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第3部 第5話
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ヒデオとコウイチが××にワープして向かう30分ほど前、××に先に着いていた「カタイ」と「ツメタイ」は大勢の人に囲まれていた。人型の怪物が現れたことがあるという情報をまだ知らない人たちが、黒い球体を連れたお多福顔の人を面白がって近くで写真を撮ったり遠くから眺めたりしていた。
しかしこの状況を面白く思わない「カタイ」と「ツメタイ」は「何なんだ、こいつらは。全然俺たちを恐れないぞ。逃げ惑う人々を襲うのが楽しいというのに。……そうだな、『カタイ』。○○病院とは反対の方角に来たし、かなり離れているからもう暴れてもいいよな。それに笑っている奴らの顔が恐怖する顔に変わるのも楽しいもんな。」とテレパシーの様に心の中で会話した後、「ツメタイ」は右手をバッと挙げた。
「何が起こるんだ?」と何かを期待して周りの人たちがざわつき始めた。
それを見て「ツメタイ」はニヤリと笑いながら、右手を左斜め下に振り下ろしました。すると振り下ろした手の先からブワッと冷気が出て空気中の水分を凍らせていき、近くにいた人たちを凍らせてしまった。
それを目の当たりにした少し離れた所にいた人たちは、叫び声をあげたり、恐怖で座り込んでしまったり、その場から逃げだしたりした。それをあざ笑うかのように「カタイ」が動けない人も逃げ惑う人も容赦なくひき殺していった。人を凍らせて殺していく「ツメタイ」と人をひき殺していく「カタイ」によって、××は地獄絵図のような状況になってしまった。
そんな中、五人の背の高い人たちが怪物たちの方へ向かっていった。
親とはぐれたことと、この混乱した状況で泣いている女の子をまさに「カタイ」がひき殺そうとした時、5人の背の高い人たちが壁になって「カタイ」の動きを止めた。「カタイ」の動きを止めた人が現れたので、「ツメタイ」は少し驚きつつも「おいおい、誰だ、お前らは?俺と『カタイ』の楽しい時間の邪魔するんじゃねえよ!殺すぞ!」と「カタイ」の動きを止めた5人を脅してきた。
「……。」
「ツメタイ」に脅されても5人は一言もしゃべらなかった。
「おい、どうした?何も言い返せないのか?」
「……。」
5人はやっぱり何もしゃべらずに「カタイ」を持ち上げて、力いっぱい「ツメタイ」に向かって投げつけてきた。しかし、「ツメタイ」は冷静に自分の前に氷の壁を作り出し、投げられた「カタイ」が自分のところまで来るのを防いだ。
しかも、少し傾斜があるように氷の壁を作っていたので、投げられた「カタイ」は氷の壁に沿って転がり、逆に5人に向かっていった。5人は今度も止めようとしたが、「カタイ」のスピードが前よりも速く、ボーリングのピンの様にあっけなく倒されてしまった。それでも5人は立ち上がろうとしたが、「ツメタイ」が近づいて来て5人を氷漬けにしてしまった。
「『カタイ』を止められたからもう少しやるものと思ったが、案外たいしたことなかったな。…ん、こいつらもしかして人間じゃないのか?」
「ツメタイ」が5人は人間じゃないことに気付いた頃、5人が守った女の子を連れて逃げる人がいた。
「はぁ、はぁ、はぁ、大丈夫?つらいかもしれないけど今はとにかく走って!私の人形が時間を稼いでいる間に遠くに逃げないと!」
そう言って女の子を連れて逃げているのは、人形を意のままに動かせる能力をもらったイトイ・ユイだった。
「何なの一体、要請がない日だからショッピングでもしようと××まで来たのにあんな怪物に出会うなんてついてない!絶対あの怪物の能力、あいつの能力よりも上な気がするし!」
ユイが「ツメタイ」の能力とリョウスケの能力を頭の中で比べていると、女の子が走るのをやめてしまった。
「どうしたの?走って疲れた?」
ユイが尋ねると女の子がコクンと頷いた。
