空を飛ぶ能力しかないと思っていましたが、いつの間にかヒーローになってました。

無自信

文字の大きさ
上 下
29 / 55

第3部 第10話

しおりを挟む
 ヒデオ、コウイチ、ヒイロ、ショウ、オサムの5人は黙って、ゲンキが目を覚ますのを待っていたが、一緒にいた医者は「…そんなまさか…いや、でも…だとしたら…。」と、ブツブツ呟いていた。

しばらくゲンキのやけどが治っていく様子を全員で見ていたが、数分後にはやけどの跡が全く残らずに治ったため、オサムは「もう僕に出来ることはないみたいです。」と、握っていたゲンキの手を放した。

「それでは、僕は他のケガした人たちの治療に向かいます。」と言って、オサムが病室を出て行こうとすると、ヒデオが「ちょっと待って!」と呼び止めた。

「ほかに重傷な人がいたら申し訳ないんだけど、俺の右手の凍傷と右足のやけどを治してもらえないかな?」

「ヒデオさん、ケガしてたんですね!気づかなくてすみません!今すぐ治療します!」

ヒデオとオサムの会話を聞いて、ヒイロは今になってヒデオの右足のやけどに気づいた。

「(そうだよな。あんなに体が熱くなっている怪物の顔を蹴り飛ばしたんだから、やけどぐらいするよな。)」

ヒイロは自分の注意力の低さに呆れてしまった。

オサムがヒデオの左手を握って治療を始めると、数分後には傷痕も残らずに綺麗に治った。ヒデオの治療を終えると、オサムは病室を出て怪我人の治療に向かった。

オサムがいなくなった病室を嫌な静けさが支配した。その状況に耐えられずヒイロが「なぁ、ショウ。ゲンキさんもチカラみたいに2日経っても目を覚まさないかもしれないし、ゲンキさんのことも気になるけど、チカラの病室に戻らないか?ツバサを1人で待たせているのも申し訳ないしさ。」と、ショウに提案した。

「…そうだな…戻ろうか。」

ショウがヒイロの提案を承諾した、次の瞬間、「…ゲンキくん。ゲンキくん!」と、医者が大きな声を出してゲンキに呼びかけ始めた。ヒイロとショウは驚いて、ゲンキに視線を向けると、ゲンキの閉じていた瞼が開き始めた。医者はゲンキが目を覚ましそうな兆候を感じ取って、大声でゲンキに呼びかけたみたいだった。

医者の呼びかけで意識を取り戻しつつあるのか、ゲンキは何度か瞬きをすると「…ここは…どこですか…イマイ先生?」と、医者に顔を向けて質問をした。

「ここは病室だよ。ゲンキくん、覚えているかな?キミはとんでもなく熱い怪物にタックルして、病院の外へ押し出そうとしていたみたいなんだけど。」

「…はい。覚えています。僕が精一杯押しているのにもかかわらず、怪物はびくともしませんでした。…怪物…そうだ!怪物、怪物はどうなりましたか?」

完全に意識を取り戻したのか、ゲンキは上半身をガバッと起こした。

「大丈夫だよ。怪物ならここにいるヒデオくんが倒してくれたから、安心して。」

「そう…ですか。僕を助けてくれたのもヒデオさんですか?」

「いや、それはこの子がやってくれたんだ。」

そう言って、イマイという医者は手をヒイロの方へ向けた。

「そうですか。ありがとうございました。え~と…。」

「あっ!僕はソラ・ヒイロです。よろしくお願いします。」

「ヒイロさんですか。本当にありがとうございました。」

「ゲンキくん…話は変わるんだけど、ゲンキくんのやけどが自然と治っていったんだけど…あれかな、ケガや病気の治し方が分かったのかな?だから、やけどが自然と治っていったんだよね。そうだよね。」

イマイがゲンキの授かった能力について核心を突く質問をすると、ゲンキは俯いて一言もしゃべらなかった。

イマイは頭を掻いてゲンキへの質問の仕方がまずかったことを反省すると、「ごめん、ゲンキくん。出来ればゲンキくんの授かった能力が『どんなケガや病気でも治すことができる』能力であってほしいからと言って、責めるように質問してしまって。ゲンキくんの能力が本当は違っても誰も責めないから、本当のことを教えてほしい。」と、今度は優しく尋ねた。

「ごめんなさい。…本当は僕に『どんなケガや病気も治す』力なんてないんです。僕には『自分のケガや病気を治す』力があるだけなんです。」

「8年前に僕がゲンキくんの授かった能力は何か聞いたよね。その時にどうして言ってくれなかったんだい?『自分のケガや病気を治す』能力だって言ってくれれば、8年間も実験を受けなくて済んだのに。あっ!ごめん!これは責めてるんじゃなくて、疑問に思ったことを聞いているだけだから、ゲンキくんも言える範囲で良いから言いたいことを言ってくれないかい?」

「…その…実は…怖かったんです。『何でも願いごとを叶えてあげる。』と言われて、この病院だけじゃなくて、世界中の病院にケガや病気で入院している人がいるのに、それを忘れて自分の病気だけを治してもらったという事を知られるのが怖かったんです。たくさんの人から責められるんじゃないかと思って怖かったんです。」

「……。」

ゲンキの告白に、ゲンキの主治医だったイマイは何も返答できずにいた。

イマイだけじゃなく、誰も何も言えずに嫌な沈黙が続くかに見えたが、「怖がる必要なんかないと思うよ!」と、ショウが発言しました。するとゲンキは俯いた顔を上げて、ショウの顔を見つめた。

「怖がる必要なんてないよ!だって世界中でゲンキさんみたいに病気で入院していた人が光のぬしに病気を治してもらったという例が確認されているし、俺やヒイロみたいに病気やケガなどの悩みがなかった人は、自己中心的な願いごとをしている人がほとんどだから、責められるとしたら俺たちみたいな人だと思うよ。」

「…そうだよ!俺の能力も怪物が現れる世の中じゃなければ危険なだけだから、責められるとしたら俺みたいな奴だよ!」

ヒデオもショウの意見に乗っかった意見を述べた。

「僕みたいに自分の病気を治してもらった人が他にいたとしても、僕や他の人たちが思いやりのない自己中心的な奴だって事実は変わらないですよ!むしろ病気の辛さを知っていながら自分だけ助かったわけだから、ヒデオさんたちよりも自己中心的だと非難されると思います。」

ゲンキはショウやヒデオの意見に全く耳を貸さず、自分を責めた。
ゲンキの意見に誰も何も言えずにいると「ゲンキさんは自己中心的ではないと思います!」と、ヒイロが今までの会話を聞いていたとは思えない発言をし始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

よんよんまる

如月芳美
キャラ文芸
東のプリンス・大路詩音。西のウルフ・大神響。 音楽界に燦然と輝く若きピアニストと作曲家。 見た目爽やか王子様(実は負けず嫌い)と、 クールなヴィジュアルの一匹狼(実は超弱気)、 イメージ正反対(中身も正反対)の二人で構成するユニット『よんよんまる』。 だが、これからという時に、二人の前にある男が現われる。 お互いやっと見つけた『欠けたピース』を手放さなければならないのか。 ※作中に登場する団体、ホール、店、コンペなどは、全て架空のものです。 ※音楽モノではありますが、音楽はただのスパイスでしかないので音楽知らない人でも大丈夫です! (医者でもないのに医療モノのドラマを見て理解するのと同じ感覚です)

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...