおかしくてな。俺は当然ウドウ・チカラの能力を把握してここに来てるんだよ!刮目しろ!俺が本気を出せばこんな負荷がかかっていても…。」と答えて一般の30代の成人男性が歩くくらいのスピードでヒデオに近づいてきた。

それでもヒデオは慌てることなく「そのくらいは予想していたさ!お前の動きが遅くなればいいんだよ!イトイ!今だ、やれ!」と作戦を実行に移すように右手を上げて指示を出した。

すると今まで観客席に座っていた何百体という人形が一斉に「ツヨイ」目掛けて向かってきた。動けるとはいっても俊敏な動きができない「ツヨイ」は人形に覆いかぶされてしまった。そして人形に覆いかぶされて動けなくなった「ツヨイ」をコウイチがいつの間にか連れてきたリョウスケが人形ごと氷漬けにしてしまった。
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