「どうしよう?え~い!考えてる暇はない!すぐ逃げるためには…。」
ユイはしゃがんで背中を女の子に向けた。
「早く!背中に乗って!」
ユイの必死な声に女の子は少し驚いたが、すぐにユイの背中に乗った。
「よしっ!じゃあ行くよ!」
ユイが立ち上がろうとした時にユイの前に立つ人影が見えた。段々と近づいて来る人影の正体が誰なのか確認するため、ユイが恐る恐る視線を上げると、そこにいたのは…。
視界に入る人間をあらかた殺し尽くした「ツメタイ」と「カタイ」は今後の方針について話し合っていた。
「ここら辺にいた人間は大体殺しちまったな。あとは逃げたか、建物に隠れているかしているけど、どうする、『カタイ』?建物に隠れた人間を捜して殺すか、逃げた奴らを追うか、どっちがいい?もうただ逃げるだけの人間を殺すのは飽きたから、向かって来る奴らを殺したいって?そうか。じゃあこの辺りに隠れている奴らを見つけて殺しながら、自衛隊とか言う奴らや能力をもらった奴らがやって来るのを待つか?さっきの人間じゃない奴らを動かしていたのも能力をもらった奴だろうし、普通の人間よりは歯ごたえがあると思うしな。」
今後の方針も決まって、「ツメタイ」と「カタイ」が隠れている人たちを捜し始めようとした時、2人に近づいて来る人影が2つあった。
それに気づいた「ツメタイ」が「誰だ、お前ら?俺たちに向かって来るということは強いんだろうな?悪いが俺たちはもう弱い奴らに興味はないから、勝てる自信がないなら1分だけ待ってやる、さっさと失せな。」と笑いながら言った。
「ツメタイ」がすぐに身を翻して逃げるものだと思っていた2人組は全く歩く速度を変えずに近づいて来た。しかも、1人は笑いながら「それなら安心しろよ。俺は日本、いやこの地球上で一番強いからさ。」と言い切った。
その発言が少し癪に障ったのか、「ツメタイ」は少しムッとして「へぇ~、言うじゃないか。それが大言壮語じゃなければいいけど…って『カタイ』どうした?」としゃべっている途中で「カタイ」がヒートアップして、猛スピードで2人組に向かって転がっていった。
真っすぐ向かって来る「カタイ」に臆することなく、地球上で一番強いと言った人は右手で正拳突きする構えをとった。
そして「カタイ」の体がぶつかりそうな瞬間、「セイッ」と掛け声を上げて正拳突きを繰り出した。
ドンッと硬いもの同士がぶつかる音がした後、「ツメタイ」の方から見ると「カタイ」が転がるのをやめて止まっているように見えたので「どうした、『カタイ』?さっさとそんな奴ひき殺しちまえ!」と「カタイ」が手を抜いていると思った「ツメタイ」は文句を言いったが、次の瞬間、「カタイ」の体が宙に浮いた。
状況が呑み込めず、「ツメタイ」は「カタイ」の体をジッと見ていたが、「カタイ」の体がある程度の高さまで上がったらすぐに状況が理解出来た。
なんと、「カタイ」の体に地球上で一番強いといった人の腕が肘の辺りまで突き刺さっていた。突き刺さった腕を上げたから「カタイ」の体が宙に浮いたように見えたのだった。
それを見た「ツメタイ」はすぐにでも地球上で一番強いと言った人を殺してやりたいと思ったが、ここで冷静さを失ったら「カタイ」の二の舞になってしまうと考え、努めて冷静に振舞い「カタイ」にテレパシーで話しかけながら、地球上で一番強いといった人に質問し始めた。
「てめえ何者だ?『カタイ』の外皮を突き破るなんて、そんじょそこらの奴には出来ないっていうのに。」
「(おい、『カタイ』大丈夫か?生きているなら返事しろ!『カタイ』!)」
「お前の仲間の『ハヤイ』とか言う奴はちゃんと名乗ったから、俺もちゃんと名乗っておくよ。俺の名前はユウキ・ヒデオだ!よく覚えておけ!」
「お前がユウキ・ヒデオか…。」
「(ユウキ・ヒデオがここにいるってことは、『アツイ』の奴は無駄足を踏んだってことか。『カタイ』の奴から返事がないから『カタイ』は死んだんだろうな。『カタイ』を倒したんだから、アイツは相当強い。油断しちゃいけない!だが…)」
「弱い奴らを殺すのは飽き飽きしていたところだ。地球上で一番強い奴と戦えるなんて楽しみだよ。」
仲間を殺されたことの悲しさより、強い相手と戦えることの喜びから「ツメタイ」は笑っていた。
「そうかよ。悪いけど俺は今怒りで我を忘れそうなくらいだから、お前を楽しませるつもりなんてないけどな!」
そう言うとヒデオは「カタイ」が突き刺さった右腕を振りかぶり、「ツメタイ」に向かって「カタイ」の死体を投げつけた。ユイが能力で動かしていた人形が投げた時よりも剛速球で「ツメタイ」に向かっていった。
「ツメタイ」は慌てて氷の壁を作り出し、「カタイ」の死体が自分にぶつかるのを防ごうとした。
ドカーンッ!と「カタイ」の死体は氷の壁にぶつかり、氷の壁にめり込んだが「ツメタイ」に当たることはなかった。
「ふ~、なんとか止められたな。まさか何千キロもある「カタイ」の体を1人であんな速さで投げられるなんて少し驚いたぜ。でも、防げないことはないのが分かったし、恐れることはない。どうせ俺の能力を知って遠距離で攻撃してくるだろうから、投げられるものがなくなれば終わりだ。それまで耐えればいい。冷静に対処すれば俺が負けるはずない!……おかしいな?攻撃してこないぞ?」
「ツメタイ」が自分の予想が外れたのかと疑問に思い始めたころ、背後からジャリッと音がしたのでパッと振り向くと、ヒデオのパンチを顔面に食らった。
「馬鹿な!いつの間に背後に来て…いたんだ…?」
「ツメタイ」が薄れゆく意識の中、ヒデオに背後をとられた理由を考えていたが、理由が分かる前にヒデオにそのまま顔を自分で作り出した氷の壁にたたきつけられてしまった。
グシャッ!と「ツメタイ」の顔はトマトをたたきつけたみたいに簡単につぶれてしまった。ヒデオがゆっくりつぶれた「ツメタイ」の頭から右手を離していると「うまくいったな、ヒデオ!」とコウイチが近寄ってきた。
ヒデオは「カタイ」の死体を「ツメタイ」に投げつけた後、コウイチの能力で「ツメタイ」の背後にワープしたのだった。
「その手どうしたんだ、ヒデオ!怪物にやられたのか?」
コウイチがヒデオの右手を見て心配そうに声を掛けた。「ツメタイ」の頭がマイナス何十度になっていたので、ヒデオの右手はひどい凍傷になっていた。
ヒデオがとてもつらそうな表情をしていたので、コウイチは更に「大丈夫か、ヒデオ?手が痛むのか?」と尋ねた。
「いや、手はハッキリ言って感覚がないから痛くはないんだけど、今倒した怪物どもにすごく怒りを感じていてさ。」
「そりゃそうだよな。俺も怒りを感じているし、当然だよ!こんなにたくさんの人を殺されたんだから!」
「そうなんだよ!こんなにたくさんの人を殺した怪物どもに激しい怒りを感じているんだけど、それと同時に自分自身にも怒りを感じているんだ!」
「自分自身?」
コウイチはヒデオが言ったことの意味が気になり聞き返した。
「俺一人で怪物退治をしていた時に現場にすぐに駆け付けられずに助けられない人が出ることが嫌で、コウイチを口説いて怪物退治をしてきてみんなから『ヒーロー』と呼ばれるようになるまでになった。けれどいまだに怪物の被害にあう人をゼロにすることができないどころか、今日はこんなにたくさんの人を助けられなかった。そんな肩書きに負けている自分にすごく腹が立つんだ。…コウイチ、俺はいつになったら本物の『ヒーロー』になれるんだろう?」
ヒデオの思い描くヒーローの理想が高すぎることにコウイチは驚きながら、怪物の被害がケガ人数人で済めばよしとしていた自分にすごく腹が立った。
「それは分からないな。もしかしたら一生なれないかもしれないけど、俺が手伝うよ!俺はワープすることしか出来ないけど、ヒデオが本物の『ヒーロー』になれるようにずっとサポートするよ!」
「コウイチ…ありがとう。」
慰めにはほとんどなっていなかったかもしれませんが、コウイチの言葉にヒデオは少し怪物退治への活力を取り戻しているようだった。
そこへ「ヒデオさーん!大丈夫ですかー?」と大声を上げて近づいてくる人がいた。ヒデオとコウイチが振り向くと、イトイ・ユイが人形を連れて近づいて来るのが見えた。
「何だ、イトイか?あれ、一緒にいた女の子はどうしたの?」
ヒデオが疑問に思ったことを質問すると、「ああ、あの子だったらここから離れた所にある、うちのグループ会社に預けてきました。安心してください!うちのグループ会社には怪物が現れた時のためにシェルターを作ることを義務付けていますから!あの子はそのシェルターに入れてもらいました。あと、この人形もうちのグループ会社には常備するようにしてあるので、そこから連れてきました。」と肩で息をしながらユイは答えた。
「怪物は倒しちゃったみたいですね。さすがヒデオさん!…あれ、ヒデオさんの右手、なんか変じゃないですか?もしかして怪物にやられたんですか?」
「そうだった!ヒデオ、早く治療してもらわないと!○○病院に行くぞ!病院にオサムくんがいなかったら、オサムくんの家に伺ってでも治療してもらうぞ!」
「ちょっと待って!2人とも落ち着いて!とりあえず病院に行くのは、他に怪物がいないか調べてからじゃないと。もし俺がいなくなった後、この近くでまた怪物が現れたら、『職務怠慢だ!』と批判を受けるかもしれないし。それに幸い負傷したのは右手だけだから、まだ十分戦えるって!ここで治療のために戦線離脱している場合じゃないと俺は思うんだけど。」
「何言ってるんだ!もしお前が完全な状態じゃないまま『ハヤイ』みたいな怪物と戦ったら、今度こそ死ぬかもしれないんだぞ!ここは自衛隊や他の能力をもらった子たちに任せて、すぐに右手を治療すべきだ!」
「そうですよ!ヒデオさん!ここは私に任せて、ヒデオさんは治療に専念してください!」
「でも…。」
ヒデオはコウイチとユイに説得されながらも、まだ納得は出来ていないようだった。そのときコウイチのスマホが鳴り出した。
「ちょっとごめん。」
コウイチはスマホの画面を見ると、みるみる険しい表情になった。そして、険しい表情のままヒデオに向かって「すぐに○○病院にむかうぞ!怪物が現れたらしい!」と伝えました。それを聞いたヒデオの表情も険しくなった。
しかしこの状況を面白く思わない「カタイ」と「ツメタイ」は「何なんだ、こいつらは。全然俺たちを恐れないぞ。逃げ惑う人々を襲うのが楽しいというのに。……そうだな、『カタイ』。○○病院とは反対の方角に来たし、かなり離れているからもう暴れてもいいよな。それに笑っている奴らの顔が恐怖する顔に変わるのも楽しいもんな。」とテレパシーの様に心の中で会話した後、「ツメタイ」は右手をバッと挙げた。
「何が起こるんだ?」と何かを期待して周りの人たちがざわつき始めた。
それを見て「ツメタイ」はニヤリと笑いながら、右手を左斜め下に振り下ろしました。すると振り下ろした手の先からブワッと冷気が出て空気中の水分を凍らせていき、近くにいた人たちを凍らせてしまった。
それを目の当たりにした少し離れた所にいた人たちは、叫び声をあげたり、恐怖で座り込んでしまったり、その場から逃げだしたりした。それをあざ笑うかのように「カタイ」が動けない人も逃げ惑う人も容赦なくひき殺していった。人を凍らせて殺していく「ツメタイ」と人をひき殺していく「カタイ」によって、××は地獄絵図のような状況になってしまった。
そんな中、五人の背の高い人たちが怪物たちの方へ向かっていった。
親とはぐれたことと、この混乱した状況で泣いている女の子をまさに「カタイ」がひき殺そうとした時、5人の背の高い人たちが壁になって「カタイ」の動きを止めた。「カタイ」の動きを止めた人が現れたので、「ツメタイ」は少し驚きつつも「おいおい、誰だ、お前らは?俺と『カタイ』の楽しい時間の邪魔するんじゃねえよ!殺すぞ!」と「カタイ」の動きを止めた5人を脅してきた。
「……。」
「ツメタイ」に脅されても5人は一言もしゃべらなかった。
「おい、どうした?何も言い返せないのか?」
「……。」
5人はやっぱり何もしゃべらずに「カタイ」を持ち上げて、力いっぱい「ツメタイ」に向かって投げつけてきた。しかし、「ツメタイ」は冷静に自分の前に氷の壁を作り出し、投げられた「カタイ」が自分のところまで来るのを防いだ。
しかも、少し傾斜があるように氷の壁を作っていたので、投げられた「カタイ」は氷の壁に沿って転がり、逆に5人に向かっていった。5人は今度も止めようとしたが、「カタイ」のスピードが前よりも速く、ボーリングのピンの様にあっけなく倒されてしまった。それでも5人は立ち上がろうとしたが、「ツメタイ」が近づいて来て5人を氷漬けにしてしまった。
「『カタイ』を止められたからもう少しやるものと思ったが、案外たいしたことなかったな。…ん、こいつらもしかして人間じゃないのか?」
「ツメタイ」が5人は人間じゃないことに気付いた頃、5人が守った女の子を連れて逃げる人がいた。
「はぁ、はぁ、はぁ、大丈夫?つらいかもしれないけど今はとにかく走って!私の人形が時間を稼いでいる間に遠くに逃げないと!」
そう言って女の子を連れて逃げているのは、人形を意のままに動かせる能力をもらったイトイ・ユイだった。
「何なの一体、要請がない日だからショッピングでもしようと××まで来たのにあんな怪物に出会うなんてついてない!絶対あの怪物の能力、あいつの能力よりも上な気がするし!」
ユイが「ツメタイ」の能力とリョウスケの能力を頭の中で比べていると、女の子が走るのをやめてしまった。
「どうしたの?走って疲れた?」
ユイが尋ねると女の子がコクンと頷いた。
「どうしよう?え~い!考えてる暇はない!すぐ逃げるためには…。」
ユイはしゃがんで背中を女の子に向けた。
「早く!背中に乗って!」
ユイの必死な声に女の子は少し驚いたが、すぐにユイの背中に乗った。
「よしっ!じゃあ行くよ!」
ユイが立ち上がろうとした時にユイの前に立つ人影が見えた。段々と近づいて来る人影の正体が誰なのか確認するため、ユイが恐る恐る視線を上げると、そこにいたのは…。
視界に入る人間をあらかた殺し尽くした「ツメタイ」と「カタイ」は今後の方針について話し合っていた。
「ここら辺にいた人間は大体殺しちまったな。あとは逃げたか、建物に隠れているかしているけど、どうする、『カタイ』?建物に隠れた人間を捜して殺すか、逃げた奴らを追うか、どっちがいい?もうただ逃げるだけの人間を殺すのは飽きたから、向かって来る奴らを殺したいって?そうか。じゃあこの辺りに隠れている奴らを見つけて殺しながら、自衛隊とか言う奴らや能力をもらった奴らがやって来るのを待つか?さっきの人間じゃない奴らを動かしていたのも能力をもらった奴だろうし、普通の人間よりは歯ごたえがあると思うしな。」
今後の方針も決まって、「ツメタイ」と「カタイ」が隠れている人たちを捜し始めようとした時、2人に近づいて来る人影が2つあった。
それに気づいた「ツメタイ」が「誰だ、お前ら?俺たちに向かって来るということは強いんだろうな?悪いが俺たちはもう弱い奴らに興味はないから、勝てる自信がないなら1分だけ待ってやる、さっさと失せな。」と笑いながら言った。
「ツメタイ」がすぐに身を翻して逃げるものだと思っていた2人組は全く歩く速度を変えずに近づいて来た。しかも、1人は笑いながら「それなら安心しろよ。俺は日本、いやこの地球上で一番強いからさ。」と言い切った。
その発言が少し癪に障ったのか、「ツメタイ」は少しムッとして「へぇ~、言うじゃないか。それが大言壮語じゃなければいいけど…って『カタイ』どうした?」としゃべっている途中で「カタイ」がヒートアップして、猛スピードで2人組に向かって転がっていった。
真っすぐ向かって来る「カタイ」に臆することなく、地球上で一番強いと言った人は右手で正拳突きする構えをとった。
そして「カタイ」の体がぶつかりそうな瞬間、「セイッ」と掛け声を上げて正拳突きを繰り出した。
ドンッと硬いもの同士がぶつかる音がした後、「ツメタイ」の方から見ると「カタイ」が転がるのをやめて止まっているように見えたので「どうした、『カタイ』?さっさとそんな奴ひき殺しちまえ!」と「カタイ」が手を抜いていると思った「ツメタイ」は文句を言いったが、次の瞬間、「カタイ」の体が宙に浮いた。
状況が呑み込めず、「ツメタイ」は「カタイ」の体をジッと見ていたが、「カタイ」の体がある程度の高さまで上がったらすぐに状況が理解出来た。
なんと、「カタイ」の体に地球上で一番強いといった人の腕が肘の辺りまで突き刺さっていた。突き刺さった腕を上げたから「カタイ」の体が宙に浮いたように見えたのだった。
それを見た「ツメタイ」はすぐにでも地球上で一番強いと言った人を殺してやりたいと思ったが、ここで冷静さを失ったら「カタイ」の二の舞になってしまうと考え、努めて冷静に振舞い「カタイ」にテレパシーで話しかけながら、地球上で一番強いといった人に質問し始めた。
「てめえ何者だ?『カタイ』の外皮を突き破るなんて、そんじょそこらの奴には出来ないっていうのに。」
「(おい、『カタイ』大丈夫か?生きているなら返事しろ!『カタイ』!)」
「お前の仲間の『ハヤイ』とか言う奴はちゃんと名乗ったから、俺もちゃんと名乗っておくよ。俺の名前はユウキ・ヒデオだ!よく覚えておけ!」
「お前がユウキ・ヒデオか…。」
「(ユウキ・ヒデオがここにいるってことは、『アツイ』の奴は無駄足を踏んだってことか。『カタイ』の奴から返事がないから『カタイ』は死んだんだろうな。『カタイ』を倒したんだから、アイツは相当強い。油断しちゃいけない!だが…)」
「弱い奴らを殺すのは飽き飽きしていたところだ。地球上で一番強い奴と戦えるなんて楽しみだよ。」
仲間を殺されたことの悲しさより、強い相手と戦えることの喜びから「ツメタイ」は笑っていた。
「そうかよ。悪いけど俺は今怒りで我を忘れそうなくらいだから、お前を楽しませるつもりなんてないけどな!」
そう言うとヒデオは「カタイ」が突き刺さった右腕を振りかぶり、「ツメタイ」に向かって「カタイ」の死体を投げつけた。ユイが能力で動かしていた人形が投げた時よりも剛速球で「ツメタイ」に向かっていった。
「ツメタイ」は慌てて氷の壁を作り出し、「カタイ」の死体が自分にぶつかるのを防ごうとした。
ドカーンッ!と「カタイ」の死体は氷の壁にぶつかり、氷の壁にめり込んだが「ツメタイ」に当たることはなかった。
「ふ~、なんとか止められたな。まさか何千キロもある「カタイ」の体を1人であんな速さで投げられるなんて少し驚いたぜ。でも、防げないことはないのが分かったし、恐れることはない。どうせ俺の能力を知って遠距離で攻撃してくるだろうから、投げられるものがなくなれば終わりだ。それまで耐えればいい。冷静に対処すれば俺が負けるはずない!……おかしいな?攻撃してこないぞ?」
「ツメタイ」が自分の予想が外れたのかと疑問に思い始めたころ、背後からジャリッと音がしたのでパッと振り向くと、ヒデオのパンチを顔面に食らった。
「馬鹿な!いつの間に背後に来て…いたんだ…?」
「ツメタイ」が薄れゆく意識の中、ヒデオに背後をとられた理由を考えていたが、理由が分かる前にヒデオにそのまま顔を自分で作り出した氷の壁にたたきつけられてしまった。
グシャッ!と「ツメタイ」の顔はトマトをたたきつけたみたいに簡単につぶれてしまった。ヒデオがゆっくりつぶれた「ツメタイ」の頭から右手を離していると「うまくいったな、ヒデオ!」とコウイチが近寄ってきた。
ヒデオは「カタイ」の死体を「ツメタイ」に投げつけた後、コウイチの能力で「ツメタイ」の背後にワープしたのだった。
「その手どうしたんだ、ヒデオ!怪物にやられたのか?」
コウイチがヒデオの右手を見て心配そうに声を掛けた。「ツメタイ」の頭がマイナス何十度になっていたので、ヒデオの右手はひどい凍傷になっていた。
ヒデオがとてもつらそうな表情をしていたので、コウイチは更に「大丈夫か、ヒデオ?手が痛むのか?」と尋ねた。
「いや、手はハッキリ言って感覚がないから痛くはないんだけど、今倒した怪物どもにすごく怒りを感じていてさ。」
「そりゃそうだよな。俺も怒りを感じているし、当然だよ!こんなにたくさんの人を殺されたんだから!」
「そうなんだよ!こんなにたくさんの人を殺した怪物どもに激しい怒りを感じているんだけど、それと同時に自分自身にも怒りを感じているんだ!」
「自分自身?」
コウイチはヒデオが言ったことの意味が気になり聞き返した。
「俺一人で怪物退治をしていた時に現場にすぐに駆け付けられずに助けられない人が出ることが嫌で、コウイチを口説いて怪物退治をしてきてみんなから『ヒーロー』と呼ばれるようになるまでになった。けれどいまだに怪物の被害にあう人をゼロにすることができないどころか、今日はこんなにたくさんの人を助けられなかった。そんな肩書きに負けている自分にすごく腹が立つんだ。…コウイチ、俺はいつになったら本物の『ヒーロー』になれるんだろう?」
ヒデオの思い描くヒーローの理想が高すぎることにコウイチは驚きながら、怪物の被害がケガ人数人で済めばよしとしていた自分にすごく腹が立った。
「それは分からないな。もしかしたら一生なれないかもしれないけど、俺が手伝うよ!俺はワープすることしか出来ないけど、ヒデオが本物の『ヒーロー』になれるようにずっとサポートするよ!」
「コウイチ…ありがとう。」
慰めにはほとんどなっていなかったかもしれませんが、コウイチの言葉にヒデオは少し怪物退治への活力を取り戻しているようだった。
そこへ「ヒデオさーん!大丈夫ですかー?」と大声を上げて近づいてくる人がいた。ヒデオとコウイチが振り向くと、イトイ・ユイが人形を連れて近づいて来るのが見えた。
「何だ、イトイか?あれ、一緒にいた女の子はどうしたの?」
ヒデオが疑問に思ったことを質問すると、「ああ、あの子だったらここから離れた所にある、うちのグループ会社に預けてきました。安心してください!うちのグループ会社には怪物が現れた時のためにシェルターを作ることを義務付けていますから!あの子はそのシェルターに入れてもらいました。あと、この人形もうちのグループ会社には常備するようにしてあるので、そこから連れてきました。」と肩で息をしながらユイは答えた。
「怪物は倒しちゃったみたいですね。さすがヒデオさん!…あれ、ヒデオさんの右手、なんか変じゃないですか?もしかして怪物にやられたんですか?」
「そうだった!ヒデオ、早く治療してもらわないと!○○病院に行くぞ!病院にオサムくんがいなかったら、オサムくんの家に伺ってでも治療してもらうぞ!」
「ちょっと待って!2人とも落ち着いて!とりあえず病院に行くのは、他に怪物がいないか調べてからじゃないと。もし俺がいなくなった後、この近くでまた怪物が現れたら、『職務怠慢だ!』と批判を受けるかもしれないし。それに幸い負傷したのは右手だけだから、まだ十分戦えるって!ここで治療のために戦線離脱している場合じゃないと俺は思うんだけど。」
「何言ってるんだ!もしお前が完全な状態じゃないまま『ハヤイ』みたいな怪物と戦ったら、今度こそ死ぬかもしれないんだぞ!ここは自衛隊や他の能力をもらった子たちに任せて、すぐに右手を治療すべきだ!」
「そうですよ!ヒデオさん!ここは私に任せて、ヒデオさんは治療に専念してください!」
「でも…。」
ヒデオはコウイチとユイに説得されながらも、まだ納得は出来ていないようだった。そのときコウイチのスマホが鳴り出した。
「ちょっとごめん。」
コウイチはスマホの画面を見ると、みるみる険しい表情になった。そして、険しい表情のままヒデオに向かって「すぐに○○病院にむかうぞ!怪物が現れたらしい!」と伝えました。それを聞いたヒデオの表情も険しくなった。
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